14話 気づいた想い
夏休みが終わり、新学期が始まった。
「はぁ……」
正直、夏休みの気分が抜けないし、夜更かしもしたい。朝はお昼過ぎに起きて、スマホでネット小説を読む。
そんなダラダラライフを羨望しながら、移動教室のため、廊下を歩いていた。
「ん……」
視界の端に、見覚えのある二人の背中。
美琴と里美だ。
階段を上がっていく。この先には屋上しかない。
「……」
もしかして、サボり? それか、何かある……?
興味がそそられて、こっそりと後を追う。
屋上の扉がわずかに開いていた。
隙間から屋上を覗き込む。
「っ……」
私は思わず尻餅をついた。
え? う、嘘だよね……?
私はどうにか身体を動かして、もう一度隙間から屋上を覗き込んだ。
「っ……!?」
屋上では美琴と里美が抱き合い、キスをしていた。
フレンチキスのような軽いものではなく、大人がするような欲望に駆られたキスだ。
「あ……」
目から涙が溢れた。
嫌だ……! これ以上は、見たくない……!
慌てて、立ち上がり、その場を去る。
「あ……」
廊下を走っていると、転んでしまった。
膝から血が滲む。
私は痛みを我慢しながら、必死に歩いた。
「そっか……」
私は美琴のことが好きなんだ。
それから、初めて学校をサボり私は自室のベッドに身を投げた。
「……」
美琴と里美のキスの光景が脳裏に浮かぶ。
枕を何度も殴りつけるけど、光景が頭から離れない。
「っ……」
ゴンと鈍い音と同時に、拳に痛みが走った。
枕から外れて、ベッドボード殴ったみたいだ。
拳の皮が剥けていた。
「もう、嫌だ……」
枕に顔を埋める。
美琴が好きだけど、諦めないといけない。
美琴は私の義妹で、里美と付き合っている。
「最悪……」
初恋がすでに詰んでいるなんて。
まあ、仮に美琴に付き合っている人がいなくても、私には高嶺の花だ。
***
気がつくと、窓から夕陽が差し、部屋がオレンジ色になっていた。
「どうしよう……」
美琴とは毎日、顔を合わせる。
これから、やっていく自信なんて微塵もない。
でも、義姉として接しないといけない。
「っ……」
玄関の扉が開く音が聞こえた。
美琴が帰ってきた……!
私は毛布にくるまる。
「お義姉ちゃん、ただいま」
美琴が部屋の扉を開けた。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫……昼寝してただけ……」
「そっか、今日の夕食は何がいい?」
「……なんでもいい」
「なんでもかぁ……」
美琴が腕を組み、首を傾げる。
「わかった。じゃあ、今日はカレーにするね!」
「……うん」
美琴は部屋から出ていく。
「はぁ……」
扉が閉まり、美琴が見えなくなった後、私はため息を吐いた。
普通に話せてたよね……?
夕食を食べ終え、食器を一緒に洗う。
正直、カレーの味なんてわからなかった。
「あっ……」
皿が滑り、落ちる。
「よっ」
床に落ちそうな皿を美琴が途中でキャッチした。
「……ありがとう」
「お義姉ちゃんが、皿落とすなんて珍しいね」
「……そ、そう……」
いけない、平常心だ……!
と、集中して皿洗いを再開する。
「お義姉ちゃん」
美琴は私の頬に触れた。
「え……」
美琴の手が私の頬に……!
「泡、ついてたよ」
拭ってくれた美琴を見て、私の心臓が高鳴った。
同時に、持っていたコップが手から滑り落ち、割れてしまった。
「あぁ……!」
美琴がコップを見て、崩れ落ちていた。
ピンク色の花柄のコップで、美琴のお気に入りだった。
「ご、ごめん……」
最低だ……!
「……しかたないよ。それより、お義姉ちゃんは怪我してない?」
「……だ、大丈夫」
「よかった」
美琴が私の手を握って、笑った。
「塵取り持ってくるから、触っちゃダメだよ」
「うん……」
美琴が台所から出ていく。
「はぁ……」
私は何をやってるんだ。
自分に嫌気が差す。
美琴が塵取りを持ってきて、割れたコップを一緒に片付ける。
「美琴」
「なに?」
「今度の……休みに、一緒に新しいコップ、買いに行こ」
「……」
そう誘うと、美琴がキョトンとした表情を浮かべた。
あれ? おかしなこと言った?
「……美琴?」
「あ、ごめん。お義姉ちゃんから、お出掛けに誘われるなんて、珍しいと思って。驚いちゃった」
「そ、そうかも……」
思い返してみれば遊びに誘うのはいつも美琴からだ。
もしかしたら、初めて誘ったかもしれない。
「それじゃ、今度のお休みはお義姉ちゃんとデートだね!」
「デ、デート……!?」
「うん、デートだよ! ちゃんとオシャレしてエスコートよろしくね!」
デートて、美琴には里美がいるのに……!
それに、オシャレとエスコート……!
私には縁がないことだった。
「えーと……」
やっぱり辞めようと、小心者な私は伝えようとした。
「ふふ、楽しみ……」
そう言って笑う美琴の表情を見て、言葉をグッと堪えた。




