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90.プレゼント



 英梨花と美桜のわだかまりも解消し、鍋ということもあって、夕食は和気藹々として随分騒がしいものになった。

 美桜と虎哲の両鍋奉行が張り切ったこともあり、箸もよく進む。食後の英梨花謹製の誕生日ケーキ(・・・・・・)もぺろりと平らげる。

 しかしいくら誕生日ケーキを模しているとはいえ、中身はお好み焼き。

 さすがに皆、食べ過ぎてお腹を抱える羽目に。

 翔太は自分の部屋のベッドで、しばらく動けないでいた。

 やがてお腹も幾分か収まってきた頃、机の上に置かれた紙袋に目をやり、なんともむず痒そうな顔を作る。

 中身は昼過ぎ、英梨花と一緒に郡山モールで買ってきた、翔太の分の美桜への誕生日プレゼント。

 どうしてか、ここにきてまだ美桜に渡すことに躊躇いがあった。

 久しくこういうプレゼントなんてしてなかったし、またモノもモノだけに、なんだかやけに気恥ずかしい。

 今年は自分の誕生日の時も貰っていなかったので、見送ることも考えたが、英梨花からは是非渡すべきだと念を押されている。


「……はぁ」


 いつまでも先延ばしにするわけにもいかないだろう。どうせなら、今日渡した方がいい。

 覚悟を決めた翔太は立ち上がって紙袋を掴み、部屋を出る。

 少し騒がしい胸を落ち着けようと深呼吸しながら階段を下り、リビングを覗けば、台所で洗い物をしている英梨花の後ろ姿のみ。他には誰もいない。


「英梨花、他の2人は?」

「みーちゃんも虎哲さんも、自分の部屋に戻ったよ」

「ふぅん」


 疑問に思って訊ねれば、英梨花は背中越しに答えてくれる。なるべくそっけない風を装い、相槌を打つ翔太。

 どうやら美桜は部屋で1人らしい。好都合といえた。

 翔太は廊下に戻り、美桜の部屋の前へ。中からはごそごそと動く気配がする。

 ふぅ、と小さく息を吐いて一拍の間を置き、ノックと共に声をかけた。


「美桜、今ちょっといいか?」

「しょーちゃん、何ー? 今手が離せないから勝手に入ってきてよ」

「あぁ、実――って、バカ!」

「わ!」


 そう促され、少しばかりの照れと共にドアを開け、すぐさま慌てて閉める翔太。

 美桜は着替えの最中だった。

 地べたには制服のスカートが広がり、丁度ブラウスに脱ごうとしていたところで、合間からはいつぞや洗面所で見掛けた可愛らしいレースがあしらわれた淡いブルーの下着が見えている。美桜がいうところの勝負下着というやつだ。爽やかな感じで、活発な美桜にはよく似合っている。

 ふいに今までみたことのなお幼馴染の異性としての姿に、翔太の胸は痛いぐらいに暴れ出す。顔が違う意味で赤くなってしまい、空いてるもう片方の手で目を覆いながら、ドアに向かって咎めるように言う。


「着替え中なら、そうだと言え!」

「いやぁ、ずっと制服のままだったからさ。それにしょーちゃんなら今さら見られてもねぇ?」

「あのな……」


 美桜のあっけらかんとした声が帰ってきて、呆れたため息を吐く翔太。

 やがて着替え終えた美桜が「終わったよー」と言ってドアを開け、部屋に招き入れる。いつもの撚れたシャツにスウェットという、よそ様にはあまりお見せ出来ない部屋着姿だ。

 美桜は赤くなっている翔太の顔を見て、にんまりと口を三日月に歪め、揶揄ういうに頬を突く。


「おやおやおや~、もしかしてあたしに照れちゃってる~? エロいこととか考えちゃったかな? かな?」

「……はいはい、したした、しーちゃーいーまーしーたー。これでいいか?」

「ぶぅ、いきなり認めるのは往生際が良すぎて面白くないぞ、しょーちゃん」

「どうしろってんだ。というか、もう少し恥じらいを持てというか、さすがに着替え中は勘弁してくれ」


 いつぞやはスポブラだからセーフと言っていたが、今回は完全にアウトだろう。

 翔太がほとほと困った顔をしているのを見た美桜は、ちらりと舌先を見せ頬を掻く。


「いやぁ、もう完全に自分の家にいる気になっちゃてて。うちじゃそういうの気にも留めてなかったし。今日さ、えりちゃんからこの合鍵用のお揃いキーホルダーもらっちゃったから、余計にあたしも家族の一員になったって意識が強くなっちゃってさ」


 少し照れ臭そうに言う美桜。

 翔太もそう言われると弱い。

 それに、きっと。


「……英梨花はそれ、美桜のことを家族だと思って、そのつもりで渡したと思うぞ」

「そうかな?」


 それだけじゃなく、英梨花は翔太とも血の繋がりが希薄なのだ。

 だからこそ家族という枠組みで考えると、英梨花にとっての美桜は、翔太とさほど差がないのかもしれない。


「あぁ、これからも一緒に暮らすんだし、目に見える形での繋がりが欲しかったんだと思う。ほら、今までずっと離れていたから……」

「そっか。そうだとしたら、すごく嬉しい」


 そう言って美桜はキーホルダーを取り出し胸で抱え、照れ臭そうに笑う。

 どうしてかその顔は、先ほど見た下着姿よりも魅力的に見えてしまい、ドキリと胸が跳ねてしまう。翔太はそれを誤魔化す様にそっぽを向き、頬を掻く。


「ところでしょーちゃん、結局何しにきたの?」

「えっと、これを渡そうと思って。俺からの誕生日プレゼント」

「へ? しょーちゃんからもあるの?」

「あぁ、英梨花からも、せっかくだからって強く言われてな」


 翔太は紙袋を押し付けるようにして渡す。

 受け取った美桜は驚きつつも中身を取り出し、そして出てきたものを見てぴしゃりと身体を固まらせた。


「え、これって……」

「なんていうか、それ、俺も美桜に似合うと思ったから」

「…………ぇ」



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