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Yesか、はいか、よろしくか  作者: 悠月 星花


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12/16

なんか違うと思い始めたんだよなぁ

 美容院から解放された私は着られているドレスを見ながら苦笑いする。夕方からあるパーティーなので、夜に向けてゆっくり空の色も移り変わっていく。


「お待たせ!」


 自分でタクシーに乗って会場まで行くと透に言ったのだが、「強制参加させたから」と迎えに来てくれた。いつものSUV車ではなく、私の装いに配慮してくれているらしく、セダンに乗り込む。


「ごめんな、待った?」

「いえ、ちょうど終わったところです」

「それじゃあ、会場へ行きますか」

「……はい」


 車に乗って、会場までは交通状況を踏まえ約30分ほどだ。いつもと違う私たちの衣装に、緊張してしまう。透は、いつものようにスーツを着てはいるが、どことなくいつもとは違う雰囲気を感じ取った。助手席に座ってからというもの、隣をチラチラと窺ってしまう。


「何々? 俺に見ほれた?」

「……そういうわけじゃないですけど、なんていうか、いつもと変わらない社長なはずなのに、いつもと違う感じがするんです」

「あぁ、そういうことね」


 透は、いつもと違うところを1つ2つと上げていく。それを聞いて、納得したが、それくらいのことで? と、内心思った。


 ……確かに言われてみたら、香水が違うし、髪型が違うけど……ここまで、印象って変わるものかしら?


 普段から、スーツだけでなく、小物にも気を配っている透ではあるが、少し違うというだけで、見違えるように変わっていることで、一気に男らしくなる。いつもは、ふざけていることが多いので、余計にそのギャップが私からの印象となったのかもしれない。


「ところで、今日は、社長ではなく……透って呼んで。俺も杉崎じゃなくて優香って呼ぶから」

「……いきなり、下の名前ですか?」

「抵抗ある?」


 からかうような声で私を挑発する透に「全然です」と笑い返す。さっきから、平静を装ってはいるものの、透から目が離せなくなっていることは、口にはしない。


 ……本当に、私をからかうのが好きなんだから困るなぁ。名前で呼び合ったら、本当に恋人みたいじゃない。


「今日は離れないで側にいて。いろんな人が近づいてくるけど、優香ならうまく切り抜けられるだろう」

「ちなみに私はどうして呼ばれたのですか?」


 ちらっと私の方を見て笑うので、きっと、私にとっていい話ではないことはわかる。


「んー結婚の押し売り避け?」

「……嬉しくないです」

「特別手当出すからさ。今日くらいは、恋人として、俺に自慢させてよ。まぁ、本当にパートナーになってくれてもいいけど」

「……公私ともにですか?」


「そうだね」と笑いながらいう透。いつもはこんなことを言わないのに、今日はというより、あの電話の日から、なんだかおかしい気がした。


「知っていますよね、真紘社長のこと」

「まぁね? でも、まだ、真紘には付き合うとは返事をしていないんだろう? 長年連れ添った仲なんだし、そういう始まりもいいんじゃない?」


 透の本当なのか冗談なのかわからない言い方に返事をしかねて、「冗談辞めてくださいよ」と濁しておく。真紘から聞いていたとおり、薫のことを好きだと思っていた私は透からそんな話を切り出されるなんて微塵も思っていなかった。


 ……社長と一緒にいるのは、確かに苦ではないんだ。今も公私ともにと冗談なのかわからないけど、パートナーにと思われているんだったら、それはそれでいいのかもしれないな。周りはそのまま騙せるってことなのかな?

 でも、気になることは……やっぱり。


「薫さんはいいんですか?」


 ふと気になって、透に聞いてみる。すると、思っても見なかった名が出てきたことに驚いたらしく、信号で止まるブレーキがギュっと踏み込まれ、かくんとなった。


「なんで、いきなり薫?」

「社長は……」

「透ね? 真紘が言うように、俺は薫が好きだって、優香は思ってた?」

「……その、透さんは違うんですか?」


 信号が青になったので、車が進み始める。苦笑いをしながら、「そうだな」と呟く透。


「まぁ、学生のときには? そういうときもあったし、真紘と婚約したって聞いたときは、まぁまぁショックではあったけど、なんか違うと思い始めたんだよなぁ」


 ……なんか違う? どういうこと?


 普段、プライベートな話をあまりしない透ではあるが、今なら、何でも話してくれそうだったので、私は、話の先を促してみることにした。

 そんな私の見え透いた魂胆は、長年一緒に働いてきた透なら気が付く。うまくかわしてしまわれそうだ。


「今日のところは、薫のことはおいといて。会場に着いたからさ。頼むよ? 優香」


 ホテルの玄関に車を横づけし、降りていく透。私は追いかけなくてはと慌てて降りようとするが、着ているドレスが邪魔をする。


「慌てなくていいよ。今日は俺が終始エスコートするから」


 スマートにドアを開けて、私に「手を」と差し出してくる透に「ありがとうございます」と手を取った。まるで、どこかのご令嬢にでもなったかのような気分にさせてくれる。


「普段とは、全然違いますね?」

「そりゃそうだ。こういうところには、それなりの準備が必要だからね」

「そういうことは早く言ってください! 私、何も……」


 クスっと笑う透を睨んだら、「大丈夫」と返ってくる。何が大丈夫なんだろうと思えば「俺がいるから」と、わりと頼もしい言葉を言ってくれる。いつもの雰囲気は消え去り、知らない男性になった透にドキッとした。

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