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99.アクシデント


 翔太たち白組は応援合戦で多少リードしたものの、他の組にも逆転の目は残されており、まだまだ予断は許さない。

 午後の部は十字綱引き、大玉転がし、大縄跳びといった団体競技かつ配点も高く、見た目にも派手ということもあり、体育祭はますます盛り上がっていく。

 こうしたお祭りごとがや身体を動かすことが好きな美桜は、六花と共に色んな種目に参加して縦横無尽に駆け巡る。今だって目玉の1つのである女子騎馬戦に参加している。

 そんな美桜を英梨花は、1人でも翔太の傍でもなく、クラスの女子たちと応援していた。どうやらすっかり、打ち解けているようだ。

 自分の手を離れたことに寂しさを覚えるものの、妹離れする時期でもある。

 だが英梨花は兄である翔太の目から見ても、とびきりの美少女だ。

 体育祭という浮かれた空気の勢いもあり、英梨花に話しかける男子は多い。

 幸いにして、男子に話しかけられても2、3言を話す程度で、彼らはそれ以上ちょっかいをかけられることなく去っていく。

 しかしそれでも先ほどの和真の言葉もあり、険しい表情になってしまうというもの。

 するとそこへ、少し呆れた様子の女子たちが話しかけてきた。


「こらこら、そんな怖い顔しちゃダメだよ葛城くん」

「相変わらずシスコンなんだからぁ」

「あの子ちょっと天然で危なっかしいところあるから、気になるのはわかるけどね」

「うちらでちゃんとしっかり、変な虫からガードしてるし!」

「うぐっ……」


 どうやら翔太の過剰に妹を心配する姿は、クラスの女子たちがつい声を掛けてしまうほどのものだったらしい。肩身を狭くする翔太。

 そして彼女たちは翔太を宥めつつも茶化すようにして、グラウンドの方を促す。


「それよりも愛しの彼女を応援しなくていいの?」

「美桜ちゃん、さっきから大活躍なんだから!」

「妹ばっか見てました~だなんて言うと、後で怒られちゃうよ~?」

「お、おぅ」


 グラウンドでは、女子騎馬戦の真っ最中だった。

 その中でも美桜の活躍は目覚ましいようで、その手にはいくつものハチマキを持っている。今し方も一騎、素早い手つきでハチマキを奪い、クラスの皆から歓声が上がる。その様はまさに獅子奮迅。

 なるほど、これほどの活躍だ。もし夕食時にでもこの話を振られて答えられなければ、拗ねてしまうかもしれない。

 翔太も声を張り上げ、応援する。

 するとこちらの声が聞こえたのか、美桜は一瞬振り返り、目が合うとニッと笑う。

 しかしそんな美桜を敵方が放っておくはずもない。

 彼女たちは組を越えて即興で連携し、数で美桜を牽制する。

 美桜は思うように動けず、その間に白組は逆転をされていく。

 焦れた声を上げるクラスメイトたち。

 美桜たちが睨み合いをすることしばし。

 その時こちらから聞こえないが、敵騎の何人かが美桜に向かって何かを叫んだようだった。

 きっと、安い挑発か何かだったのだろう。だけど美桜には効果覿面だったようだ。

 美桜は明らかに精彩を欠いた動きで突撃し、そしてあっという間に地面に引き摺り落とされてしまう。

 盛大な落馬だった。思わず、周囲から悲鳴にも似た声が上がってしまうほど。

 身体を強く打ち付けたのか、その場で蹲る美桜。


「――っ!」

「おい待て、翔太! 今はまだ競技中だ、気持ちはわかるが出て行くと失格になるぞ!」

「けど、和真!」

「落ち着けって! 大丈夫だ、ほら、向こうは向こうでちゃんとしてくれてるだろ!」

「……っ、そうだな、悪ぃ」


 思わず駆け寄ろうとするも、和真に腕を掴まれ諭される翔太。

 少し冷えた頭でグラウンドを見てみれば、美桜は騎馬の他の女子たちに肩を貸され、ゆっくりと移動しているようだった。足元は少し覚束ないようだが、他は問題なさそうに見える。そしてほどなくして女子騎馬戦も終わりを迎えたようだ。

 翔太がなんともいえない表情を作っていると、今度は英梨花からくいっとシャツの裾を引かれ、ある場所を指を差す。


「兄さん、あの人たちって……」

「あいつらは……」


 敵騎の中に、退場途中の美桜に対してやけにニヤニヤしている人たちがいた。

 彼女たちの顔には薄っすらと見覚えがあり、息を呑む。かつて恋愛絡みで美桜を呼び出し、殴られた相手だった。


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