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81.強い拒絶


 英梨花は服を見たり、誰かに見立てたりすることが好きなようだった。その顔は活き活きとしており、頬は興奮から紅潮している。


「ちょっとこれ、あたしには派手じゃない? 肩とか剥き出しだし、ちょっと寒いし」

「このくらいの方が、みーちゃんに似合う。どうせなら、冒険すべき!」

「えぇ~、どちらかといえば、あぁいう大人しいものの方が……」

「むっ、あれは……一見地味だけど、これとかあれとか合わせるといいかも!」

「え゛」


 郡山モールの少しでも気になる服が展示されている店があれば、有無を言わさず引っ張っていっては色々を服を合わせられ、美桜はさながら着せ替え人形状態。

 慣れないことをさせられている美桜は終始気恥ずかしそうにしていたものの、しかし翔太の目から見てもどれもよく似合っていた。いくつかは不覚にも、ドキリとしてしまうほどに。

 美桜自身の素材がいいのか、はたまた英梨花の見立てがいいのか。いや、やはりどちらもなのだろう。


「ね、兄さんはさっきのと今の、どっちがいいと思う?」

「どっちもいいと思う」

「むぅ、兄さんはそればっかり」

「って、言われてもな……」


 時折、英梨花から訊ねられるも、そんな返ししかできない翔太。英梨花は不服とばかりに頬を膨らませる。

 とはいえどれもよく似合っており、一番似合うものが何かと問われても、困ってしまうのも事実。

 すると英梨花は、それならばと質問を変えてきた。


「じゃあ兄さんは、どんな感じのものが好みなの?」

「うぅん、なんだろ……そんなこと、考えたこともなかったな」

「しょーちゃん、二次元とかなら巫女さんとか侍とか浴衣とか、和ものが好みだよね」

「……そうなの?」


 横から挟まれた美桜の言葉に、目をぱちくりさせながら尋ねてくる英梨花。

 翔太はいきなり性癖を暴露した美桜にジト目で睨みつけながらも、降参とばかりに両手を軽く上げて答える。


「髪とかこれだからさ、なんていうか昔から和風なものに興味がいってな」

「……そうなんだ」

「ま、しょーちゃんのオシャレ経験値なんてそんなもん。あたしと変わんない。聞かれても困るってもんだよ」


 言外に、もうどれでもいいから適当に決めようよと含ませる美桜。

 その気持ちはわからなくもない。

 だけど英梨花に色々な美桜の姿を見せられ、しみじみと思ったことを口から零す。


「まぁな。けど、ホントどれもよく似合ってて――美桜って実は可愛かったんだな」

「……へ?」「ぁ」


 翔太は言ってから、随分とストレートで大胆なことを口にしたと気付く。あまりに自然に零れた言葉なので、それが本心だというのもよく伝わったことだろう。

 みるみる顔を赤くしていく美桜。

 するとすぐさま英梨花が同意するかのように、言葉を被せた。


「ん、みーちゃんは可愛い。だから一番似合うのを探す。予算も限られてるし、気合いれなきゃ!」


 その発言で気まずくなりそうだった空気は霧散するものの、言葉を詰まらせた翔太と美桜は、そのまま英梨花に引っ張られる形で服選びを続行することに。

 結局その後もいくつかの店を回り途中何か吹っ切れた美桜は、今までと比べると随分派手で肌も露わな、いわゆるギャル系のものを選んだ。英梨花としてもこれはというものが買えたようで、にこにこと満足そうな笑みを浮かべている。

 一方、さすがに疲労困憊といった様子の翔太と美桜。

 とはいえせっかくやってきたのだからと、ゆるゆると郡山モールを歩く。

 大型連休ということもあって各テナントでも様々な催しや、くじや福引といったキャンペーンも展開されていた。その中でもやけに赤色が各所で見て取れる。それからカーネーションを表すディスプレイも。

 ふと、あるものを見つけた英梨花が「わぁ!」と歓声を上げた。


「あ、これすごくいい! みーちゃんにピッタリ似合うと思う!」

「あ、あはは、確かに可愛いね。けどあたし、お小遣いがもう、ね?」

「むぅ……」


 英梨花が指差したのは、花をあしらった赤い髪飾りだった。美桜の黒髪にもよく映えることだろう。こうしたものに疎い翔太でさえ、そう思わせるほどのものだ。

 美桜にこれを付けさせたいというのはわかる。だけど予算のことを出されると弱い。先ほど服を買ったばかりだし、なおさら。これ以上言えなくなる。

 英梨花が「むぅ」と、悩まし気に唸ることしばし。

 するとその時、郡山モールの至るところに書かれているある文字を見た英梨花が、名案とばかりにパンッと手を合わせた。

 ハッと息を呑む翔太。英梨花の視線の先を追えば、美桜のこともあって意図的に視界から避けていた『母の日』という文字。


「じゃあ、あれは私からのプレゼント! ほら、みーちゃんの誕生日も兼ねて。それに母の日も近いし、いつもみーちゃんお母さんみたいに私たちのことを――」

「っ、やめて、いらない」「おい、英梨花」


 美桜らしからぬやけに低い声での返事。

 これはいけない。翔太は慌てて制止しようとするも、英梨花は美桜の様子に気付かずそのまま言葉を続ける。


「え、でもせっかくだから、普段みーちゃんがしてくれることに――」

「――やめろ、っつってんの!」

「っ!?」「…………っ」


 大声で強い拒絶の声を上げる美桜。

 豹変ともいえる美桜の反応に、困惑と戸惑いを隠せない英梨花。

 そして美桜の反応に心当たりがあるものの、あまりに繊細な部分のことなので、どうフォローしていいのかわからない翔太。

 気まずい沈黙に包まれていく。

 やがて美桜は傷付いたということがありありとわかる顔で目を逸らし、謝罪の言葉を口にした。


「……いきなりごめん」

「ぁ………みー、ちゃん」

「…………」


 翔太はやはり、彼女たちに掛けるべき言葉がわからなかった。

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