表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

弱さを見せる

 能力測定はグラウンドで行われるらしい。普通の学校より遥かに広いグラウンドには既に多くの生徒たちが集まっていた。


「わぁ……すごい人……」


 人混みの奥にはモニターや的のようなものなど、様々な器具が設置されている。あれを使って測定を行うのだろう。


「はぐれないように手、繋がない?」


「え……」


 私の承諾を待たず、グレイスは強引に私の右手を握りしめてきた。その小さな手のひらから伝わる体温に心臓がドクンと跳ね上がる。

 柔らかい……。

 それに温かい……。なんだか安心する……。


「あはは、緊張してるんだ。かわいい」


「うぅ……」


「だいじょぶ大丈夫! 私がついてるから」


 配達のアルバイトをしている私だが、人と関わることがあまり得意ではない。

 初めての土地、初めて会う人ばかりの中で上手くやっていけるか不安だったが、隣にいる彼女のおかげでなんとか平静を保てていた。


「おっ、早速測定が始まるみたいだね」


 教師らしき女性がメガホン片手に、大きな声で呼びかける。


「はいはい、皆さんお静かに〜。これから、オクシデント中央学園の能力測定を始めます〜」


「え!?」


「うそ……」


「あの人が先生なのか?」


 周囲の生徒がざわつき始める。無理もない。目の前に現れた女性は、身長140センチほどしかなく、とても成人しているようには見えないからだ。


「え〜能力測定と言っても、握力や持久力を測定するわけではありません。今日測るのは、魔力と協調性、そして皆さんの制服のサイズで〜す」


「「「「はぁ?」」」」


 魔力と制服のサイズはともかく、協調性って測れるものなの……? というか、その二項目しかないのなら私はダメかもしれない……協調性も魔力もゼロだから……。


「それでは、まずは魔力の測定から始めま~す」


「はいはいはいはいはい! 俺からやります!」


「あ、ズルいわよ! あたしが先よ!」


「うるせえ! 早いもん勝ちだろうが!」


「はい。落ち着いて下さ〜い。測定は学籍番号順でお願いしま~す」


 学籍番号? そんなものあったっけ……。

 念のため持ってきておいた手紙の中を見ると、それらしきカードが一枚。


「私の番号は……1024!?」


 1000番台ってことは、かなり後ろの方だ。これだと順番が来るまで相当かかるんじゃ……。


「あ、私13番なんだ。ごめんね、ミオちゃん。先に行くね」


「あ、うん……大丈夫」


「じゃ、また後で会おうね!」


 人混みの隙間を縫って駆けていく彼女の背中を見送る。


「…………」


 どうしよう……知らない人ばっかりだ……。やっぱり全然大丈夫じゃない! 助けて、グレイスちゃあああん!!



 ☆★☆



「はい、次。1024番の方」


 三十分ほどして、やっと私の出番がやってきた。


「はい……」


「では、こちらにどうぞ」


 誘導されるまま、部屋の中に入る。そこには、的のようなものが横並びに設置されていた。

 隣では、別の学生が同じように計測を行っている。さらに、測定が終わった生徒も向こう側で様子を(うかが)っているようだ。


「えっと……どうすれば……」


「あなたの持ちうる最大の力で、あの的を攻撃して下さい。それを数値化しますので」


「……は、はあ。…………」


「どうかしましたか?」


「魔法は使えないんで、パンチでもいいですか?」


 提案を聞いた瞬間、職員の顔が何言ってんだコイツという表情に変わる。


「ええ……いいですけど……」


「では……」


 的の前までゆっくりと歩いて行く。その光景は異様なものに見えるのだろう。周りの視線が私に集まる。


「……すぅ」


 大きく息を吸い込み、力を込めて思いっきり拳を振り上げる。


「えいっ!」


 バキッ……。


 渾身の一撃を放ったものの、的は少し揺れたくらいで傷一つついていない。


「えっと……もうちょっと強い方が……」


「すみません……これが限界です……」


「そ、そうですか……ポイントは1……ですかね」


 一瞬の静寂の後、周囲から笑い声が響き渡る。


「ぎゃははは! 1ポイントだってよ!」


「ぷふっ! ダッサ!」


「何あいつ! なんでこの学園に来てんの? ウケるんだけど!」


「おい、笑うなよ! こいつ、マジで殴ったんだぜ? ほら見ろよ、手ぇ真っ赤じゃん! ははは!」


「……」


 惨めではあるけど、特に恥ずかしいとは思わない。予想通りの反応だったし、慣れっこだった。

 エリートの中に凡人が一人。当然の結果だ、別に気にしてなんかいない。


「では先にお進みください。次の方〜」


「はい……」


 でも、やっぱり少し悔しいな。


「はぁ……」


「ミオちゃん! 大丈夫!? 人の頑張りを笑ったりするなんて、ひどい人達だよね!」


 人混みをかき分けてグレイスが駆けつけてくる。頬を丸めて怒る姿も可愛らしい。

 彼女の青い瞳に見つめられると、不思議と気持ちも落ち着いてくる。


「ありがとう。でも、私の実力が足りないだけだから……」


「そんなことないよ! 私だって10ポイントだったし! 頑張っただけで偉いと思うよ!」


「グレイスちゃん……ありがとう」


 優しい言葉が心に染みる。彼女は天使なのだろうか?

 顔もお人形みたいだし、もしかして本当に天使……


「頑張るだけで偉かったら苦労しねぇよなぁ?」


 突然、背後から声が聞こえてきた。この声はつい最近聞いたばかりだ……。


「げっ! あんたは……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ