49.守ってくれたから
ボーリングは大成功を収め、続いてカラオケへ。
全員一緒に入るために、いわゆるパーティールームを借りた。
教室の半分くらいの広さのそこは通常のソファーやテーブルの他、フラットシートや畳のコーナーや、ダーツなどもあって、まるでリビングめいていた。こうした部屋に初めて訪れる皆のテンションも、否応なく上がる。
こういう時、先陣を切って盛り上げ役になるのが美桜だ。
六花と一緒にステージに上がり、持ちネタにもしている少し前に流行ったポップなアイドルソングを振り付けと共に唄えば掴みは上々、一気にこの場の空気が活気付いていく。
そして美桜は他の人の番でも曲が始まるなり拍手で迎えたり、合いの手を入れたり、サビで一緒にハモったりして場を盛り立てる。
これだけの人数がいれば必然、皆が唄えるわけでなく、また歌うのが苦手な人もいる。英梨花なんかがそうだ。そういう人たちは部屋のあちこちでは注文したスナックを囲んでおしゃべりしたり、ダーツに挑戦したり、連れだって外のドリンクバーへ向かったりなど、それぞれの楽しみ方を見い出していた。
また、それぞれ色んなグループを行き来するのが活発だった。きっと先ほどのボーリングのおかげで、普段交流しない相手と話す心理的ハードルが下がったおかげだろう。
だからというべきか、部屋の隅の方で壁の華になっていた英梨花のところにも、積極的に話しかける人がいた。
「葛城さんのその髪って、地毛なんだって?」
「綺麗な色してるよね、珍しー」
「ね、ね、ハーフかなにかなの?」
「顔立ちも明らかに日本人離れしてるし、羨ましいなぁ」
「ぁ……ぇっと……」
「親父がハーフなんだ。で、それ譲り。俺は母親の血が濃くて、妹は父の血が濃くて、それで。俺の方が黒に近いくすんだ赤だろう?」
ドリンクバーから戻ってきた翔太は、ふと目を離した隙に群がられた英梨花を守るかのように間に入り、カップを渡す。急に現れた翔太に目をぱちくりさせる彼女たちに苦笑しつつ、話題の方向転換とばかりに、自分の前髪を一房掴みながら話を続ける。
「これ、皆が思ってるほどいいもんじゃないよ。俺も中学入ってすぐ、上級生の怖い人たちに呼び出されてちょっとトラウマだし。それに小さい頃は他と違うって、色々」
翔太が窘めるように言うと、彼女たちはそのことを理解したのか、バツが悪そうに顔を背ける。きっと彼女たちも悪気があって言ったわけじゃないのだろう。それこそ、純粋にこの機会で英梨花と仲良くなりたいと思い、声を掛けたわけで。
少しばかり困惑混じりの重苦しい空気が流れる。
髪の色に関してはかつてのことを思い出したこともあり、ちょっと言い過ぎたかなと反省から眉を寄せていると、くいっと後ろから袖を引かれた。
「でも兄さん、守ってくれたから」
「え、英梨……ッ⁉」「「「っ!」」」
そんな言葉と共に、こうした場では珍しく英梨花は蕾が綻ぶようにはにかめば、翔太はドキリと胸を跳ねさせ、彼女たちも息を呑む。
そして周囲の空気が一転、別の空気に塗り替えられ彼女たちもにわかに騒めきだす。
「そっか、葛城くん過保護なところあると思ったら」
「うんうん、兄妹にしては仲良すぎると思ってたんだけど、なるほどね」
「いっやー、わたしもこんな風に守ってくれるお兄ちゃんなら欲しいわー」
「そりゃ葛城さんもブラコンになるよー」
「ぶ、ブラコッ⁉」「っ!」
ブラコンという言葉に虚を衝かれたかのように目を丸くする葛城兄妹。端からはそう見えるのかとか、兄妹とは疑われなかったのか、多くのことが脳裏を過ぎる。
どんな反応すれば言葉を詰まらせていると、タイミングよくカラオケのところから「おーい」と声を掛けられた。どうやら彼女たちの番が回ってきたらしい。
一言断りを入れて去っていく彼女たちの後ろ姿を見送り、そちらはそちらで盛り上がり始めるところを見てから、ふぅっと肩を落として息を吐く。
するとまたも、英梨花から遠慮がちに袖を引かれた。
「ごめん、兄さん」
「え、何が?」
「私のせいで、皆と遊べてない」
「あぁ、そんなこと。気にすんな、むしろなんだかんだ今日は英梨花と一緒にこういう場に来れてよかったと思ってるし」
「っ、そういうこと言うから、ブラコンになる」
「か、揶揄うなよ」
「ふふっ…………ぁ」
「……英梨花?」
その時、ふいに英梨花が固い声を上げた。どうしたことかとその視線を追えば、やけに目立たないようにして部屋を出ようとする北村の姿。
「そういやついさっき、みーちゃんも出て行ったかも……」
「っ! それは……」
英梨花の言葉を裏付けるかのようにパーティールームを見回してみるも、美桜の姿が見つからない。偶然、というにはわだかまるものがある。
スッと袖を持ったまま立ち上がった英梨花は、翔太を急かす。
「行こう、兄さん」
「あぁ」