4話 一緒にお風呂
土曜日。美琴と京子さんが引っ越してきた。
「今日からお世話になります」
「お世話になります!」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
挨拶を済ませて、夕食は出前を取った。
お金は全てお父さん持ちで「好きなものを頼め」となかなかの太っ腹だ。
よほど嬉しいのか、珍しくお酒を飲んでいた。
夕食を食べ終え、お風呂に入ろうと、脱衣所で服を脱いでいると、扉が開いた。
「え……?」
「一緒に入ろ!」
美琴は中に入ってくると、扉を閉める。
私は慌ててしゃがんで身体を隠した。
「ど、どうして……!?」
「一緒に入ろうと思って」
「っ……」
突然のことに頭が回らない。
そんな私にお構いなしに美琴は服を脱ぎ始める。
「わ、私……後で入る……!」
洗濯機に入れた服を取り出そうとすると、美琴に手を掴まれた。
「まあまあ、落ち着いて。裸の付き合いでもして、姉妹仲を深めようよ!」
「うぅ……でも……」
誰かに裸を見られるなんて恥ずかしいし、一緒にお風呂に入るなんてもっと恥ずかしい。
「お義姉ちゃん! 女は度胸だよ! さあさあ!」
いつの間にか脱ぎ終わった美琴に背中を押させれて、浴室へ押し込まれる。
「お義姉ちゃん! 座って! 髪洗ってあげる!」
「……じ、自分でする……!」
「ダメ。私がしたいの!」
「っ」
押し切られる形で私は椅子に座った。
美琴は私の髪にシャワーをかける。
「お客様、温度は大丈夫ですか?」
「……だ、大丈夫」
「ふふ」
シャワーを終えると、美琴は私の髪にシャンプーをつけ、洗いはじめた。
人に洗われる経験なんてないから、すごく恥ずかしい。
「お義姉ちゃんの髪って……結構クセ強いね」
「……うん」
美琴の言う通りだ。
寝癖が酷い時は、アフロみたいになるし、梅雨の時期は地獄だ。
「でも、もこもこして可愛い!」
「っ……」
可愛いなんて言われ慣れていないので、顔が熱くなる。
「じゃあ、流すね」
目を瞑ると、美琴がシャワーで洗い流していく。
「次は身体ね!」
「そ、それは……自分でやるから!」
手で身体を隠す。
「えー」
思わず美琴を睨むと、美琴は立ち上がった。
「まあ、身体は諦めますか! その代わり、私の頭を洗って!」
「……わかった」
「やった」
私が立ち上がると、美琴が椅子に座った。
私は美琴の髪にゆっくりと触れる。
私とは違い、サラサラとした触り心地。癖になりそう。
「くすぐったいよ」
「っ……ごめん」
慌てて手を離した。
「もしかして、気に入った?」
「……す、少しだけ」
図星を突かれて、恥ずかしくなった私はシャワーの蛇口を捻る。
「冷たっ!?」
「あっ……」
しまった……! 水だった……!
慌てて水シャワーを美琴から自分に向ける。
「ひゃっ……」
シャワーが手から落ちる。
美琴が蛇口を捻り、シャワーを止めた。
「もう、お義姉ちゃんは慌てん坊だね」
「……ご、ごめん」
「風邪引くし、お風呂入ろう」
美琴は湯船に入る。少し戸惑ったが対面に入ろうとすると、美琴が腕を広げた。
「ほら、ここにおいで!」
「……」
私は美琴の足と足の間に入る。美琴が後ろから抱きしめてきた。
「っ……」
緊張して身体が強張ると、美琴が耳元で囁いた。
「お義姉ちゃん……結構、人見知りするでしょ?」
「……うん」
「今も緊張してる?」
「……し、してる……」
「そっか」
美琴は少し間を開けた後、言葉を続けた。
「実は私も緊張してる」
「え……?」
「嘘だと思ったでしょ」
「……うん」
美琴は誰とでも仲良くできる陽キャで、緊張なんてしないものだと思ってた。
「新しい家族ができるんだよ。うまくできなかったら、怖い人だったらとか考えたら、不安になったり、緊張したりするでしょ?」
「……そうだね」
美琴も私と同じ気持ちだったのか。そう思うと親近感が湧いてきた。
「でも、新しい家族がお義姉ちゃんで良かった」
「っ……」
「お義姉ちゃんはどう? 新しい義妹が私で良かった?」
「……わからない」
私は言葉を続けた。
「私は……あんまり人と話したことないから……美琴が義妹で良いかなんてわからない……」
「そっか」
そう話す美琴の声に元気がない。
嘘でも「良かった」と言った方が……と、後悔していると、
「じゃあ、これからはお互いに知っていこう。そして、仲良くなっていけば良いよ」
「美琴……」
「よろしく、お義姉ちゃん」
「よろしく……美琴」
少しではあるけど、美琴との距離が近づいた。
最初は怖い印象だったけど、今では少し居心地が良いかも。
「くんくん」
「っ……」
「ごめん、いい匂いだったから」
「もう……」
まあ、この距離感の近さは、困るけど。