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94.体育祭、始まる



 体育祭当日は、雲一つない晴天だった。五月半ばの太陽は夏を先取りしたかのように燦々と輝き、熱気を振り撒いている。そんな、少しばかり汗ばむような陽気だ。

 参加している生徒たちもまた、熱気を漲らせていた。

 内申点の加味や優勝組へのご褒美、それから数少ない学校行事ということを差し引いても、想像以上の盛り上がりである。

 こうした身体を動かすものでは、気乗りしない文化系や帰宅部といったインドア派も多少なりともいるもの。しかし翔太のクラスに限っては、そういった人たちも盛り上がっていた。


「いけいけ、裕司くん! がんばれーっ!」

「今生見せろ、倉本ーっ!」

「長龍ーっ、抜かれたら承知しないからねーっ!」


 出場しているクラスメイトたち全員に向けて、名指しで声援が送られている。明確に自分へと向けられている応援をされれば、やはり張り切ってしまうというものだろう。

 特に男子のテンションの上がりっぷり顕著だった。

 先ほど男子400メートルリレーで見事1位になったグループが戻ってくるなり女子たちに囲まれ、「最後すごかった!」「倉本くんって足早かったんだね!」「長龍のラストスパート、冷や冷やしたけど勝ててよかった!」といった声を掛けられれば、和真を含む男子たちは皆、にへらとだらしなく顔を顔を緩ませてしまっている。

 それを見た他の男子たちもまた、自分たちもやってやるぞと色めき立つ。


(……単純だな)


 その様子を見ながら複雑な表情を作り、苦笑する翔太。

 彼らの気持ちもわかる。

 きっとこれを機に、女子に良い恰好をしたり、話す切っ掛けにしたいのだろう。

 それに翔太も年頃の男子、少しばかり和真たちが羨ましいと思いも。

 しかし今の翔太は偽装とはいえ、クラスでも公認の相手がいるのだ。もし女子からの声援で鼻の下を伸ばそうものなら、一体どういう目で見られることやら。

 するとその時、ちやほやされていた和真がだらしない笑みと共にやってきて、ガシッと肩を組んでくる。


「翔太ぁ、澄ました顔をして、彼女持ちは余裕ってか~?」

「いや別にそんなこと考えてないって。そろそろ出番だから、どこに行けばいいか探していただけ」

「ふぅん。200メートル走だっけ? あそこのテントらへんで集まってるとこ。てか委員の五條にでも聞けばいいのに」

「いや、この空気で聞くのも気が引けるだろ。冷やかされるかもだし」

「それもそうか」


 そう言って互いに笑い合う翔太と和真。

 和真に教えてもらった場所へと移動すれば、そこには北村がいた。

 北村はまだ、こちらに気付いていない。参加だろうか? それとも委員として? 個人的には少し苦手なところがあるものの、ここで話しかけないというのも不自然だろう。


「北村、200メートル走ってここで合ってるのか?」

「むっ……そうだ、ここだよ。僕も出場する。葛城くん、君には負けないからな!」

「おいおい、俺たちは同じ組だし、一緒に走るわけでもない。勝ちも負けもないだろ」

「うぐっ、確かに。ええっと……そう、意気込みだ! 五條さんもあれだけ頑張って盛り上げようとしてくれているんだから、勝ちたいって思いも強くなる。それに自分でも幼稚だと思うけれど、君は僕にとってライバルのようなものだから、負けたくないんだ!」


 北村のあまりに拙くも真っ直ぐな言葉をぶつけられ、目を丸くする翔太。

 あまりにも清々しくて、翔太はくつくつと愉快気に喉を鳴らしニヤリと口元を歪め、そしてトンッと北村の胸を叩く。


「わかった。俺もライバルに無様な姿を見せないよう、全力を尽くすわ」

「……っ、ああ!」


 気付いたらそんなことを口にしていた。

 どうやらそう言われるのも悪くないらしい。

 北村は一瞬、虚を衝かれたような顔をしたものの同じくニヤリと笑い、すぐにこちらの胸をトンッと突き返すのだった。


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