表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

78/101

78.映画に行こう!



 朝、といっても普段ならとっくに1時限目の授業が始まっている時間。

 寝起きの翔太は欠伸を噛み殺しながら、「ぉはよ」という挨拶と共にリビングに顔を出す。

 すると虎哲が、何枚かのチケットをひらりと振りながら声を上げた。


「なぁ、今日は映画見に行こうぜ」

「映画?」

「そう、映画。割引きチケットあるんだ。なんとペアで1500円引き、もちろん学割と併用可!」

「え、なにそれめっちゃ安い! ちょっとそれ、よく見せてよ兄貴!」


 チケットのあまりの割引きぶりに、目を輝かせながら飛びつく美桜。

 虎哲から奪うようにして手に取り、まじまじと眺め、興奮気味に口を開く。


「わ、ほんとだ! てかどったの、これ?」

「昨日遊んだ友達にもらった」

「ふぅん……あ、でもこれ見られるもの決まってるみたい」

「へぇ。でもせっかくだし行ってみようぜ。翔太に英梨花ちゃんもいいよな? あ、もしかして他に予定とかあったりした?」

「いや、俺は特になにも。映画かぁ、随分久しぶりだなぁ」

「ん、私も今日はバイトがないから大丈夫。楽しみ」


 そしてササッと朝食を済ませ、善は急げとばかりに各々の部屋に戻って準備をする。

 この辺りで映画を見に行くとなると、やはり郡山モールに併設されているシネコン。

 なんだかんだでいつも遊びに行くところと変わらない。

 それに相手は気心知れた幼馴染と妹、そして兄貴分。

 準備といっても近場だし、寝間着から着替えてスマホと財布をポケットに叩き込む程度。すぐに終わる。

 翔太がリビングに戻るとほどなくして虎哲が、そして少し遅れて美桜が戻ってきた。

 美桜は2人の顔を見回しながら言う。


「後はえりちゃんだけ?」

「みたいだな。もう降りてきてもいいと思うけど……なにやってんだろ?」


 早く映画に行きたいという気持ちを滲ませ、そわそわしている翔太と美桜。

 虎哲はそんな妹と弟分に少し呆れつつ、窘めるように言う。


「おいおい、女の子(・・・)の支度には色々あるし、時間がかかるもんだろ。美桜はまぁ……美桜だけど」

「うっさい、兄貴」

「……それもそうか」


 虎哲の言葉に、なんとも眉を顰める翔太。

 あまりこれまで意識したことはなかったが、思えば英梨花はいつだって髪や身だしなみはきちんとしている。

 翔太の目には朝起きてきた時の姿だって、品のある楚々とした薄手のカットソーにロングスカートという、十分そのまま出掛けられる格好をしていた。

 しかし英梨花としては、たとえすぐ近くに遊びに行くにしても女子として、それなりの準備があるのかもしれない。

 翔太はそのあたり、よくわからないなと眉を寄せる。


「おまたせ」


 そうこうしていると、英梨花も戻ってきた。

 着替えをして薄っすらとメイクもしたのか、先ほどと比べ明らかに大人びて綺麗になっているのがわかる。思わずほぅ、とため息を吐いてしまうほどに。

 なるほど、確かにこれだけ変わるのなら準備は必要だ。

 その英梨花はいえば美桜の姿を見て目をぱちくりとさせ、尋ねる。


「みーちゃん、その格好で行くの?」


 言外にオシャレ用の女の子らしい服じゃなくていいの? という質問が込められていた。

 美桜の格好は、フード付きパーカーにジーンズといった洒落っ気のないラフな格好。美桜らしいといえば美桜らしいチョイスで、女の子らしい英梨花とは対照的だ。

 しかし翔太には見慣れた、これまで遊びに行く時と同じ格好だった。それに髪型を変えたこともより、今の美桜にもよく似合っているといえる。

 だがそれでもやはり、地味さは否めないだろう。

 美桜は少し眉を寄せながら答える。


「ん~、わざわざ着飾って行くようなところじゃないしね。……それに一張羅は洗濯に出しちゃってるし」

「……そぅ」


 美桜はそういうものの、どこか納得がいかないといった様子の英梨花。

 たしかにここのところ、特に英梨花がこの家に戻ってきて以来、出掛ける時は女の子らしい格好をしていたかもしれない。

 とはいえ美桜だって、そういう気分じゃない時もあるだろう。

 翔太は憮然としている英梨花の背中をポンッと叩き、諭すように言う。


「ま、いいから出掛けようぜ」

「……ん」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ