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1-3 せっかくのチャンス!

『先日は時計塔から落ちたところを助けていただき、ありがとうございました。お礼と言うわけではございませんが、あなたを我が校の特待生として迎え入れたいと考えております。

つきましては、下記の日時に採寸や能力測定などを行うので当校まで足を運んで頂きたく存じます。

なお、入学金などは一切不要で、学費なども全て免除させていただきます。

しかし、拒否なさる場合はあなた様の犯した犯罪について公開させていただくことになりますので、どうか懸命な判断をよろしくお願い致します』


 …………な、なんじゃあこりゃあ……。意味がわからない。いや、内容は簡潔にまとめられていてわかりやすいのだけれど、書いてあることの理解に苦しむ。

 時計塔って……昨日の女の子だよね。

 どうやって、住所を調べたんだ……。それに名前もバレているみたいだし。


「まぁ! すごいじゃない! 特待生ですって!」


「え……いや……」


 どう見てもあやしい。最後の一文とか完全に脅迫文だし、お礼ではないって本音が出ているし……。

 学生という名目で私を招待して、昨日の続きをさせるつもりかもしれない……。


「ねえねえ! どこの学校? 制服かわいい? 寮はある? 部活は?」


「ちょっ……落ち着いてよ」


 お母さんが私の肩を掴んで激しく揺さぶってくる。すると、封筒から学校のパンフレットらしきものがヒラヒラと舞い落ちてきた。


「あら、いけない」


「もう……気をつけてよ」


 床に落ちたパンフレットを拾い上げる。表紙に校章のようなものと、その下に……


「私立オクシデント中央学園……」


「あらあら! すごいじゃない! 中央よ、中央! 大都会よ!」


 お母さんは嬉しそうにぴょんぴょん跳ね回っている。けど、私としては不安しか覚えない。

 オクシデント中央学園。名前の通り、私たちの住む街、オクシデントの真ん中に位置する名門校だ。

 数々の著名人を輩出していて、特に魔法関係に関しては世界トップレベルだと言われている。


「はあ……」


「どうしたの? 中央に行けるのよ? もっと喜びなさいよ」


「うーん……」


「あ、もしかして……男の子と一緒なのが嫌なの? もう! 恥ずかしがり屋さんね!」


「違うよ! ただ……」


 本当に行っていいのだろうか。

 こんな脅迫文みたいな手紙に従っても、まともな学園生活を送れるとは思えない。それに、名門校にふさわしい力を私は持っていない。


「……中央って、上流階級の人たちが集まる場所だよね。私みたいな凡人がそんなところに行っても恥をかくだけじゃないかな」


「何言ってるのよ。上流とか下流なんて関係ないわ。あなたには力だってあるんだし、きっとうまくやっていけるわよ」


「……あの力は私のものじゃない。あれは、みんなを助けるヒーローの力なんだ」


 そうだ。あれはヒーローのであって、私の力じゃない。

 だから、私の力としては数えられないし、数えたとしても、人を救う力が学園生活に役立つとは思えなかった。


「そう……でも、せっかくだから能力測定には行ってみない? そこでダメだと思ったら、辞めればいいんだし」


「それは……そうかも」


 確かに、一度体験するだけならタダだ。もし合わなければ、辞めれば良いだけの話。

 そこであの女の子にも会えるだろう。そしたら、もうこんな手紙をよこさないように言って、万事解決だ。


「うん……わかった。行ってみるよ。せっかくのチャンスだもんね!」


「うんうん。そうこなくっちゃ!」


 自分を元気付けるために精一杯の笑顔を作ると、お母さんも満面の笑みを浮かべてくれた。



 ☆★☆



「はぇぇぇ…………」


 天高く伸びるガラス張りの建造物。アスファルトの上を交差する鉄の箱。そして、行き交う人々の群れ。

 全てが未知の光景だった。


 これが都会……。人がたくさんいる……。

 歩道って人でいっぱいになることあるんだ……。

 建物も全部大きいし、空が狭い……。

 あれなんて何階まであるんだろう……。


「すぅ……はぁ……」


 胸の前で手を握り締めて深呼吸をする。

 大丈夫。周りに合わせていれば、浮かないはず……。


「えっと……地図によるとこっちかな……」


 指定された場所はこの大通りを真っ直ぐ行ったところにあるらしい。


「よし……」


 都会の空気に包まれながら、人の流れに合わせて歩いて行く。

 しばらくすると、人の合間からそれらしきものが見えてきた。


「大きい……」


 レンガ造りの大きな門。その先には宮殿のような外装の建物が1、2、3、4……とにかく沢山建っている。

 さらに奥には、噴水付きの庭園あったりして、この都会の雰囲気とはかけ離れた空間が広がっていた。


「うわあ……」


 思わず感嘆の声を漏らしてしまうほど美しい風景に目を奪われていたその時――


 ドスッ……


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