10話 南国の海(庭で!)
「お義姉ちゃん! 明日、暇?」
「……特に予定はない」
ゲームをして、アニメを観るくらいだ。
「明日は私とお義姉ちゃんと里美で、パーティーをします!」
「パーティー……? 何するの?」
「それは明日のお楽しみ!」
ということで翌日、私が起きると、
「お……」
庭にはビニールプールやビーチチェア、パラソルやテーブルなどが設置されていて、まるで海にいるようだった。
「おはよう、お義姉ちゃん!」
「おは、っ……!」
私は美琴の姿を見て、固まった。
美琴は家の中で水着を着ていた。
「さあ、お義姉ちゃんも着替えて!」
「え……?」
美琴が持っていたのは、以前プールできた可愛らしい水着だった。
「どうして……」
「いいお義姉ちゃん! ここは南国の海! 燦々と降り注ぐ太陽! 心地よい波の音! ほら、聞こえてくるでしょ!」
「そんなわけ……あれ?」
ザー、ザーと波の音が聞こえてきた。
私の家はいつから南国の海になったんだ……?
「おはようございます、みかん先輩」
「……おはよう、里美」
台所から現れた里美も水着だった。
「手に持ってるの……なに?」
「ザルと小豆です。波担当だから」
「……」
里美がザルを傾けると、ザーと音が鳴った。
私はリビングを出て、自室で水着に着替える。
髪をそのままにしてリビングに行ったら、美琴にツインテールにされてしまった。
「……」
ツインテールは苦手だ。
私の勝手な偏見だけど、ツインテールは自分のことを可愛いと自信を持っている女の子と、幼い女の子がする髪型だと思っている。
「お義姉ちゃんには、ツインテールが似合うね!」
「……そ、そう……?」
そう言われると、悪い気はしない。
ツインテールを一房手に取り、毛先を弄る。
「みかん先輩は、見た目が幼いので、私も可愛いと思う」
「そうそう! お義姉ちゃんは幼くて可愛い!」
「……」
美琴は私を抱きしめる。
嬉しそうな美琴とは反対に私は機嫌が斜めになった。
「……美琴よりも、年上なのに……」
「ご、ごめんね、お義姉ちゃん!」
美琴が頭を下げる。
しばしの沈黙の後、私のお腹が鳴った。
そう言えば、朝ごはんがまだだった。
「お義姉ちゃん、美味しいご飯作ったけど食べる?」
「……食べる」
「じゃあ、庭で待ってて」
「うん」
庭に出てビーチチェアに座る。
悪くないかも。
青空を眺めながら、そう思っていると、ザーと波の音が聞こえてきた。
横を見ると、里美がザルを傾けていた。
「……もうやめても、いいよ」
「結構、楽しい」
「……」
まあ、本人が楽しんでるなら。
「お待たせ!」
美琴がテーブルに置いたのは、ロコモコ丼だった。
寝起きではキツいけど、美味しそうだ。
「いただきます」
私はスプーンを手に取り、一口食べる。
「どう?」
「……美味しい」
「よかった、これもどうぞ」
美琴がテーブルに置いたのはパイナップルのジュースだった。
「ありがとう」
「あ、これは里美のね」
里美のロコモコ丼は山盛りだった。
私の倍以上はある。
「里美……よく食べる」
「うん、美味しいものはいくらでも食べれる」
「里美は昔からよく食べるよね。いつも大盛り食べてるし……それでもスタイルいいよね」
「……私は太らない体質だから」
「羨ましい」
美琴は里美を睨む。里美は気にせずにロコモコ丼を食べていた。
そんな中、私の視線は里美の一点に向けられていた。
「……」
いくら食べても太らない。スタイルがいい。
もしかして、全ての栄養は豊かな胸にいってるんじゃないか。
私もたくさん食べたら……あの胸を手に入れられる……!
「……美琴」
「なに、お義姉ちゃん」
「ロコモコ丼……おかわりある?」
「ごめん、おかわりはないよ。でも、お義姉ちゃんがおかわりなんて珍しいね!」
「……うん、お腹空いて」
「そっか。ロコモコ丼はないけど、他にも食べ物用意してるから、それでもいい?」
「……うん」
さあ、食べて食べて食べまくる……!
美琴が用意したのはスイカだった。
里美のだけ大きく一玉の半分だった。
私もあれだけの量を食えれば……まあ、無理だけど。
「……」
ということで、普通に切り分けてもらったスイカを食べる。
食事を終えると、満腹のせいか少し眠くなってきた。
「ご飯の次は思いっきり遊ぼう!」
「おー」
引きこもりの私とは違い、美琴と里美は元気がある。
そう言えば遊ぶって何やるんだろう?
ビニールプールは泳げるほど広くはないし、庭なのでゲームとかも出来ない。
美琴がダンボールから水鉄砲を取り出した。
「さあ、勝負の時間だよ!」
美琴と里美はパラソルやテーブルを倒したりしていた。おそらく、障害物の代わりだろう。
「私とお義姉ちゃんチームで、里美は一人ね」
「了解」
「……」
「ルールは簡単、降参したら負け! 以上!」
結構、大雑把なルールだ。
「じゃあ、スタート位置について」
私達は倒したテーブルの陰に隠れる。近くには水の入ったバケツが置いてある。
私達と里美との間にある障害物は、テーブル、ビニールプール、パラソルだ。
里美はパラソルの陰からのスタートになる。
「お義姉ちゃん」
「ん?」
「里美は強敵だから、一緒に頑張ろうね」
「うん……」
里美の運動神経はいい。
成人男性を空に飛ばすくらいだ。
「……」
負ける未来しか見えない。
「大丈夫」
美琴は私の肩に手を置いた。
「作戦があるから」
そう言って美琴は笑った。