97.お弁当
昼食を求めて食堂へ向かう生徒が多数いるものの、弁当や購買組はこのまま屋外で食べる人がほとんどだ。翔太たちもそうだった。こうして青空の下で食べる昼食は、解放感もあって別格だろう。
「はい、今日は張り切ってお弁当作ってきました~!」
「ん、私も手伝った!」
そう言って美桜が取り出したのは、三段重ねの見事なお重のお弁当。
一段目はオーソドックスな俵むすびを始め、炊き込みご飯のおむすびやサンドイッチといった主食、二段目は一面小さなサイズのお好み焼きが詰められており、こちらは英梨花が作ったのだろう。三段目はから揚げやミニハンバーグ、アスパラのベーコン巻き、ウィンナー、たまご焼きに、彩りとしてプチトマトやブロッコリーといったオカズが敷き詰められている。
見た目にも豪勢で楽しくなる、これぞ体育祭に打ってつけといった弁当に、翔太も思わず歓声を上げた。
「すごいな、これは! けどいくら3人分とはいえ、さすがに量が多すぎないか?」
「あっはは~、ちょっと多いかなぁって思ったけど、興が乗っちゃって!」
「ん、私も余れば夕飯とか明日の分に回せばいいの精神でいっぱい焼いた!」
「何やってんだ美桜、それに英梨花も……」
普段3人で食べる量の倍近くはあるだろうか? あまりの量の多さに少し呆れ気味の翔太。
しかしその豪華な弁当はよく目立つ。周囲からちらちらと注目されているのを感じる。
するとこの弁当に気付いた六花が、瞳をきらきら輝かせながらやってきた。
「わ、わ、なにこれすごーい! ね、ね、これって美桜っちの愛妻弁当!?」
「あ、愛妻っ!?」
「愛妹弁当でもある。お好み焼きは私」
「え、これって英梨ちんが!? めっちゃ上手く焼けてんじゃん!」
「えっへん!」
愛妻という言葉に思わず赤面する美桜に、お好み焼きを褒められて得意満面の英梨花。
六花が弁当にテンションを上げていると、それまで周囲で様子見をしていた他の女子たちも好奇の声を弾ませ話しかけてくる。
「これって全部、五條さんと葛城さんが作ったの? すごくない!?」
「わ、ウィンナーが全部タコやカニにされてて芸が細かい!」
「美桜っちはともかく、英梨ちんもやるねぇ~」
「ん、昨日から仕込んで一緒に作った。お好み焼きは端からぶた、イカ、もちチーズ、トマト、キムチ、納豆に色々ある。たくさんあるし、よかったら食べてみる?」
「「「いいの!?」」」
得意げになっている英梨花がそんなことを言えば、本当に食べていいのかと許可を求める目が一斉に美桜へと注がれる。
確かに英梨花の言う通り、かなりの量だ。
美桜は皆の視線に気圧されつつも、翔太と英梨花と顔を見合わせコクリと頷き、そして手を広げて明るい調子で言った。
「いいよ、どんどん食べちゃって! どうせなら皆でオカズ交換会しようよ!」
わぁ、と快哉を上げる六花たち。
それぞれのオカズを交換し合い、「から揚げおいしい!」「何かマヨネーズエリアがあるんですけど!?」「葛城くん、彼女が料理上手ねよかったね、このこの~」エトセトラ、そんなことを話しながら盛り上がっていく。
するとその騒ぎを聞きつけた他のクラスメイトもやってきて、「オレも1つもらっていい?」「お好み焼きの納豆やキムチといった変わり種、初めてだけど案外旨いな」「えっへん」「葛城はこれをいつも食ってるのか、許せん!」等々、いつの間にか美桜の弁当中心にクラス全体を巻き込むかのような賑やかさに。
その中には少しだらしない顔をしてお好み焼きを頬張る和真だけでなく、恐る恐るといった様子でハンバーグを口にしては感動するかのように身を震わす北村の姿もあった。
北村はこちらの視線に気付くとごくりと口の中を呑み込み咽てしまい、涙目で少し唸り声を上げる。そして近くに寄ってきそうな雰囲気だったので、翔太は苦笑と共に片手を上げて制止する。
するとその時、軽快な歌が流れ出した。誰でも知っているガッツを出そうぜという、翔太たちの世代にも広く知られた往年の名曲だ。そしてグラウンドの方へ黄色いメガホンを持った生徒たちがやってくる。
一体何事かと思って首を捻っていると、彼らは歌に合わせて踊りだした。そしてサビの部分に差し掛かると、メガホンで一緒に叫び出し、味方の組へとエールを送る。よく練習したであろう、見事な統率だ。
「応援合戦、始まった!」
翔太が感心していると、それを見た英梨花が少し興奮気味な声を上げた。








