62.律儀なやつ
LHRの終わりと共に、放課後を迎えた。
先ほどとは違った種類の喧騒に包まれ、皆が開放を謳う。
翔太が荷物を纏めていると、いち早く帰り支度を終えた美桜が声を掛けてきた。
「しょーちゃん、今日はちょっと寄るとこあるから、先に帰ってて!」
「買い物なら付き合うぞ?」
「いや、そうじゃなく、今日はアレだから」
「アレ……?」
アレと言われても、何のことかピンと来ず眉を寄せる。
そんな翔太を見て、美桜は困った顔で周囲に聞かれないよう小さな声で言い直す。
「ほら、しょーちゃんの日」
「っ! あぁ、そうだったな……」
「そういうわけだから」
「わかった」
その言い方で今度は思い至った翔太に、美桜は苦笑しつつ片手を上げて素早く教室を去っていく。
幼馴染の後ろ姿をぼんやりと眺めながら、複雑な表情になってしまう翔太。
するとそこへ入れ替わりのように、気まずそうにしつつやって来る人が居た。
「あーその、葛城くん」
「北村……」
「すまない、僕が五條さんと一緒に委員をすることになって……」
北村だった。北村は相変わらずの不器用ともいえる実直さで、わざわざそんなことを言いに来たようだ。そんなところが心底、彼氏である翔太に申し訳なく思っていることが伝わってくる。
非常に彼らしいと思いつつも、チクリと胸が痛み、どう言葉を返していいかわからない。先日の親睦会で、まだ美桜のことを想っているということがわかっているから、なおさら。
逡巡し、見つめ合う形になることしばし。
翔太は曖昧な笑みを浮かべつつ、素直に思ったままの言葉を返すことにした。
「それとこれとは話は別、気にすることじゃないだろ。それに北村は別に、これを機に美桜に変なちょっかい出す気はないだろ?」
「それはもちろん!」
「なら話は終わりだ。ただ委員としての役目を果たせばいいだけ」
「葛城くんは彼女に好意を寄せる異性がすぐ近くで一緒に仕事していて、気にならないのかい?」
親睦会と同じような質問を投げかけてくる北村。
翔太は少し自分に呆れつつ、憮然とした声色で本音を話す。
「そりゃ気にならないと言えば嘘になるが、北村が美桜の気持ちを無視してどうこうするような奴じゃないってわかってるからな」
「キミは……ふぅ、そうか。わかった」
そう言って北村は一瞬目を丸くした後に息を吐き細め、降参とばかりに両手を軽く上げながら、身を翻す。
多少気に掛かることがあるものの、この件ではもう大きな問題にならなさそうだ。そのことに安堵のため息を吐く翔太。
「英梨花、俺たちも帰ろうか」
「……ん」