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【ハルカ彼方遠イ未来のサキで】  作者: 望月雲の介
【俺の世界 私の異世界編】
6/12

【エピローグ】

 星聖歴 1221年 5月


 ユアはウィズダム魔導学校魔導剣士寮の自室で、学校の制服を着たままベッドに横たわり天井を眺めて考え事をしていた。

 それは、


『兄さんは出てって! ………早く!』


 と、二年前、お父さんとお母さんが死んで、ユアがユグドラシルと呼ばれる森で知らない人たちに囲まれて目が覚めた時に自分の兄に吐いてしまった言葉だ。

 ユアはその言ってしまった言葉をずっと後悔していた。

 私は確かにその時は兄の顔なんて見たくなかった。

 なぜなら、兄の存在が、私たち家族を切り裂いて、もう会えないようにしてしまったからだ。

だが、兄も家族だ。血がつながっていなくたとしても……。家族じゃないなんて思ったことはない。——だが、一瞬だけ揺らいだ時があった。

 あの悪魔の提案の時。ユアは家族誰か一人が欠けるのも嫌だった。だけど、一番大切な家族であって、一番離れた家族であった兄を渡すことで親も友達も村のみんなも助けられるなら仕方ないと思い、渡してもいいという気持ちも心のどこかであった。

 だが、お父さんとお母さんがその悪魔の提案を否定した。よかった、とほっとする気持ちもあったが、なんで?という疑問を持つ気持ちもほんの少しあった。——そして、結果としてお父さんとお母さんは死んだ……。

 ユアは兄が両親を殺した——お父さんとお母さんの訃報を兄の言葉から聞いた時は思った。兄がとてつもなく憎かった。

 だが、リハビリで森の住人の手を借りて森をゆっくりと歩いていたある時、兄の姿が目に入った。

 そこには漆黒の大剣を全身汗が噴き出していても、素振りを続ける兄の姿だった。

 ふと、私が手を借りている獣人の人が『あの子、いつもあんな小さい体で、自分自身の体と同じぐらいの大剣を振ってるわね……』と、心配そうに言った。

 確かに、兄の手はボロボロで、マメができ、皮がむけ、赤く腫れている。

 ユアは『なぜ、いつも、あんなに剣を振ってるんですか?』と反射的に聞いてしまった。

 すると、獣人の人は『なんせ、あの子、《守るための力》が欲しいらしいわよ、私の娘があの子に聞いた時にそう言ったんだって』とはにかんで答えた。付け足して、『かっこいいわね』と。

 ユアはその時まで憎かった兄は罪滅ぼしのためにユアやエリナリア、カラナのために力をつけていることが分かった。

 そして、ユアは少しあきれたように微笑んで、『そうですね……』と答えた。

 ユアは分かっていたような気がした。両親は自分たちが死んでしまうとわかっていたとしても、村が滅んでたくさんの血が流れて死体が積みあがったとしても、自分の息子を守ろうとした。自分の息子の方が大事だと考えた。何もかもお父さんとお母さんが決めたことだ、と。

だから、兄は何も悪くない、兄に罪はない、罪は両親が持って、イった。だけど、兄はその罪を背負おうとしようとしている。だから、

 

 ——私もその罪を背負うよ、兄さん。


 ユアの罪は村や友達よりも兄を取って、村を滅ぼした罪。

大切な家族を、今となってはたった二人となってしまった家族を見捨てようとした罪。


「家族だから――」


 謝りたい――そんな気持ちがユアの中にはある。だが、あんなひどいことを言ってしまった。

「どういう顔で顔合わせればいいんだろう……」

 同じ学校になったとしてもコースが違うため、校舎が違い、めったに顔を合わせない。

 兄さんは魔導機械コースだから……。

 そしてユアは魔導剣士コース。

天と地ぐらいのコースの違いだ。

 兄さんの実力だったら魔導剣士コースぐらい楽勝で行けるぐらいだったのに、あの模擬戦のトーナメントが悪かった。一回戦目から実の妹と戦うなんて……。

 私が相手だからって兄さんは手を抜いているようで、少しカチンときてしまい、一方的に斬りかかってしまった。兄さんの後ろにずっといた自分ではないと証明するために。

 でも、今となってはわざと負けてくれたような気もする。兄さんがあんな弱いはずがない気がしたからだ。

「このことも、今度謝ろう……」

 そんなことを考えていると、カーテンの向こうはすっかり闇に包まれていた。

 少し夜風に当たりたい気分になった。

 ガラス扉を開け、ベランダに出ると、

 風は少し涼しかったが、春の気候か夜でもほんのり暖かかいような気がした。

 ユアはおもむろに兄さんが住んでいる家の方面を見た。

 兄さんは言ってはいけないが一番下のコースのためもちろん寮なんてない、だから大体の魔導機械コースの生徒は学校の近くやこの学校のある国に家を買ったり、借りたりして住んでいる。兄さんも貸家の一部屋に住んでいる。

 兄さんの部屋はまだ、明かりがついていた。

 その光景をぼんやりと見ていると、そんなことをしている場合ではないと気づき、視線を自身の部屋の方に戻そうとすると、ガタイのいい大男が男子寮の前を子分と思われる男子生徒を二人付けて闊歩していた。

 大男は赤色のマントは羽織っていた。赤色のマントは魔導剣士コースの生徒の証だ。多分、魔導剣士コースという立場を利用して愉悦感に浸ろうという魂胆か。

 ……するとあることを思い出した。

(まさか、あのゴリラみたいな男……。この前、体験入部の時に兄さんにわざと肩を当てて、兄さんに突っかかてきた人か! ――最悪、最後に言いもの見れて終われると思ったのに……。覚えてなさい、次あんなことしたら授業中の手合わせで痛めつける)

 嫌な気分になり、ユアは部屋に戻り、扉を閉め、カーテンをピシャッと強めに閉めた。

「あぁ、そうだ! 部活! 部活が兄さんと同じになれれば謝れる機会が‼ 待っててね兄さん! 兄さんは私が守るもの‼」

 ユアは強く意気込んだ。

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