17話 美琴の着替え
恋を諦めるのがこんなに辛いなんて。
美琴のことが頭から離れない。
一つ一つの仕草、笑った顔、抱きしめられた時の体温。
「……はぁ」
ため息を吐くと目から涙が溢れて来た。
「もう、ダメなのに……!」
これじゃ、美琴に怪しまれる。
あの時は騙せたけど、次も騙せるとは限らない。
「美琴のお義姉ちゃん、なのに……」
このままだと、義姉として接するなんてできない。
美琴と一緒にいれば、またボロを出してしまう。
だから、私は美琴と距離を置くことにした。
朝、美琴と一緒に登校しながら、私は口を開いた。
「美琴」
「なに?」
美琴が首を傾げる。髪がさらりと揺れて思わず目で追ってしまった。
「お義姉ちゃん?」
「あ……その……今日から昼休みと放課後、テスト勉強したいから……一緒に過ごせない」
「……そっか……テスト近いもんね。私も勉強しないと」
美琴はしゅんと悲しげな表情を浮かべた。
「っ……」
罪悪感に胸を押しつぶされそうになるが、唇を噛み締めて耐えた。
テストまでは二週間。
それまでは美琴を避ける口実ができた。
放課後、学校の図書室にて。
テストが近いためか、いつもなら空いている図書室であったが、生徒が多く勉強をしていた。それでも、座れないほどではない。
私は空いている席に座ると、教科書とノートを広げた。
まあ、毎日少しずつだけど、勉強はしてるからテスト前にわざわざやる必要はない。
「はぁ……」
ダメ……集中できない。
ノートの端に「美琴」と書いてみる。
ついでにぐるぐると囲うように丸を描く。
「……」
私は何をしてるんだ……!
ノートに書いた「美琴」を二重線で消す。そして、教科書に目を通した。
***
放課後の勉強が終わり家に帰ると、玄関に美琴の靴がなかった。おそらく美琴は出掛けたのだろう。家には私一人。
自室に入ろうと、扉に手をかけて、立ち止まった。
「……」
足が自然に美琴の部屋に向く。扉に手を伸ばした。
「いや……」
うん、ダメでしょ。
伸ばした手を引っ込めて、足早に美琴の部屋から離れる。
「……」
足を止めて、もう一度美琴の部屋の前へ。
「少しだけなら……」
恐る恐る扉を開けて中に入る。
部屋にはハンガーに掛かった制服があった。家に帰ってから出掛けて行ったんだろう。
私は美琴の制服を手に取る。ごくりと唾を飲み込み、覚悟を決めた。
「美琴……!」
私は美琴の制服に顔を埋める。消臭剤と美琴の匂いがする。
制服に顔を埋めたまま、ベッドにダイブした。
そのままごろごろと転がってみた。
「はぁ……」
至福の時だった。
ガチャリと鍵が開錠される音と、扉が開く音が聞こえた。
「っ……」
「ただいま! お義姉ちゃん!」
家に響く美琴の声。
「帰ってきた……!」
慌てて自室に戻ろうとして、私は足を止めた。
乱れたベッドと制服。
このままにして、自室に戻るわけにはいかない。
「急げ……」
私は必死に元通りにする。階段を上がってくる足音が聞こえた。これじゃ、自室に戻るのは無理だ。
私は辺りを見回した後、押し入れに身を隠した。
「ただいま……あれ?」
隣の私の部屋から、美琴の声がした。
「お義姉ちゃん、どこ?」
美琴の足音が聞こえ、扉の開く音が聞こえた。
隙間から覗くと、美琴が部屋に入って来た。
「……」
絶対、バレないようにしないと。
美琴は部屋に入って来ても、特に怪しむ様子はない。
制服とベッドはどうにかなったようだ。
一安心していると、美琴が服を脱ぎ始めた。
「っ……」
思わず声が出そうになり、口に手を当てて堪える。
美琴の生着替え……!
見たいと言う変態的な欲求に駆られるが、私はギュッと目を瞑って耐えた。
「……っ」
衣服を脱ぐ音が聞こえてくる。
視覚を遮ったせいか、それは鮮明に聞こえた。
脳裏に美琴の下着姿が浮かぶ。
少しだけなら……!
目を開けて、ゆっくりと隙間から覗き込む。
「……」
ギリギリ見えない……!
襖に手を伸ばして、音を立てないように慎重に襖を引く。
「……っ」
すでに美琴はTシャツに黒いショートパンツのラフな格好へ着替え終わっていた。
残念と思いながらも、どこか安心していた。
美琴が部屋から出ていく。階段を降りていく足音が聞こえた。
「ふぅ……」
安堵した私は襖を引く。
そして、美琴の部屋から脱出して、自室へ入る。
「危なかった……」
私はいつの間にこんなに大胆になった……?
もし、美琴に見つかっていたら……?
義妹の部屋に隠れて侵入し、着替えを覗く義姉もとい変態。
ドン引き必須な犯罪行為だ。
「自重しないと……」
私はベッドに寝転がり、目を閉じた。