5話 一緒に寝よ
京子さんと美琴と家族になって一ヶ月が経った。
京子さんはお父さんと同様に仕事が忙しく、帰ってくるのは夜九時頃で休日出勤も珍しくない。
まだ、京子さんのことを「お義母さん」と一度も呼べてないけど、京子さん曰く「ゆっくりで良いからいつか呼んで」とのこと。
また、お父さんと京子さんの仲は良くて、休みが合う日などは二人でデートに行っている。
一方、私と美琴はと言うと、
「お義姉ちゃん、一緒に映画観よう!」
「……いいよ」
私達はリビングのソファーに並んで座り、映画をつける。
「……ホラー系?」
「うん! 面白そうだから、お義姉ちゃんと一緒に観ようと思って」
「私……ホラー系苦手」
「大丈夫。私がついてるから! 怖くなったら抱きついてきて良いよ!」
「うぅ……」
私が怯えていると、美琴は照明を消した。
「な、何で……?」
「雰囲気作り!」
映画のストーリーは、電車に乗っていた男女のグループが起きたら、古びた知らない駅に居て、色々な怪奇現象に巻き込まれていく話だった。
***
夜、部屋でベッドに寝転んでいた。
ど、どうしよう……怖くて眠れない。
そして、こういう時に限って、
「トイレ……」
恐る恐るベッドから起き上がり、扉のドアノブに手を伸ばす。
「……」
開けた瞬間、黒い影が……とか、ないよね。
ホラー映画のせいで、そんな想像ばかりしてしまう。
「……やめよう」
うん、トイレに行きたいのは気のせいだ。
ベッドで横になれば忘れて寝られるはず。
ということで、ベッドに入り、目を瞑る。
「……はぁ」
気のせいではなかった。トイレがしたいと身体が訴えかけてくる……!
起き上がり、扉をゆっくりと開ける。
暗い廊下には誰も居ない。
「……」
ゆっくりと周りを警戒しながら歩いていく。
階段を降りて、一階のトイレに辿り着いた。
「ふぅ……」
トイレを済ませて、出ようとすると、
「っ」
二階の方から足音が聞こえてきた。
も、もしかして……お化け……!?
足音は二階から階段へ、階段から一階へとこっちに近づいてくる。
み、見つかったら……殺される!
私はトイレの照明を消して、息を止めた。
足音はトイレの前で止まった。
「っ……」
トイレの扉がゆっくりと開く。
自分の運命を悟り、私は目を閉じた。
「わっ……!? び、びっくりした……!」
その声には聞き覚えがあった。目を開くと、美琴が私の前に立っていた。
「み、美琴……」
「お義姉ちゃん、何してるの? 灯りもつけないで」
「そ、それは……」
お化けだと思ってとは、恥ずかしくて言えない。
「せ、節電……」
「節電ね……」
よく見えないけど、たぶん美琴は笑っているのだろう。
「……おやすみ」
「うん、おやすみー」
私はトイレを出て、自分の部屋に戻ろうとしたが、足がすくみ動けない。
「……」
美琴を待つことにした。
美琴の部屋は私の隣だし、美琴も私が一緒の方が心強いはずだ。
「あれ、お義姉ちゃん、まだいたの?」
「……う、うん。一緒に戻ろうと思って」
「そっか」
私達は一緒に部屋に戻る。
「今度こそ、おやすみ」
「おやすみ」
美琴があくびをしながら自分の部屋に戻ろうとしている。
「……み、美琴」
「ん?」
「その……」
怖いから一緒に居て、とは恥ずかしくて言えない。
「……な、何でもない……」
今日は多分寝れない。毛布で包まりながら長い夜を過ごすことになる。
私は自室に戻ろうとしたが、美琴が私の手を握った。
「ねえ、お義姉ちゃん。一緒に寝よ」
「え?」
「実は映画のせいで、怖くて寝れないんだ」
「……実は私も……」
「おっ、じゃあ一緒に寝よっか」
「うん」
美琴は自分の部屋から枕を持ってくると、私の部屋に入った。
私達はベッドに並んで寝転がる。
ベッドのサイズはシングルだから、一緒だと肩と肩がくっつく。
「お義姉ちゃんが一緒だと眠れそう」
「……私も……」
恐怖心がなくなり、代わりに緊張してきた。
「私さ、ホラー系は好きだけど、夜とか眠れなくなるんだよね」
「……そう」
だったら、観なければ良いのに。けど、それでも観たいてことだろう。
「前なら家で一人で震えてたけど、今は安心」
美琴はそう言うと、私を抱きしめてきた。
「っ……」
「やっぱり、お義姉ちゃんは良い抱き心地」
「わ、私は抱き枕……じゃない」
「抱きしめられるの、嫌?」
「……嫌、ではない」
ただ、すごく緊張する。
美琴の体温と鼓動が伝わってくる。
良い匂いもするし……。
「お義姉ちゃんは可愛いよね」
「別に……可愛くない」
「もう、そんなこと言わないの」
美琴が私の頭を撫でる。
子供扱いされている気がする。
「も、モテたことないし……」
「それはお義姉ちゃんの魅力に誰も気づいてないだけ」
「……美琴はモテそう」
「私? まあ、私は最高に可愛いから」
「……」
美琴は自分に自信があるな。羨ましい。
「……」
瞼が重くなってきた。
美琴と話してリラックスしたおかげで、眠れそうだ。