間奏
香菜と浩二とアルカネット
香菜の跡を追うように体育館から出た。
俺の心の中はぽっかり穴が空いたようで、それでいて何かが溢れ出てきそうで、言葉にはできない感情が絡まり合っていた。
「しょっぱいな。」
その日の汗は、いつもと違う味がした。
次の日から、香菜は練習に顔を出さなくなった。でも、やることは変わらない。チーム練習からのひたすら自主練。俺は才能で成り上がったような他のスタメンとは違う。彼らの数倍努力してやっと同じ土俵に立てるくらいの差がそこにはあった。
香菜が来なくなってから、より激しい自主練が続いた。あの日の出来事を思い出す暇すらないほどに。いや違う、むしろ忘れようとしていただけなのかもしれない。とにかく、なんども転んで、なんども3Pシュートを打って、なんども吐きかける(たまに吐く)そんな練習が続いた。
しかし、そんな練習に身体が追いつくはずがない。香菜も言ってたじゃないか。でも、俺は続けてしまった。そして、その日は急に訪れた。
「ドンッゴツンッ」
俺は倒れた。それは、いつもと違う風に。
頭がシャットアウトを始める。視界が暗くなる。あれ?どうしたんだろう、身体が全く動かない。俺、もしかして死んじゃうのかな。怖い、怖いよぉ。死にたくないよぉ。叫んでも叫べない。あぁ、とうとう終わるのか。こんな悔いしかない人生にけじめをつけることすら叶わななかったのか。
「タッタッタ」
消えゆく世界に響くのは、何かが駆け寄る音だけだった。
「ん、んん〜。あれ、ここは…。」
真っ白な世界が現れた。ここが、天国か。
いや、違う。俺はベッドの上にいるようだった。あぁ、死ななかったのか。絶対に死んだなと思ったのに。
「あれ、香菜…?」
まさかの香菜が、ベッドのそばにもたれて寝ていた。その周りのシーツは、少し濡れている。
香菜が、俺を助けてくれたのか…?でも香菜は近くに来てなかっ…
「ッ!浩二!!」
お母さんが、部屋に入ってすぐそう叫んだ。その声は病室であろうこの部屋全体に響き渡る。それから、苦しいくらいに抱きしめられた。
「あぁ良かった。目が覚めたのですね。」
続けて、お医者さんらしき人がゆっくりと入ってきてそう言った。
「あなたは丸3日も寝ていたのですよ。」
丸3日も?にわかには信じられなかった。でも、信じるしか無かった。そう信じれるだけの証拠がこんなにも揃っていたのだから。
お医者さんの話によると、香菜が俺が倒れてからすぐに急停車を呼んでくれたから俺は事なきを得たらしい。もう少し遅れていたら傷口からいろいろなウイルスが入って多くの感染症を発症していたかもしれないとのこと。香菜が『たまたま』近くを通りかかったのが幸いしたらしい。香菜には感謝してもしきれない。
あぁ、どんどん香菜に対する負債が溜まってしまうな。
しかしそれは、負債というにはあまりにも魅力的なものであった。
浩二はこの時点で、香菜に人生を捧げることを深く心に誓いました。もちろん香菜はそんなこと知りません。
この時、浩二は香菜に嫌われている(呆れられている)と思っており、また、合わせる顔がないような気持ちでした。そのため、香菜がどう出るのかをヒヤヒヤしながら待っていました。
次も更新は遅くなるかもしれません。気長にお待ちいただけると幸いです。
では、今回はこれで以上です。




