101.美桜が考える、血の繋がらない私たちが家族になるたった一つの方法
体育祭の終わった帰り道。
美桜たちは影を長く引き伸びされながら、歩き慣れた帰路に就いていた。
やけに上機嫌の美桜は、運動後特有の疲労による心地よい倦怠感に包まれながら大きく伸びをしつつ、しみじみと言う。
「やー、しょーちゃんって、たまに突拍子もないことしでかすよねー」
「兄さんってば完全に全校生徒に向かって、私とみーちゃんを侍らせてるろくでもない奴って思われちゃったね」
「あーあ、あたしたちもどんな目で見られることやら」
「シスコンを拗らせてる人の彼女とその妹?」
「あはっ」
「ふふっ」
「……あの時は、アレが一番だと思ったんだよっ!」
揶揄われ過ぎた翔太は顔を真っ赤にしながら、ずんずんと足早に先を行く。
その後ろ姿をくすくすと笑う美桜と英梨花。
確かに借り物競争での翔太には驚かされた。
バカみたいなことをしたと思う。
だけど、とても翔太らしいと思ったのも事実。
しかしその一方で理に適っていると思えた。
あれほどの大勢の前で恋人とシスコン宣言をして皆に周知させたのだ。しかも、なんだかんだと好意的に受け止められている。もはや公認の仲。だからもし、そんな風に周囲に認められている美桜や英梨花に誰がちょっかいを出したとすれば、果たしてどう思われることか。ある意味、絶妙の一手でもあっただろう。
馬鹿だな、と思いつつも胸はどうしたわけか温かい。
美桜はクスリと笑みを零しつつ、ふいにかつて母が亡くなった時のことを思い出す。
寂しさを埋めようして、家のことを頑張り過ぎて、倒れてしまった。
その時に言った翔太の言葉はなんだったか。
『おれ、あったかいごはんが食べたいんだ。みおが作ってよ』
家事で頑張り過ぎた美桜に対し、あまりに不適切ともいえるもの。
だけど、今なら何故そんなことを言ったかわかる。
翔太は美桜が頑張り過ぎないよう、すぐ傍で見張ろうとしてくれていたのだ。
でも確かに、思い返せばそれを切っ掛けに翔太の家に、葛城家に入り浸るようになり寂しさも紛れ、あの頃の美桜は救われた。
やり方はとてもじゃないがスマートじゃない。
翔太は不器用なやつなのだ。
そして、その不器用さから、失敗もしている。美桜は、そのことを間近で見たではないか。
もしかしたらこれから先もまた、同じように失敗して傷付くかもしれない。
だとすれば幼馴染として、今度はこちらが目を光らせなければならないだろう。
「くすっ」
口元を緩め笑う美桜。
その時、英梨花がこちらを不思議そうに見ていることに気付く。
翔太の妹である英梨花は、美桜にとってもまた、妹分だ。
最近成長が目覚ましいものの、まだまだ危なっかしいところもある。
本人は気付いていないだろうが、今日だけでもどれだけ男子が下心を出して近付こうとしていたことか。
翔太だけでなく英梨花も、姉としてフォローしなければと思う。
(しょーちゃんもえりちゃんも、目が離せないんだから!)
今は同じ屋根の下で暮らしているものの、期間限定。それくらい美桜もわかっている。卒業したらどうなるか不安だ。
眉根を寄せ、唸ることしばし。まるで天啓のようにそのアイデアが降ってきて、思わず英梨花に向けて弾んだ声で言う。
「ね、ふと思ったんだけどさ、あたしが本当にしょーちゃんと結婚するのって、アリじゃない?」
ちょっとした思い付きによる軽口。
だけど名案のように思えた。
今だって恋人として振舞っているし、夫婦になったとして今とさほど変わりはしないだろう。
もし翔太と結婚すれば今まで同じように傍に居られ、しかも英梨花は義理とはいえ本当の妹になるのだ。
きっと英梨花も賛成してくれるに違いない。
「……………………ぇ」
そう思ったがしかし、英梨花はこれ以上なく驚愕に目を大きく見開いている。
「えり、ちゃん……?」
「……………………」
英梨花に声を掛けても反応がない。まるで魂が抜けてしまったかのようだ。
それだけ衝撃的なことだったのだろうか?
わからない。
美桜の頭の中を戸惑いが支配する。
そして美桜はぎこちない笑みを浮かべ、先ほどのことを誤魔化す様に言った。
「な、なんてねっ!」
これにて2章終わりです
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