11話 水鉄砲
「まずは撃って撃って撃ちまくって、里美をパラソルから出せなくするの。その後に、コイツを投げ込む」
「これって……水風船?」
「そうだよ、これを投げ込まれたら、気付かずに食らうか、避けるためにパラソルを出るしない。出た場合は、私達二人で仕留めるの。どう、完璧でしょ!」
「……」
水鉄砲の勝負に、水風船を使うなんて、卑怯な気がする。
「じゃあ、スタート!」
美琴は開始を宣言すると同時に、水鉄砲を撃ちまくる。私も慌てて、撃ち始めた。
「わっ……」
慌てて顔を引っ込めると、顔を出していたところに水が通り過ぎる。
「流石里美……二対一なのに、正確に狙ってくる……!」
「ど、どうしよう……」
「大丈夫。作戦通り行くよ。お義姉ちゃんは当たらなくても良いから撃ちまくって、あ、くらわないようにね!」
「……うん」
私が撃ちまくると、美琴が水風船を投げた。
美琴が投げた水風船は三つで、山なりにパラソルに向かって飛んでいく。
二つはパラソルの手前に落ちて割れて、一つはパラソルの陰に落ちる。
「やった!」
美琴はガッツポーズをとる。
卑怯な戦法だったけど、勝てたしいいかな。
それから、しばらく待つけど里美から「負けた」の宣言がない。
「……あれ? おかしい……」
美琴が首を傾げる。
「……そもそも、降参しないと負けないんじゃ……」
「確かにそうだけど……里美だったら、くらったら負けを認めるし……」
ふと、パラソルの方に目をやると、パラソルの陰から何かが飛んでくる。
「あっ……まさか……!」
美琴は私を押し倒して、覆い被さる。
次の瞬間、飛んできたそれは割れて、水を撒き散らした。
「水風船……」
「あー、里美め……キャッチしてたな……もう、悔しい!」
美琴は立ち上がり手を上げた。
「里美、私は降参!」
「了解」
「お義姉ちゃん、後は任せた!」
「え?」
美琴は窓際に座った。
どうやら、私と里美との戦いを見届けるらしい。
てか、私に勝ち目ないよ……!
里美はパラソルから出てくる。
あれ? もしかして、勝負終わったと思ってる? これは勝機じゃ……?
そう思い、テーブルの陰から顔を出す。
「っ……」
違う……!
里美は両手に一丁ずつ水鉄砲を持ち、ゆっくりとこっちに近づいてくる。
私は水鉄砲を撃ちまくるが、里美には一発も当たらない。
「……あ」
しまった。弾切れだ……!
慌てて補充するが、ふと影が落とした。
振り返ると、里美が立っていた。
里美は私の顔に銃口を向けて、引き金を引いた。
「……」
顔に水がかかる。冷たい。
「……負けました」
「ウィナー」
水鉄砲の勝負は里美の勝利だった。
「悔しい……! もう一回やろう!」
「いいよ。何度でも受けて立つ」
「……」
ということで二回戦目。
「次の作戦はこっちから攻め込むの! 私が水風船を投げる。そしたら、私達がテーブルの左右から飛び出してどっちかが撃たれた時に、里美を撃つ!」
「……わ、わかった」
作戦会議は終了して、試合がスタートした。
美琴が水風船を山なりに投げ込む。
「今!」
私と美琴がテーブルの陰から飛び出した。
パラソルから顔を出した里美が美琴に何かを投げつける。
「っ……」
美琴は顔面に水風船をくらっていた。
「鼻に水が……!」
と、美琴が苦しんでいるけど、止まっている場合じゃない!
里美に向かって水鉄砲を撃とうとするが、里美の姿がない。
「あれ……?」
「ここ」
いつの間にか私の横に立っていて、水鉄砲を顔に撃たれた。
二回戦目も里美の勝利だ。
「もう一回! もう一回勝負!」
「いいよ」
ということで三回戦目。
「作戦がない……」
どうやら、美琴の作が尽きたようだ。
「ということで気合いで勝とう! お義姉ちゃん!」
「え? うん」
気合いで勝てるのかな?
三回戦目がスタートした。
「なっ……?」
「っ……」
里美はパラソルの陰から出ると、ゆっくりと私達に近づいてくる。
「舐められてものね! お義姉ちゃん! 仕留めるよ!」
「……うん」
私達は里美に向かって水鉄砲を撃つ。
里美は余裕でかわしたり、水鉄砲を撃って相殺していた。
人間業じゃない……!
「しまった……! 弾切れ!」
「あ、私も……!」
里美がこっちに向かって走ってくる。
美琴が水風船を投げるが、あっさりとかわされた。
里美はテーブルの前で高く飛ぶ、空中で水鉄砲を撃つと、私達の水鉄砲を撃ち落とした。
里美は私達を飛び越えて、後ろに着地する。
「っ……」
このままだと、負ける……!
「やあっ……!」
私は抱きついて、里美の動きを止めようとした。
私はやられるけど、後は任せた……!
「よっと」
「あっ……」
里美にあっさりと避けられたと思った瞬間、手に何かを掴んだ。
「ん……?」
手を開くと、それは黒色のビキニだった。
ギギギ、と壊れた機械のように振り返ると、上半身が裸の里美が立っていた。
「あ……ご、ごめんな」
「隙あり!」
美琴は至近距離から水風船を投げるが、里美は避けて、水鉄砲でヘッドショットを決める。
「無念……」
美琴が倒れた。
里美は私に一歩近づく。
「ひっ……」
絶対に怒ってる……!
と、怯えていると、顔に水がかけられた。
「はい、私の勝ち」
「……あれ?」
里美の顔を見るが、怒っている様子はなかった。
「みかん先輩、水着返してください」
「あ、うん……」
私は水着を返す。
「その怒ってないの……?」
「怒る? ああ、事故なら仕方ないです」
「そっか」
私は安堵する。
「もう、勝てたと思ったのに……!」
「私に勝つには千年早い」
それから、美琴は何度も里美に挑んでいた。
私は疲れたから休むことにした。
「もう、里美強すぎ……!」
「私は最強」
美琴は里美に一回も勝てなかったようだ。
「あ、そうだ!」
美琴はリビングからスマホを持ってくると、私の隣に座った。
「ねえ、お義姉ちゃん!」
なんだろう。すごく嫌な予感がする。
「プールの約束覚えてる? 写真を撮らしてくれるって」
「……記憶にない」
確かに美琴は言っていたが、私は承諾していなかった。
「嘘だね。顔に出てるよ」
「……」
どうやら、美琴からは逃げられないみたいだ。
里美に視線で「助けて」と訴えかけるが、プールでプカプカと気持ちよさそうに浮いていた。
「お義姉ちゃん、大丈夫だよ。誰にも見せないし、可愛く撮ってあげるからね」
「いや、そういうのは……若い女子高生同士で」
「お義姉ちゃんも、女子高生だよ!」
「……」
美琴が私にスマホを向ける。
私は諦めて、受け入れたのであった。