14.こう局部を一日中押し付け汚したものを1つの洗濯機で洗って混じり合うのって、それもう実質セッ――
その後、翔太は英梨花の気配が自室にあることを確認してから、「はぁ」と大きなため息を吐いて部屋を出た。
階段を降りていると、下からパタパタと動き回る音が聞こえてくる。美桜がなにかしているのだろう。
リビングに顔を出せば、ダイニングテーブルの上にはすっかり冷めてしまったピザトーストとミルク多めのカフェオレ。温めなおすのも面倒なので、そのままいただくことに。
時間が経っているせいで、玉ねぎとピーマンから出てきた水分でしけっていたものの、なんだかんだ空腹だったこともあり一息に頬張り、温くなったカフェオレで一気に流し込む。
食べ終えた食器を流し台の方へと持って行こうとしたその時、廊下から顔をだした美桜が話しかけてきた。
「お、しょーちゃん起きたんだ。お布団のシーツ持ってきてよ。学校始まったら洗う機会中々ないだろうしさ、今のうちに洗っときたいんだ」
「あぁ、わかった」
「洗濯機の中に放り込んどいてね~」
そう言って洗濯籠を抱えた美桜は、パタパタと庭へと向かう。
美桜は昨夜と同じくひっつめ髪にスウェット姿。こちらは何の違和感もなく、この家に馴染んでおり、ホッと頬も緩もうもの。
部屋に戻った翔太は布団のシーツを剥ぎ取り、ついでに寝巻も洗った方がいいなと着替えを済ませ、因縁の洗面所へ。扉を前に立ち止まった翔太は、コホンと咳払いをして深呼吸を1つ。コンコンとノックをする。
当然ながら誰の気配もなく、返事もない。そもそも昨夜のような偶然なんて早々あってはたまらない。そんなことを思いながら中へ身体を滑らせ――
「っ⁉」
そして洗濯機の蓋の上にわざわざ丁寧に置かれていたあるものを見て固まった。固まってしまった。
気を緩ませていたというのもあるかもしれない。
しかし誰がそんな目立つところに堂々と女子胸部の形状を整え、形が崩れることを防止するための下着が、2つもあることを想像できようか。
片方は淡いブルーのもの。
可愛らしいレースがあしらわれたそれは清楚さと上品さが同居し、爽やかで少女らしい印象を受ける。
もう片方は黒。
さりげなく赤いリボンもあしらわれ色気の中の可愛さも浮き彫りになっており、大人と子供の両方を兼ね備えた少女特有の魅力を演出するのにぴったりだろう。
どちらにせよ翔太にとっては今まで縁の遠かった代物であり、異性を強く意識させるものだ。ドクドクと心臓が全力疾走もかくやというほど早鐘を打つ。
何かの罠? 俺、試されてる? やけに可愛らしくない? 黒とかちょっと背伸びし過ぎじゃ?
翔太はそれに視線を釘付けにされたまま、ぐるぐると困惑した思考を巡らせていると、いつの間にか傍にまでやってきた美桜がやけに神妙な声で囁いた。
「黒とかやばくね?」
「っ、美桜⁉」
「やー、さすがにもうすぐ高校生になるとはいえどさ、まだ早いというか……でもなー、えりちゃん大人っぽいからなー、アリってのもわかるんだよなー?」
そう言って美桜はブラジャーを摘まみ上げながらうんうんと頷く。
どうやら黒は英梨花のものらしい。まったくもってこれはそう、兄としてけしからん。
だがスラリとした英梨花には確かに似合うかもしれない。悶々とする。もし昨夜、ほんの少し早く洗面所に行っていたら、その答えがわか――って、いやいや何を考えているんだ、と我に返った翔太はぶんぶんと頭を振り、努めてむくれた声色を作って現物を見ないようにして言う。
「なんだよ、それ」
「あぁ、こっちのあたしのこれ服に合わせて買ったやつ」
「聞いてねぇよ!」
「いっやー、でも可愛くね? どうせなら見えないところもちゃんとした方がいいと思って……、はっ! これってアレだ! いわゆる勝負下着だ!」
「バカ、何言ってんだ。そうじゃなくて、なんでそれだけそこに置いてんだよ」
「やー、それ洗おうとしたんだけど、洗濯ネットがなくてさ」
「洗濯ネット? そういや見たことないな」
「ほら、そのまま洗うとストラップとか絡まっちゃうから。あ、しょーちゃんと一緒に洗うと嫌とかじゃないから、安心して?」
「はいはい」
「ん、でもふと思ったんだけどさ、こう局部を一日中押し付け汚したものを1つの洗濯機で洗って混じり合うのって、それもう実質セッ――」
「おま、何言ってんだ、バカ!」
「ぁ痛っ」
やけに馬鹿なことを真剣に語る美桜の頭を、ペシッと叩いてツッコミを入れた。
てへりと舌先を見せる美桜。少々見てしまったことに気恥ずかしさなり罪悪感があったが、そんな慣れた幼馴染のやりとりに薄れていく。正直、少し助かった。
「わかった。じゃあ買ってくるよ。でもどこに売ってんだ?」
「んー、百均やスーパー、ドラッグストアとか?」
「色んなとこで売ってんだな。わかった、行ってくる」
翔太はそう言ってシーツと寝巻を洗濯機に放り込み、洗面所を出ようとしたところで、やけに愉快気な美桜に声を掛けられた。
「そういや随分熱心に眺めていたけどさ、しょーちゃんどっちの色が好みなの?」
「んなっ⁉ し、知るか!」
「にひひ」
揶揄われた翔太は顔を真っ赤にして、洗面所を飛び出していくのだった。








