17.妹というよりカノジョみたいだねー
商店街というには大仰だけれども、毎日の食料品を売っているスーパーの近くには郵便局にパン屋、花屋に個人医院など郡山モールとは微妙に重ならない施設が軒を連ねている。 この近隣の住民たちが日常的に通っているエリアであり、翔太たちも幼い頃から足繁く通ってきた。
当然、中学の頃からずっと家事を一手に担ってきた美桜は、ある意味この辺のちょっとした有名人だ。客も店員も、ある程度顔見知りに遭遇することも多い。
その美桜が急にオシャレしてやってくれば、娯楽に飢えた人たちの興味を惹くのは必然。
知人と出会う度に「どうしたの?」「いい人できた?」「あらあら、そういうこと? うふふ」と微笑ましい声を投げかけられる。
そんな感じでいつもより時間と体力を使っての帰宅。葛城家に戻って早々、美桜はそこいらに荷物を置き、勢いよくソファーへと身を投げ出した。
「疲れたーっ!」
美桜の葛城家での我が物顔な振舞いはいつものことだ。それはまぁいい。
しかし今日の美桜は普段は穿かないミニスカートである。当然、ふわりと舞って捲りあがり、足の付け根の水色のものがチラリと見えかけドキリとしたところで――急に目の前が真っ暗になった。
「おわっ⁉」
「兄さん、ダメ」
続けて耳に掛けられる英梨花の言葉と吐息。それから背中に押し付けられたささやかだが確かに感じられる双丘の膨らみに、動揺を露にしてしまうのも無理はないだろう。
その英梨花はといえば、少しばかり咎める口調で美桜に向けて言い放つ。
「みーちゃん、見えてる」
「おっと、そういえばそうでした」
美桜のやけに気の抜ける掛け声と衣擦れの音の後、ややあって光を取り戻す。
それと共に離れていく体温に寂しさを覚えつつ振り返ると、英梨花は憮然とした顔で咎める色を湛えた瞳を美桜に向ける。
「みーちゃんは少々はしたない。ここには兄さんもいる」
「やー、しょーちゃんなら別にいいかなって」
「ダメ」
「えー今更だよね、しょーちゃん?」
「……俺に振るなよ」
有無を言わさぬ英梨花の迫力にたじたじになった美桜が助けを求めてくるも、翔太は巻き込まれるのはごめんだとばかりに距離を取って首を振るのみ。
なおも英梨花にジッと見つめられる形になる美桜。
やがて「うっ」と呻き声を上げ、観念したとばかりに軽く両手を上げた。
「はいはい、今度からスカート穿いてる時は気をつけマス」
「…………ん」
美桜の言葉に、なんとも煮え切らない感じで頷く英梨花。
ホッと息を吐いた美桜はそんな英梨花をまじまじと見つめ、何の気なしに思ったことを言う。
「なんだかさー、えりちゃんってば妹というよりカノジョみたいだねー」
「っ」「むぅ」
彼女。
その言葉に少しばかり肝が冷える。やはり兄を持つ妹である美桜から見てみても、英梨花との距離感は近過ぎるのだろうか?
英梨花はといえば、困った風に眉を寄せている。
こちらの様子に気付いていない美桜は、ソファーの上で胡坐をかいたままぐぐーっと大きな伸びをして、窓から見える空の様子に悩ましそうに呟く。
「む、お天気がちょっと怪しいかも。今日は晴れるって言ってたのになぁ」
「じゃあもう取り込んでおこうか?」
「あ、お願……えっち」
「そ、そういうんじゃねぇ!」
「あはは、ウソだって。シーツや服とかお願いね」
「ん、私も」