抗拒
トラウマ︰心的外傷、主に周りからの過度なストレスによって負うもの。
【ドンッ】と鳴り響くその音は、俺の記憶を呼び起こす。香菜は、あの日のことを覚えているのだろうか。いや、覚えているわけないか。
それは、些細なすれ違いの果に起きたことだった。そのときの俺は、本当に幼かった。
ミニバスのコーチにスタメンとして選ばれた日から、俺はより一層自主練に励むようになった。しかし、文字通り血を吐くような練習に、俺はいつしか心と身体とがすれ違うようになっていた。心では身体を動かしているのだ。でも、身体は言うことを聞かなかった。
俺は練習中、何度も倒れた。何度も何度も倒れた。
そんな日々のとある1日のこと。
毎日怪我をしてくる俺を見兼ねてか、香菜が放課後に聞いてきた。
「こーくんなんでいつもそんな怪我してるの?」
「どうだっていいだろ。」
「どうでもよくない!見てるこっちも不安になるもん。ミニバスでなにかあったの?それともいじめ?」
「うるさいなぁ。いじめではないから安心しろって。」
「じゃあミニバスだ。」
「…そうだよ。」
「じゃあこれから私が見守りに行ってあげる!」
「はぁ?じゃまになるだけだから来るなよ。」
「嫌でーす。何が何でも行っちゃうもんね。」
「はぁ…まぁいいや。好きにしろよ。」
それからというもの、香菜は俺のいる日は必ずミニバスに顔を出すようになった。
最初は誰かの姉かと思われてたけど、俺の方をじっと眺めていることから俺の彼女と噂されるようになった。茶化されるのはあまり好きではない。しかし、俺が自主練をしていて倒れたときや怪我をしたとき、香菜はすぐに手当をしてくれた。特に話したりするわけでもなく、黙々と手当をしてくれた。その行為を否定するのは俺にはできなかった。
そんなある日、その日も自主練で俺は倒れてしまった。まぁ、大丈夫だろう。いつものように香菜が水をくれたり、塩分チャージをくれるはずだ。
しかし、その目論見は外れてしまった。いや、目論見でもなんでもない。今思えば、ただのわがままだったのかもしれない。俺は香菜に甘えてしまっていたのだ。
「もうお願いだから倒れるまで練習しないでよ。なんでそんなに身体を犠牲にしてまで練習するの?もうスタメンに選ばれたんだから少しは休みなよ。」
「嫌だ。俺はもっと強くならなくちゃいけないんだ。身長は低いし、か。」
『香菜に並べる男になるために。』そう言いかけたが、ぐっと堪えた。これ以上香菜に迷惑はかけたくない。縛り付けたくない。
「もういいじゃん!これ以上頑張ったら死んじゃうよ!強さを求めるあまり死んじゃったら元も子もないじゃん!お願いだよ…」
「じゃあもう来なければいいじゃん。別に必要ないんだよ。」
香菜にとって、今一番の悪魔なのはこの俺だ。
香菜のためにも、自分のためにも、少しの間関わらないほうがいいのかもしれない。そう思った。
「何その言い方!?私が何のためにここまで来て観続けて手当もしてあげて応援してあげてると思ってるの?浩二のためだよ!?私の気持ち少しは理解してよ!!」
あぁもう何なんだようるせぇよ。俺の人生と香菜の人生はちがうんだよ。そっちこそ俺の気持ちわかれよ。
「うるせぇよ!お前の気持ちなんて知らねぇよ!」
【ドンッ】
鈍い、バスケボールが『なにか』に当たる音が響く。
あぁ、最低だ。
『彼女』にとうとうやってしまった。いくら運動神経が良くても、いくら『香菜』のことを愛していても、もう俺は『香菜』の隣には並べない。未来永劫、その罪を背負って生きていかなければならない。
「…痛い。痛いよぉ。」
「…」
あぁ…俺は、俺はやってはならないことをしてしまった。
香菜は浩二がこれ以上怪我を増やさないために一緒にいてくれたのに、その結果浩二は甘えてもっと厳しく練習をしてしまったのですね。
過去編とはいえ、主に目線は元の時間軸です。(最後の方は臨場感出したいがために過去の目線にしました。)
ストーリーに追加して欲しい内容等ありましたら、感想に書いていただければ目を通します。
では、今回はこれで以上です。




