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1-2 ママ

「ふう……セーフ」


 この町のありとあらゆる遮蔽物を使いこなすこと数十分。ようやく家に帰ることができた。


「ただいまー」


 玄関の扉を開けるとそこにはいつも通りのお母さんがいた。エプロン姿におたまを持っていて、右肩から下げたピンクの三つ編みがチャーミングポイントの優しいお母さん。


「おかえりなさい。遅かったけど……って、また服をダメにしちゃったの?」


「ごめんなさい……」


「もう、しょうがない子ね。でも、誰かを助けようとした結果なのよね?」


 緑の瞳をぱちくりとさせて、柔らかな微笑みのままお母さんは聞いてきた。


「まぁ……うん……」


 あの女の子は死にたがっていたから、本当に救ったと言えるのかはわからない。

 けど、力は発動したんだ。あれが救いだったと信じる他ない。


「そう。ならよし。新しい服はお母さんが買ってあげるから、早く着替えてきなさい」


「いいよ。ご飯食べたらすぐにシャワー浴びるんだし」


「あらそう? それなら良いんだけど……。その格好に興奮を覚えて、露出魔とかにならないでね?」


「ならないよ……」


 口に指を当てて、なぜか心配そうな表情を浮かべる母さん。

 そんな彼女を適当にあしらって、食卓についた。

 オーブンからチーズの焼ける匂いがする。今晩のメインはグラタンのようだ。私の一番の好物。あの暖かい感じがお母さんのハグみたいで……心も体も温まるから……。


「はい、どうぞ」


「うん、ありがとう。いただきます」


………………

…………

……


「ごちそうさまでした」


 食事を終えて、食器を片付ける。

 その足で脱衣所へ向かったものの、そこで気がついた。眠い……。

 鏡には白のロングヘアに、金色の瞳、天を貫くアホ毛、そしてその下にできた大きなクマが映っている。

 これはひどい。お母さんにはああ言ったけれど、今日はもう寝よう。明日もバイトあるし。

 自室は二階にある。しかし、自分が疲れているのだと分かった途端、足が鉛のように重くなった。

 階段もギシギシと悲鳴を上げている。


「はぁ……」


 なんとか部屋に辿り着き、ドアノブに手をかけたその時……


「お姉ちゃん、もう寝るの? 遊んでくれないの?」


 妹のメアリが脚に抱き着いてきた。


「ごめん、今日ちょっと疲れてるの。また今度遊ぼうね」


「ふーん……じゃあ、今日は一緒に寝よ?」


「それもだめ」


「むぅ……」


 頬を膨らませる妹を置いて、部屋の中に入る。

 これと言って特徴のない殺風景な部屋だが、唯一目立つものといえば、机の上に飾られた猫のぬいぐるみくらいだろう。

 元々真っ白だった毛並みも、今は埃を被って灰色になっている。それがこの部屋においてはある意味で異彩を放っていた。


「……」


 それをしばらく眺めてから、ベッドに倒れ込んだ。セミダブルサイズのベッドは私を包み込むように優しく受け止めてくれる。まるで天使の羽に包まれたかのような心地良さだ…………。



 ☆★☆



 チリリリリンッ


 目覚まし代わりのチャイムに目を覚ます。こんな朝早くに一体誰だろう……。


「はーい」


 どうやらお母さんが対応しているようで、玄関の方から話し声が聞こえてくる。


「えっと……どちら様ですか」


「郵便です。ミオ様宛にお手紙が届いておりますので、どうぞこちらにサインをお願いします」


 サインが必要な手紙。しかも私宛? なんのことかさっぱり…………いや、待てよ。もしかして、今まで破壊した壁の修理費請求書……。

 だとしたら、なんで……。バレていないと思ったのに……やはり、悪は滅びる運命にあるということか……。


「はい、どうも。ありがとうございます」


「お母さん……その手紙……」


「ああ、あなた宛てよ。ほら」


 手渡された封筒をまじまじと見つめる。表にも裏にも差出人の名前は書かれていない。

 恐る恐る封を切ると、中には一枚の便箋と何かの冊子やらが入っていた。一番手前の便箋を取り出して、それを開く……。


『先日は時計塔から落ちたところを助けていただき、ありがとうございました。お礼と言

うわけではございませんが、あなたを我が校の特待生として迎え入れたいと考えております。

つきましては、下記の日時に採寸や能力測定などを行うので当校まで足を運んで頂きたく存じます。

なお、入学金などは一切不要で、学費なども全て免除させていただきます。

しかし、拒否なさる場合はあなた様の犯した犯罪について公開させていただくことになりますので、どうか懸命な判断をよろしくお願い致します』


 …………な、なんじゃあこりゃあ……。

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