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なんだか胸の奥でモヤっと

「……真紘社長」

「何?」

「私は……その……」

「今、答えを求めているわけじゃないよ。俺と一緒にいる未来を少し考えてみてほしい」


 真紘は、戸惑う私に視線を合わせる。その視線は強く、自信に満ちていて、私は委縮してしまう。普段なら、感じたことのない私の気持ちの変化に、どう答えたらいいのかもわからない。

 徹と真紘の三人で顔を合わせているときのとても穏やかな表情をしている真紘とは大きく離れていた。


「でも、婚約者……薫さんがいますよね?」

「それは、今から話すけど、婚約はなかったことにする。あちらも親が大手の企業の社長なら……こちらも、それなりに大きな会社の跡取りだかね。考えはあるだ」

「考えですか?」

「そう。だから、杉崎さんは、薫のことを気にしなくていい」


 数歩の距離を詰めてくる真紘にそっと頬を撫でられた。驚きはしたが、拒絶するほどでもない。考えることができて、どうやら眉間に皺が寄っているらしい。眉間に人差し指をあてられて「皺よってる」と笑うので、「禁句です!」と反論した。

 風が出てきて肌寒くなってきたので車へと戻る。突然、薫の話を聞くことになった私はそのまま流されるように食事へと誘われた。


 ……考えても仕方がない。どうするかは、私の心が決めてくれる。


 真紘に誘われ食事へ行けば、静かな場所で二人きりだ。お酒はお互い飲まないということで、美味しい料理を食べながら話を聞く。

 どうやら、真紘にとって、薫は本当に大学後輩というだけのようで、どちらかといえば、透との方が付き合いが長いらしい。面倒見のいい透のことだから、薫の世話をあれこれとやいていたに違いない。そこには、恋愛感情が含まれての下心があったようで、なんだか胸の奥でモヤっとしてしまった。

 今の私に対する透を考えると、私への世話は、手のかかる後輩へのそれだと思うと、複雑な気分になる。首を傾げていると、「どうしたの?」と聞いてくる真紘に「料理の隠し味は何かな? って思って」と適当に誤魔化してしまった。


「薫さんは、どうして真紘社長と婚約をしようとしたのですか?」

「薫は肩書が欲しい……そういう子かな?」

「社長夫人みたいな? でも、それって……社長でも叶いますよね? むしろ、社長の方が……」

「御曹司だな。俺なんか側にも寄れないくらい世界規模で。今の会社も、学生企業したもんだから、透の道楽だろうって言われるくらいだった」


 苦笑いする真紘を睨むと「悪気はない」という。透の頑張りは、真紘が誰よりも知っているだろう。

 透の本当の苗字を出せば、その恩恵にあやかりたくて媚を売ってくるものが多い中、自分だけの力で会社を大きくしたいと苗字を遠縁の親戚のものに変えてまで躍起になっていることを透の側に仕えてから嫌というほど知った。私がこの会社に入ったのも、たまたま内定をもらえたから入っただけではあったが、「社長の頑張りに応えたい」と自らも勉強を重ね、今の社長秘書という地位を確立している。一時期あった噂の真偽は誰も何も言わないのは、私も透も仕事に対して真摯に向き合っていることを社員が知っているから、プライベートなことには口を出さないということだろう。


「それじゃあ、うちの社長ではなく、真紘社長を選んでいるということは、薫さんは肩書ではなく、真紘社長に本当に惹かれているんじゃないですか?」

「そうは思えないんだよ。薫はね、俺に言ったんだ。結婚してあげるって。父の会社をもっと大きくして、私を楽に生活させてって。実際、婚約をするにあたっては、うちの母親に取り入ったらしい。お嬢様特有の考え方なのかはわからないけど、出会った当初から、薫は肩書が好きだったよ。ミスコンの優勝者とか何かの優秀者とか。そんなことのために、俺は結婚をしないといけないのか? 人生の伴侶を選ぶ理由がそれか……って。そりゃ、薫も悪気があったわけではないと思うんだけどね」


 真紘からしたら、薫との婚約は、面倒がかかる妹の我儘とでもとらえているのだろう。私から見た薫はそうではなかった。実際に真紘にはそういったのかもしれないが、本当に真紘を好きなのだろう。現代の日本では、自由恋愛の多い中、なかなかビジネス婚を聞くことは少ない。ただ、ないわけではないことを社長秘書になってから知った。

 お金持ちに生まれた宿命というものだろうか。一部では、家柄重視として、そういう結婚の形も残っているらしい。


 一方通行な恋の辛さは、私にも身に覚えがあった。

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