10.妹の知らない幼馴染の事情
それからしばらく後。
葛城家リビングのテレビの前では、白熱した空気が渦巻いていた。
「ほら、そこ! しょーちゃん!」
「わかってるって! ……げっ⁉」
「甘い」
「うそでしょ、それに反応する⁉」
「くそ、これなら……美桜っ!」
「応さ!」
「予想済み」
「え゛、避けられた⁉」
「マジかよ、これでもダメなのか」
「ふふっ」
三人が熱中しているのは、子供の頃にもよく遊んでいた対戦アクションゲームの最新作。
最初は和気藹々と楽しんでいたのだが英梨花が思いの外、というか圧倒的に強く、いつしか翔太と美桜が手を組み挑むという形になっていた。
その後何度も挑むが2対1にもかかわらず一度も勝てず、どんどんムキになっていく翔太と美桜。英梨花が軽くあしらい「フッ」と薄く笑えば、挑発されたと感じますますヒートアップしていく。
こうして幾度も対戦を重ねるも、結局英梨花から勝利をもぎ取れなかった。
やがて美桜は両手足を投げ出し、バタンとラグカーペットに倒れ込む。
「はぁ~、えりちゃん強いねー。昔はそんなイメージなかったのに」
「ん、結構やり込んでる。でもみーちゃんと兄さんも手強かった。息ぴったり」
「そりゃ美桜とはちょくちょくやってるからな。互いの手のうちもわかってるし」
「それでも、一勝もできなかったの、ぐや゛じい゛~」
「いつでも受けて立つ」
「こら、ジタバタするな。子供か!」
子供の様に手足をバタつかせる美桜。
その際スカートがふわりと舞い、いつもは隠されている思った以上に白い太ももが露わになってしまい、慌てて目を逸らしてツッコむ言葉と共に「はぁ」と大きなため息を1つ。英梨花も美桜の様子には苦笑い。
美桜が全身で悔しさを表現することしばし。いきなりぴたりと動きを止めたかと思えば、勢いよく跳ね起き、英梨花へと手を伸ばした。
「ん、でもこれからはいつでも再戦できるんだよね。……おかえり、えりちゃん」
「ぁ……うん、ただいま」
英梨花は一瞬虚を衝かれたものの、目を細めて美桜の手を握り返す。
言いたいことは色々ある。
けれど、妹と幼馴染が昔と同じように傍に居る。あの時と同じような空気で。
きっと、美桜が皆でゲームをしようと言い出したのは、この為だろう。翔太も頬を緩ませる。
「それにしても、えりちゃん綺麗になったね~。これはしょーちゃん、変な気とか起こしちゃうんじゃない?」
「っ、起こすか、バカ! ……妹だぞ」
「いやほらかなりの空白の時間があったわけだし、妹よりも身近な可愛い女の子って思ったり……ほらそれに、『実の兄妹だからいいんじゃねえか』だっけ?」
「……?」
「おい、美桜!」
「ふひひ」
昨日のエロ同人誌の台詞を持ち出し、ケラケラと悪戯っぽく笑う美桜。
首を傾げる英梨花に、慌てて声を上げる翔太。何の話かと聞かれても、エロ同人誌だと答えられようハズもなく、美桜をねめつける。
すると何かにハタと気付いた美桜が、少し唇を尖らせながら訊ねてきた。
「あ、そういやえりちゃんの写真送ってって言ったよね?」
「う、それは……すまん、色々あって忘れてた」
そんな約束もしていたなと思い出すものの、昨夜は英梨花が本当の妹ではないと判明してそれどころじゃなかった。
「まったく……でも、こんな可愛い妹を独り占めしたくなるのはわかるけどさ」
そう言って美桜はぎゅっと英梨花を抱きしめ頬擦りをする。
されるがままになって照れ臭そうに頬を染める英梨花。
それを確認した美桜は、羨ましいだろと言いたげなドヤ顔で口を開く。
「約束はちゃんと守らないとモテないぞー」
「……うっせ。別に妹や幼馴染にモテたいとは思わねえよ」
「ぶぅ、なんだよぅ。世の男子ってものは幼馴染にモテたいもんだろぅ」
「それは現実を知らないやつらにとってのもんだ!」
「うぐ、それを言われると自覚があるだけに辛い!」
翔太の憎まれ口に、頬を膨らませる美桜。
するとその時、ぐぅ、という腹の音が響いた。
音の出どころへ視線を向ければ、恥ずかしそうに俯く英梨花。
窓から差し込む陽は随分と柔らかくなっており、時刻を確認すれば4時半過ぎ。随分と長い間、ゲームに没頭していたようだ。
目の前のローテーブルには昼食兼用に摘まんだお菓子類。そういえば朝からロクに食べていない。そのことを意識すると、翔太もたちまち空腹を覚えてくる。
それは美桜も同じの様で、お腹を擦ったかと思えば「よっ」と掛け声と共に立ち上がり、キッチンへと向かう。
「ちょっと早いけど、夕飯にしよっか」
「おぅ、適当に頼む」
「冷蔵庫、何あったっけ……」
美桜は慣れた様子で冷蔵庫を開け、中を確認し、「キャベツ、豚バラ、もやし……トマト缶もあったっけ」と呟きながら、あれこれと献立の算段を付けていく。
見慣れた光景だが、しかし今日の女の子らしい恰好からか、妙に胸がざわついてしまう。頭を振ってもやもやを追い出そうとしていると、英梨花が何とも不思議そうに美桜を見つめていることに気付く。
あぁ、なるほど。翔太にとってはいつものことでも、確かに幼馴染とはいえ他人の家での振舞いとしては、無遠慮にも映ることだろう。慎重に言葉を選び、事情を語る。
「美桜のところさ、英梨花と離れてから、その……5年前に母親を亡くしたんだ」
「…………え?」
「一時は荒れて色々あったけど、まぁそれでうちに入り浸ることも多くなってさ。んで、母さんが仕事遅かったりしたもんだから、ちょくちょくうちでメシを作ることが多くなって、それで」
「そぅ……」
「ま、それに甘えちゃったおかげで俺、料理はさっぱりだけどな。英梨花は?」
「苦手」
「そっか、一緒だ」
そう言って翔太と英梨花は顔を見合わせ、苦笑を零した。
オッス、オラ作者!
この作品がジャンル別4位まで浮上しててえれぇおどろいてるぞ!
このままもっとランキング上位に行って他のおもしれー作品と戦えるとおもうと、オラわくわくしてくっぞ! 皆、オラに★★★★★を分けてくれ!
次回「作者またしてもポエムを読む」
皆、引き続き読んでいいねや感想で応援してくれよな!
感想は「にゃーん」だけでいいからね!
追記。
今見たら2位まで浮上していました!
評価とかまだの方、ぜひぜひ応援よろしくお願いします!