♯21 炎と氷のトリガー!
「イベントエリアは何とか全部クリア出来たけど……最終的な順位決定の、ポイントの割り振りみたいなの知らされてさ。クリア順位もそうだけど、レア装備やアイテムの入手率とか、隠しエリアの入室率とか、後は残りライフポイントやNM討伐数とか……」
進は途方に暮れている感じで、複雑な順位決定のポイント制について弾美に説明している。要するに先着順では無いという事らしく、それは遅解きも正解の一つであると発表があった時から知れている事実ではあるのだが。
最終的には、クリアした時点でのパーティ総ポイントの多いチームが優勝らしいとの事。もちろんどのパーティも、自分がどれだけ貯め込んでいるかなど知りようが無い。
ましてや、他人のチームの事など問題外。
「それじゃあ、全部のチームがクリアしてみないと、順位なんか分からないって事だよなぁ。ラリーみたいに、現在暫定1位チームとかって発表するのかな?」
「さあ……多分、最終日の27日過ぎれば確定だから、そこで発表じゃないかな? 真っ先にクリアしたチームも、今は地上に戻ってポイント稼いでるって話だぞ」
「えっ、クリアしてもまだ地上に戻れるのか?」
「ああ、いやいや……途中のイベントエリアな、5部屋ある奴。その後は、本当に最終エリアらしくってさ。マジに後戻り出来ない仕掛けらしいけど」
へえっと、納得したり驚いたりの雰囲気のゲーム会話集団。話題の中に、ようやく最終エリアと言うキーワードが出て来て、期間限定イベントが最終局面を迎えた事を伺わせる。
いよいよな感じと同時に、長かった日々を思い遣って感慨に耽る生き残り組。
今回の限定イベントの1位から3位の賞品も、同時に発表されたと進の言葉。賞品はなかなかに豪華だが、副賞みたいに商品券なども付属しているのが有り難い。
今回の限定イベント初となる、開発局の特別スタッフ登録ってのは何だと、クラスメートは混乱気味に憶測を並べているようだが。ひょっとしてゲームの開発チームに加われるのかと、興奮した声も聞こえて来る。
裏技でその意味を知っている弾美は、冷や汗タラリ。
「今や、イベントクリア組は、慌ててフリーエリアでNMを狙ったり、裏エリアへのメダル集めに奔走してるって話だけど……中でもメダル必要だから、あんまり意味無いよな」
「10枚+6枚だから、半端な数字じゃないのは確かだなぁ。本当に命を売る位しないと、今からじゃあ入れないんじゃないのかな?」
「これで俄然、裏エリア攻略組は優位に立てた気がするよな。弾美は全部回ったんだし、本当にベスト3位に入ってるかもなぁ」
それはどうか分からないが、まだ全滅をしていないというのは有利な点に違いない。もっとも、難所はまだまだこれから挑む予定。この先の事は、本人にも分からないのだが。
裏エリアを回り切ったと言うのに、まだ金のメダルを20枚も所有している事実に驚く進達。それなら個人強化にもメダルを注ぎ込めると、皆が羨ましがっている。
パーティにのんびり屋が多いので、そんな話題にはなりにくいのだが。金のメダルを余らせるのも勿体無いので、そろそろ考えるべきかも知れないとは弾美の内心。
トリガーもまだ未使用がいっぱい。事によると、まだまだメダルが増える可能性も。
クラスメートが、来週から中間テスト1週間前だと口にした。もうそんな時期かと、あちこちからため息が漏れる。来週には期間限定イベントも終了し、テスト範囲が発表される。
エスカレーター式のこの学校だが、もちろん節目のテスト期間は、学生達は目の色を変えて勉学に打ち込む。何しろ、面目上は学業は学生の本分なのだから。
弾美もそうだが、瑠璃と言うブレーンがいる分マシな方である。
瑠璃の凄い点は、理系寄りのの頭脳を持ちながら、文系が好きで両方で良い点を取る所。範囲の山張りも明快で、弾美はもちろんギルド仲間などはいつもお世話になっている。
中間テストに安心して打ち込むためにも、是非限定イベントをスバッとクリアしたい物だ。
「それじゃあ……限定イベントが終わった頃には、ゲームも一旦封印だな、進。イベントの最終追い込み、お互い頑張ろうぜ」
「そうだな……無事にクリア出来れば、こちらも有り難いんだけど。何しろ、終盤に来てライフポイントが心許ないからなぁ」
「中間テストが終わったら、またメイン世界でのオン会と、美井奈とか薫っちとか誘ってオフ会とか企画しようぜ。せっかく仲間が増えたんだしなっ」
その言葉に、進も嬉しそうに口元をほころばせる。テスト期間中の『蒼空ブンブン丸』の活動一旦休止と言うのは、メンバー同士で決めた数少ない規律の一つ。
それが終わった後に、打ち上げ的にオン会やオフ会を企画するのも、今やギルドの決まり事の一つ。それが何よりの楽しみなのも、ギルドに所属する者達の特権である。
苦しみの向こうには、明るい解放が待っている。だから頑張る事が出来るのだ。
そんな事を思いつつ、クラスメートの配るプリントの定時連絡に目を通して行く弾美。もうすぐ5月が終わりを告げ、じめじめした梅雨まじりの6月となる。
午前の授業は既に終わっており、後は午後の授業と部活のみ。昼休憩中のクラス内は、ガヤガヤと騒音に満ちている。活気があるのは結構だが、物思いに沈むにはうるさ過ぎる。
――季節は巡り、やがて節目の時を迎える事となるのだ。
8時のインは毎度の事なのだが、話題はどうやら土曜日の合同インに傾いているよう。美井奈がたまには自分の家でやろうと提案し、その方向で話が進んでいる感じに。
マロンとコロンの散歩は、半ドンで部活の無い瑠璃が済ませて。それからモニター持参で、美井奈のマンションへと行く約束をする。これで土曜の予定は、ほぼ決定したのだが。
本当は木曜日の合同インをとの事だったのだが、何しろ美井奈の自宅には予備モニターが1つしかない。一度取りに戻ってしまうと、最短でも25分はロスしてしまう。
そんな訳で、明日は毎度の弾美の家という事で確定済み。
『土曜日はお母ちゃまはいないですけど、おもてなしはちゃんとしないといけませんねっ!』
『普通でいいって、美井奈。ゲーム出来る環境であれはいいからなっ』
『薫さんから貰ったハーブ、お母ちゃまが感謝してましたよっ! 有り難うございますっ(^‐^)/』
『いえいえ、こちらこそっ。まだまだあるので、また持って行きますねっ?』
冒険前なのに、何故か世俗の挨拶が入り乱れ。それもまぁ、大事な交流の潤いの一つでもあったり。今日のエリアは難所らしいから、みんな踏ん張るようにとは、リーダーの弾美の言葉。
イベントエリアも今夜で4つ目、ここを入れて残りはあと2つだ。
順調にレベルを1つ上げたハズミンは、前回に続いて闇系の魔法を取得。新しい魔法は《ダーククロス》という名前で、単体ではかなり強烈な攻撃魔法となっている。
ダメージと共にバインド効果も与えるそれは、MPの消費が多いのを除けば、かなり使い勝手が良い魔法である。装備と術書によって闇スキルが大幅に伸びたため、威力も高いのは保証付き。
新装備のベルトによって、ポケットの数が2つ増えたのも大きい。SPも連続スキル技使用に困らない程、装備によって増しているハズミン。
飛び道具も増えて、活躍の場もさらに広まりそう。
名前:ハズミン 属性:闇 レベル:32
取得スキル :片手剣66《攻撃力アップ1》 《二段斬り》 《複・トルネードスピン》
《下段斬り》 《種族特性吸収》 《攻撃力アップ2》
《上段斬り》 《複・ドラゴニックフロウ》
:闇72《SPヒール》 《シャドータッチ》 《闇の断罪》
《グラビティ》 《闇の腐食》 《闇の刺針》 《ダーククロス》
:竜10《竜人化》 :風23《風鈴》 《風の鞭》
:土25《クラック》 《石つぶて》
種族スキル :闇32《敵感知》 《影走り》 《SPアップ+10%》
:土10《防御力アップ+10%》
装備 :武器 破邪の剣 攻撃力+21、HP+20、耐呪い効果《耐久15/15》
:盾 龍鱗の盾 耐ブレス効果、防+18《耐久15/15》
:筒 絹の腰袋 ポケット+4、HP+10、SP+10%
:頭 暗塊の兜 闇スキル+5、土スキル+5、HP+25、防+15
:首 鬼胡桃のペンダント HP+8、体力+2、防+6
:耳1 黒蛍のピアス 闇スキル+3、SP+10%、防+4
:耳2 白豹のピアス 器用度+3、HP+10、落下ダメージ減、防+5
:胴 暗塊の鎧 闇スキル+5、土スキル+5、HP+25、防+25
:腕輪 暗塊の腕輪 闇スキル+5、土スキル+5、HP+25、防+15
:指輪1 サファイアの指輪 腕力+3、SP+10%、防+5
:指輪2 闇の特級リング 闇スキル+4、SP+10%、SP上昇率UP、防+4
:背 砂嵐のマント 風スキル+3、敏捷度+4、防+8
:腰 闇のベルト ポケット+4、闇スキル+3、SP+10%、防+10
:両脚 魔人の下衣改 攻撃力+5、体力+3、腕力+3、防+15
:両足 暗塊のブーツ 闇スキル+5、土スキル+5、HP+25、防+10
レベルアップ果実を融通して貰ったために、2つも一気にレベルが上昇したルリルリ。本人は魔法の方にポイントを割り振ろうと思っていたのだが……水の宝珠まで貰ってしまって、結局は武器スキルを伸ばす事にしたようだ。
その水魔法だが、前回一気に2つも取得してしまった。1つは範囲に毒の酸を撒き散らす《アシッドブレス》という魔法。これを掛けてマラソンで振り回すという手も、メイン世界ではポピュラーな方法である。
もう1つの新魔法は《水の分身》という名前で、MPを200も使うので使い勝手は良くないのだが。自分のデコイを水で作って、敵に突進させる技のようだ。
敵が多くて自分がタゲを取りたくない時とか、時間稼ぎをしたい時など、工夫次第ではとても便利なのだが。それ程生み出したデコイは強くないので、本当に時間稼ぎにしかならない。
MP消費の激しい大魔法を2つも抱え、悩みの尽きないルリルリだったり。
名前:ルリルリ 属性:水 レベル:32
取得スキル :細剣56《二段突き》 《クリティカル1》 《複・アイススラッシュ》
《麻痺撃》 《幻惑の舞い》 《Z斬り》
:水70《ヒール》 《ウォーターシェル》 《ウォータースピア》
《ウォーターミラー》 《波紋ヒール》 《アシッドブレス》
《水の分身》
:光30《光属性付与》 《エンジェルリング》 《ライトヒール》
:氷42《魔女の囁き》 《魔女の足止め》 《魔女の接吻》 《氷の防御》
種族スキル :水32《魔法回復量UP+10%》 《水上移動》 《MP量+10%》
装備 :武器 戦闘ネコの細剣 攻撃力+15、敏捷度+2、MP+8《耐久12/12》
:盾 豪奢な大盾 体力+4、防+12《耐久8/8》
:筒 絹の腰袋 ポケット+4、HP+10、SP+10%
:頭 流氷の髪飾り 水スキル+5、氷スキル+5、MP+25、防+8
:首 サファイアのネックレス 腕力+3、SP+10%、防+5
:耳1 天使のピアス 光スキル+3、知力+2、MP+8、防+3
:耳2 流氷のイヤリング 水スキル+5、氷スキル+5、MP+25、防+5
:胴 流氷の鎧 水スキル+5、氷スキル+5、MP+25、防+18
:腕輪 バトルグローブ 攻撃力+3、HP+8、防+12
:指輪1 光の特級リング 光スキル+4、HP+15、攻撃距離+4%、防+4
:指輪2 プラチナの指輪改 腕力+4、HP+20、攻撃速度UP、防+8
:背 精霊封入の人形 HP+50、MP+50、SP+10%、防+1
:腰 複合素材のベルト改 ポケット+4、器用度+5、MP+13、防+11
:両脚 流氷のスカート 水スキル+5、氷スキル+5、MP+25、防+10
:両足 ゾゲン鋼の戦靴 体力+2、HP+6、防+10
レベル30に到達して、新しく覚えた種族スキルは《落下ダメージ減》で、実にタイムリーだとの評判なのだが。アタッカー気質の雷種族にしては、ちょっと珍しいスキルかも。
装備では、どうやら隠しレア装備の妖精のクラウンを取得したミイナ。可愛いデザインもさる事ながら、隠し性能もあるらしい事が判明。妖精魔法の、呼び出し光球が1つ増えたのだ。
さらに、装備のスキルと術書の融通で、光魔法も覚えたミイナ。《フェアリーヴェール》という新魔法は、どうやら自身を透明化させて敵から気配を消し去る性能のようだ。
イベントエリアなどでは重宝するかもと、期待も高まる今日この頃。
名前:ミイナ 属性:雷 レベル:30
取得スキル :弓術48《みだれ撃ち》 《近距離ショット1》 《攻撃速度UP1》
《貫通撃》 《複・スクリューアロー》
:光50《ライトヒール》 《ホーリー》 《フラッシュ》
《フェアリーウィッシュ》 《フェアリーヴェール》
:風24《風の陣》 《風の癒し》 :水10《ヒール》
:雷31《俊敏付加》 《俊足付加》 《スパーク》
種族スキル :雷30《攻撃速度UP+3%》 《雷精招来》 《落下ダメージ減》
装備 :武器 神樹の長杖 攻撃力+25、知力+5、MP+28《耐久14/14》
:遠隔 雷鳴の弓矢改 攻撃力+20、器用度+5、敏捷度+5《耐久14/14》
:筒 貫きの矢束 攻撃力+14
:頭 妖精のクラウン 光スキル+4、風スキル+4、SP+10%、防御+12
:首 サファイアのネックレス 腕力+3、SP+10%、防+5
:耳1 白蛍のピアス 光スキル+3、HP+25、防+9
:耳2 陰陽ピアス 精神力+5、知力+5、MP+15、防+6
:胴 妖精のドレス 光スキル+4、風スキル+4、MP+20、防御+20
:腕輪 星人の腕輪 光スキル+2、闇スキル+3、MP+8、防+8
:指輪1 雷の特級リング 雷スキル+4、器用度+4、攻撃速度UP、防+4
:指輪2 サファイアの指輪 腕力+3、SP+10%、防+5
:腰 複合素材のベルト ポケット+4、器用度+4、MP+8、防+6
:背 白豹のマント 雷スキル+4、器用度+4、MP+10、防+10
:両脚 妖精のスカート ポケット+2、光スキル+3、風スキル+3、防御+12
:両足 戦闘ネコの長靴 敏捷度+2、MP+6、防+10
カオルもレベルが30になって、種族装備を取得した。戦闘能力には関係ない《移動速度UP》というスキルだったが、本人は複合スキルの取得の方が大事のよう。
その複合スキルだが、距離が無いと使えない《竜巻チャージ》という大技である。直線状に敵がいたら問答無用で巻き込む範囲技の仕様になっているが、使い心地は如何なものか。
装備の方では、弾美がいらなくなったベルトを融通して貰って攻撃やHPを上昇させた。前衛に必要な能力なのでそれは嬉しいのだが、ポケットが1つ減ってしまった。
複合スキル取得のために風スキルを、ブレス強化のために炎スキルを伸ばした結果、魔法も2つ取得したカオル。風の魔法は《風の陣》で、美井奈も持っている防御系の魔法。
炎魔法の《炎獄》は、次の一撃に炎ダメージを乗せて大ダメージにする事が出来る。《竜巻チャージ》などと合わせて使えば、かなり面白いかも知れない。
名前:カオル 属性:風 レベル:30
取得スキル :長槍64《二段突き》 《攻撃力アップ1》 《脚払い》 《石突き撃》
《クリティカル1》 《貫通撃》 《複・竜巻チャージ》
:炎40《炎属性付与》 《炎のブレス》 《レイジング》 《炎獄》
:雷20《俊敏付加》 《パラライズ》 :風20《風鈴》 《風の陣》
種族スキル :風30《回避速度UP+3%》 《魔法詠唱速度+6%》 《移動速度UP》
装備 :武器 赤龍の大槍 攻撃力+32《耐久15/15》
:筒 絹の腰袋 ポケット+4、HP+10、SP+10%
:頭 迅速の兜 炎スキル+4、雷スキル+4、器用度+2、防+7
:首 進みがちな懐中時計改 SP+15%、攻撃速度UP、防+8
:耳1 サファイアのピアス 腕力+2、SP+10%、防+3
:耳2 銀のピアス 器用度+2、HP+4、防+2
:胴 迅速の鎧 炎スキル+5、雷スキル+5、腕力+5、防+20
:腕輪 迅速の腕輪 炎スキル+4、雷スキル+4、腕力+2、防+7
:指輪1 迅速の指輪 炎スキル+3、雷スキル+3、防+4
:指輪2 蝶柄の指輪 器用度+4、体力+4、HP+12、防+5
:腰 獅子王のベルト ポケット+2、攻撃力+4、HP+15、防+8
:背 迅速のマント 炎スキル+4、雷スキル+4、防+7
:両脚 朱色の袴 ポケット+2、精神力+5、MP+20、防御+12
:両足 迅速のブーツ 腕力+3、器用度+3、防+7
薬品の買い足しや武器の修理、細々とした事を終えたメンバーがイベントエリアの入り口に集合する。この時間はちょっと混む感じだが、このエリアは占有出来るので問題なし。
他の見知らぬパーティ連中も、あと1週間となった期間限定イベントの追い込みに必死なようだ。弾美としては、焦らずに最後まで楽しむ気持ちを捨てたくないのだが。
今までのエリアでも、驚かせようとか楽しませようと言う仕掛けがいっぱいなのだから。難しい顔をしてゲームをしても損なだけ。
最初のフロアも、まさにそんな感じでパーティのド肝を抜いて来た。今回は1部屋が20分リミットだと、メンバーが緊張気味に飛び込んだ最初の部屋だったのだけれど。
何と、入り口付近以外は、ほとんどが茶色の木箱で埋もれてしまっている。階段付きの木箱がどれかとか、一見しただけでは判然としない仕組み。そもそも視界が確保出来ていないっ。
魔法で各自強化しつながらも、口から出るのは何だコリャとか、どうしろって言うのとかの愚痴ばかり。木箱のHPは、これでなかなかバカにならないのだが。
それでも道を作るべく、片っ端から壊し始める一行。
『わわっ、下を壊しても上の木箱は落ちて来ないんだぁ』
『木箱の中から、お助けアイテムが出てきたねっ。とにかく、どんどん壊して行こうっ!』
『でもでも、時間は今回20分しか……あっ、赤の木箱出ちゃった!』
確かに時間が20分しかなかったっけと、弾美が理性を取り戻す。ただ壊すだけという単純な作業が、意外と楽しくてついついのめり込みそうだったのだけど。
薫の新スキル技の《竜巻チャージ》が、派手な上に役に立つ事が判明した。直線上に存在する木箱を、一気に3個くらいまとめて破壊出来るのだ。これは時間短縮にかなり効果的。
美井奈には、遠隔で2段目に湧いていた赤の木箱の回収を指示する弾美。瑠璃に関しては、あれを壊してだとか、こっちは足場にするから壊さないでだとか、完全に現場の総指揮官をこなしている。メンバーも完全に信頼していて、程なくして2段目へのルートを確保。
それからみんなでスイッチ探し。高い所に3つ見つかったが、後1つが無いっ!
取り敢えず、瑠璃の指示する木箱を皆で壊しつつ。残りのスイッチを探す一行。瑠璃の考えだと、2段目には邪魔な木箱が半ダース近く存在するらしい。ところが2段目の木箱は、壊す端からお助けアイテムやモンスターが飛び出して来る仕組みらしく。
時間の心配をしつつ、出て来た敵の始末に追われる一行。それでも3段目に上がらないと、スイッチに到達出来ずに話にならない。瑠璃が妖精に、残りのスイッチの場所を聞いたらしいのだが。何も答えてこないから、ただ木箱の陰で見えないのかもとの事。
そっちの方が嫌かもと、捜索隊の面々。
『10分経ちましたよ~っ! あと半分ですよ~っ!』
『3段目の敵の掃除が先だっ、ぱっと片付けるぞ~っ!』
上で待ち構えていたのは、今回は多足の気持ち悪い形状のゲジゲジ虫型の敵だった。それが3匹たむろしていて、こちらの攻撃を何故か華麗なステップで避けて来る仕様らしい。
そして頭上から、毒針の付いた尻尾で斬り付けての攻撃。パーティはしかし、もはやそんな事では翻弄されない。前衛でがっちりキープしつつ、確実に数を減らして行く。
範囲攻撃や弱体で弱らせて、フィニッシャーの美井奈がとどめを刺す得意戦法。
敵の掃除が終わったあとは、皆で地ならしと最後の1つの探索に必死。スイッチはどこだと、高い段に上って見回す者。適当な場所に見当を付けて、ダッシュで木箱を壊す者。
ようやく見つけた最後のスイッチは、いやらしい事に一番端っこの部屋の角に隠されてあった。木箱の柱の裏に見えないように設置されていて、見つけた瑠璃はおカンムリ。
こんな意地悪はしちゃ駄目だと、誰に文句を言っているのだが。
『俺の言った通りだったろ、瑠璃。敵を減らした部屋は、その代わりに意地悪をしたがるんだよ』
『さすがは、意地悪を語ると感情がこもってますねぇ、お兄さん。いえ、他意はないですけど』
『美井奈、お前は……おっと、時間がやばいぞ。みんな3秒後に押すぞ~』
ばっちりと息の合ったメンバーの手で、スイッチの仕掛けが作動。一行は何とか時間内に次の緑の床のフロアへとワープ、またも入り組んだ木箱の段が迎えてくれる。
そして爛々と輝く金色の木箱も、やっぱり同時にお出迎え。赤い床のフロアでチケットを入手していたので、当然の権利とも言えるのだけれど。美井奈や薫は、これは逆に悪辣なトラップだと言って入室に抵抗を示す。
ここでの3分は、ちょっと痛過ぎるとの理由なのだが。
『平気だって、3分くらい。前の部屋でもそれくらいは残ってただろ?』
『ハズミちゃんは言い出したら聞かないから、入ろうか? 今回は、道が3段目まで付いてるみたいだし……』
『むうっ、お姉ちゃまがそう言うんだったら……ってか、もう壊し始めてますねっ!』
時間の無いのも何のその、特別ルームへ招待された一行は、こうなれば壊さなければ損とばかりに行動を始めるのだが。今回は、置いてある木箱は茶色の木箱のみ。
変に思いつつ壊してみると、今度は消耗品の取り放題のようだ。もちろん瑠璃は大喜びだが、性能の良い矢束も思いがけず入手出来て、途端に美井奈も興奮気味。
さらには大エーテルや氷の密酒、エリクサーなどなど。
――連なりの矢束 攻撃力+17 みだれ撃ち効果UP
――朱塗りの矢束 攻撃力+20 追加炎ダメージ
『なかなかの報酬だったなぁ。よしっ、今度はクリアを頑張ろう!』
『了解っ、今回は……あれっ、また1個スイッチが見えないね?』
『取り敢えずは、3段目まで一気に上るぞ~!』
弾美の号令で、一行はわらわらと移動を始める。3段目にはやっぱりフロアの番人が陣取っており、今回は角の生えた甲殻虫のようだ。なかなかに大柄で、防御も硬そうな風貌である。
パーティが近付くと、丸まって体当たりを仕掛けて来た。
負けずに新スキルの《竜巻チャージ》で反撃する薫。なかなかのダメージに、本人は納得の感触を得たようだ。防御のずば抜けた敵相手に、怒涛の攻めを見せる一行。
程なく自由の地となった3段目。その後4段目への道を作ろうと茶色の木箱を壊したら、何とその中からスイッチが出て来たりして。お茶目な仕掛けに、何となく脱力の一行。
2つ目のフロアも、お蔭で無事クリア。
今度は遺跡のフロアだと、信じて疑わなかった一行だったが。何と放り出された先は、白いフロアだった。うろたえ気味の美井奈は別にして、不意をうつ仕掛けにしてやられた感の弾美。
広いフロアを見回して、状況判断を素早く実行。天を支配しているのは、今回は大トンボの群れのよう。3匹ずつで連隊を組み、微妙な高さで地上を見据えてホバーリングしている。
瑠璃の行動も素早く、妖精との会話で透明スイッチの場所確認。
『美井奈っ、ぼさっとしてないで俊足魔法を掛けろっ。中段に下りて、真っ直ぐ進もうか』
『透明スイッチは左端だって。えぇと……あの敵の所かなぁ?』
『あぁ、確かに地上に1匹、目立っているなと思ったけど……フロアの番人かなぁ?』
『じゃあ、皆でそっちを先に倒すか。くそっ、いきなり時間使わす気かよっ!』
広いフロアで、スイッチの場所も確定していないだけに、弾美の苛立ちも分かるのだが。番人と信じて疑わないモンスターを何とか倒してみると、何とそれがはったりだと判明!
段差違いで、下から回れば反応しない場所にスイッチがある事が分かった途端。引っ掛かったパーティは悔しさも倍増。ロスした時間を取り戻すべく、大急ぎで残りを確定して回る事に。
2つ目と3つ目は、割と近くにあったのだが、モロに大トンボの索敵範囲。美井奈の釣りからの素早い襲撃で、3匹の大トンボは1匹1分程度で散って行く。
ここまでで約12分、確定したスイッチは全部で3つ。
あと1つは、厄介な事に透明化されていないよう。中段を駆け回って、全員で必死に白いフロアを探し回るのだが。5分が経過してもなかなか見付からず、一行に焦りが見え始める。
危険を承知でもう一度上段まで上って、弾美がフロアを見渡してみると。広いフロアの左の端っこに、窪んだ場所が確認出来る。怪しいとも言えるし、違うかも知れない。
最初のフロアも左端に隠れていた。ダメ元で、弾美が一人確認に走ると。
『あった~~っ! 誰か入り口のスイッチに戻ってくれっ、時間も無いし、絡まれてヤバイっ!』
『私が戻るねっ、弾美君頑張れ~っ!』
『えっ、絡まれてて大丈夫ですか、隊長!?』
『スイッチ押せばワープだから、それまでは持たせるっ! 瑠璃、合図頼むっ!』
弾美は絡んで来た3匹の大トンボ相手に、必死で孤独な防戦。瑠璃と美井奈は、慌ててそれぞれスイッチに辿り着き。孤軍奮闘の、弾美の身をひたすら案じているのだが。
程なく薫が着いたとの合図、瑠璃がタイミングを計ってのスイッチ操作。
白いフロアも、どうやら無事クリア出来たようで何より。近くに出現した弾美に回復魔法を飛ばす瑠璃と美井奈は、一安心だと胸を撫で下ろすのだけれど。HP半減程度で済んだ弾美も、20分は辛いと感想を述べる。
お母ちゃまが、今の面はギリギリの時間でのクリアだったと言っていると、美井奈の報告。何にせよ、チャレンジ失敗でなくて良かったと嬉しそうな面々。それでも通常の仕様より、確実に1面多いフロアに混乱模様のバーティ。
とにかくここはいつもの最終面、遺跡のフロア。時間設定は無いの?
『あれっ、あとはここを上って行って、宝箱を開ければいいのかな?』
『えっ、ここは完全にスルーですか、戦闘はなし?』
『そうなのか、ちょっと見てこよう』
休憩中の後衛を残し、中層に上って行くハズミン。敵の姿もスイッチも無く、宝箱が4つ程置かれていた。何故ここにと思いつつも、一行が追いつくとつい開けてしまう弾美。
1つは経験値、残りの2つは薬品系、最後の1つは久々のミミックで何だか時間稼ぎな風味が満載。ちょっと変だなと思いつつ、上層を恐る恐る覗いて見ると。
やっぱりいました、大ボスとその従者。戦う気満々で、既にスタンバイ中。
『ああっ、ここもひょっとして20分制限なのかなっ!?』
『それっぽい感じですねぇ、敵は3体ですか!』
『ちょっと途中で時間食っちゃったなっ、速攻で雑魚から倒すぞっ!』
薫と美井奈との事前の打ち合わせで、連続スキル技使用の初っ端からの追い込みを話し合っていた前衛陣。敵の大ボスは人型サボテンのモンスターと、従者らしい白いサソリが2体。
どう見ても従者のサソリの方が強そうなのだが、取り敢えずは数減らしが先だと戦術決定。作戦通りに弾美が全部タゲを取って、護衛役らしい白サソリから各個撃破の方向へ。
近付いての《ドラゴニックフロウ》からスタート。敵が一斉に弾美に振り向く。
サソリ型の敵はそれぞれ、素早くハズミンを迎え撃つ構えを取り始めているのだけれど。真ん中の小さな体躯のサボテンのみ、両手を上げて降参? のポーズを取っている。
何だコイツはと、弾美はちょっと近付くのに躊躇。白いサソリがボスに構わず弾美に近接。それを阻止するように、まずは薫の《炎獄》込みの《竜巻チャージ》で距離を詰めての《貫通撃》を。
それに呼応するように、美井奈も連続スキルを使用する。タゲを取っても構わないとばかりに、《フェアリーウィッシュ》込みの《みだれ撃ち》から《貫通撃》へ。
さらにSPを確認して、薫と号令を掛け合っての《スクリューアロー》の突き飛ばし技。それによって開いた距離を利用しての、薫の《竜巻チャージ》のコンボ技。吹っ飛んだ敵はもはや虫の息で、足止めの役割すら果たせていない。
スキル技の相性も、ここに来て噛み合って来た感も。
もう1匹の白いサソリと殴り合いながら、人型サボテンの動向を気にしている弾美の方は。サポートにと待機していた瑠璃も、サボテンの動き出しが遅いのに焦れて一緒に殴り始める事に。
薫の前の敵が、早くも倒されて行く。そこからようやく、サボテンの逆襲が。
『わわっ、大きなサボテンが生えて来たっ!? 何これ、攻撃出来るの?』
『わ~っ、こっちにも! なんですか、視界が遮られましたよっ!』
フィールドの至る場所に、大きなバルーン状のサボテンが、突然ポコポコと生えて来た。痛そうな刺も生えていて近付くのも躊躇われるそれは、どうやら通常攻撃では壊せそうも無い。
ボスに辿り着くには、その刺の山を登って移動するしかなさ気な仕掛け。それは痛そうだと言いつつも、とにかく視界確保のためにサボテンを登り始めた美井奈と薫だったが。
歩を進める度に、案の定の刺のダメージが。
ボスのサボテンは、自己回復をする以外は他にモーションは無い様子。弾美と瑠璃は、残った白いサソリを相手に奮闘中。視界を確保出来た美井奈が削りに加わり、護衛役のサソリはもうすぐ落とせそう。
薫はボスに向かおうかと迷いつつ、移動のダメージに怯んでいる。この嫌味な仕掛けは、一山越えただけで前衛のHPでも半減してしまう程ダメージを負ってしまうのだ。
サボテンの上から見たら、丁度ボスの人型サボテンを囲むように山が4つ出来上がっている。その盛り上がった山の1つで、弾美と瑠璃が白いサソリを相手している感じである。
雑魚のサソリも2匹目撃沈。これでボスに行けると、薫が思った瞬間。
『なになに~っ、サボテンの頂上に花が咲き始めたよっ!?』
『私の隣にも~っ、これは避難した方がいいんですかっ!?』
『良く分からないけど、ボス倒さないと終わらないからなっ。俺はボスに行くぞっ!』
時間制限があるのならば、ボスはさっさと倒さないと話にならない。弾美は瑠璃を引き連れて、山の谷に鎮座するボスを目指す。今度はいち早く反応したボスは、針を飛ばして応戦して来る。
4つの山に囲まれた谷底では、熾烈な戦いが開始された。範囲攻撃が多いので、瑠璃は離れて支援したいのだが、何しろ距離を取ろうと動くだけでダメージを受けてしまう。
仕方なく前線で回復を飛ばしながら、弾美と肩を並べて削っているルリルリ。肝心の薫は、何と山の頂上の花から生まれた新たな人型サボテンに絡まれていた。
それは美井奈も同じ事。混乱したログが、弾美にも届いて来るのだが。
見かねた瑠璃が、水魔法で美井奈を殴っている敵に攻撃。ところが水を得た人型サボテンは、益々元気になったよう。体積も増して、より凶悪に変化するという凶悪サイクル。
薫がそれを見て、目の前の分身相手に《炎のブレス》を試してみると。敵へのかなりのダメージに加え、サボテンの山が縮んで行くという事態に。それを見たパーティは、邪魔な山を消してしまえとアンコールの大合唱。
そうは言っても、全部消すまでMPが持つかが問題。
『光魔法は駄目ですか~っ!? 動いたらダメージだし、お姉ちゃまと合流したら攻撃出来ないし、私はどうしたらいいんですかっ!』
『闇魔法を撃ってみるか……ちょっと待ってろ』
モロにボスのタゲを取っている弾美だが、美井奈の窮地も放っておけない。敵の特殊攻撃を見計らって、何とか新魔法の《ダーククロス》を美井奈を殴っているサボテンに飛ばす。
瑠璃が氷の足止め魔法を掛けてあったそいつは、闇魔法に明らかに怯んだよう。バルーン状のサボテンの山もみるみる縮まって、山の2つは既にシオシオ状態。
残りの2つの山は、パーティの誰も近付かなかったためか。頂上の花の動きは今の所無し。今の内にと、弱った雑魚のサボテンにとどめを刺して、やっとの事で4人揃ってボスへとアタック。
程なくボスの人型サボテンは没。それと共にバルーンサボテンも消滅。
『ちょっと……ああゆう仕掛けは、時間制限の無い場所でやって欲しい……』
『おおっ、時間計られてるんなら、さっさと抜け出さないとっ! 浮島でいいのかっ?』
『えっと、あるあるっ! ゴールは一緒だねっ、葉っぱが浮いてるよ!』
そんな訳で、皆で大慌てで蔦の橋を渡っての宝箱開け。今回も4つの箱からは、4万ギルの現金と金のメダル、土の術書と素早さのの果実が。
忘れずに皆で、宙に浮かぶ黒色の木の葉をゲットする。それと同時に退出魔法陣が出現して、どうやらクリアは間に合いそう。パーティはようやく、4つ目のイベントエリアを後にした。
終わった後に、20分は辛いと愚痴が皆からこぼれる。
ちなみに、ボスからの装備品のドロップは、片手棍や刺付きマント、サボテンレイピアなど。残念ながらどれも現状の装備の性能を超えず、販売リスト入りに。
裏エリアなどで入手した装備の性能が良いので、仕方ないと言えなくもないが。大きなエリアを1つこなした後で、レベルアップも性能の交換も無いと、何だか損した気分。
レベルも30過ぎて、上がりにくくなっているのも確か。
『みんなレベルアップも装備交換も無しですか~、ちょっと寂しいですねぇ』
『失敗しなかっただけ、有り難いと思わなきゃね。白いフロアは、本当に苦しかったw』
『そうだねぇ、振り落としの仕掛けは、本当に意地悪だよねぇ』
そんな意地悪なイベントエリアも、残るはあと1つとなって。噂によると、今までで最大の難関が最後に控えている筈である。その攻略のためにも、力を溜めておかないと。
そういう意味も込めて、今夜の残り時間はパワーアップに充てるぞとの弾美の言葉。皆の意見を参考にして、トリガー消費に廻ろうと決まったのは良いけれど。
トリガーも豊富で、ちょっと悩んでみたり。
結局はだいたい場所の分かっている、火のトリガーの使用場所を最初に目指す事に。フリーエリアを出た途端に見える山に、トレード場所があると言う話だったのだが。
用意が終わった一行が、元気良くフリーエリアへと飛び出して行く。フリーエリアは敵のレベルが固定なので、30前後のパーティにとっては移動も気楽なものと成り果てている。
何しろ、絡んで来る敵は既に雑魚扱い。
『着いた~っ、ここが獣人の集落だねっ? 山の登り口があるって話じゃなかったっけ?』
『道はここからでも見えるけどなぁ。雑魚が邪魔だから、先に倒すか』
『邪魔ですねぇ、わっ、建物の上にも伏兵がっ!』
割とさっくりと倒せるとは言え、集落だけあって獣人の数は多い。仕舞いにはボス級の大ザル型の獣人も出て来て、岩石投げの特殊攻撃で苦しめられる始末。
建物の屋根からの急襲も合わさって、パーティはひとしきり混乱模様。それでもやっぱり余裕があるのか、通信会話ではバカな事をワイワイと言い合う場面も。
しかし、そんな余裕も猿人のNMの獣人ボスが出現するまで。
まるで映画のシーンのように、建物の影から突然出現した巨大猿人。狙ったように、一人離れていたミイナをむんずと掴み上げる。かなりの大きさに、衝撃を受けていた一同だったが。
仲間を取り戻そうと、ほぼ同時に巨大猿人を殴り始めるメンバー達。その結果美井奈は、興味を失ったように放り出されてHP半減の目に合いつつも。何とか自由の身になった事で、距離を取って援護に回り始める。
雑魚はほとんど掃除してしまっている……と思ったら。
『わ~っ、何ですかっ! 真っ暗です、私はどこですかっ!?』
『わ~っ、み、美井奈ちゃんが……お猿の籠屋に連れて行かれてるっ!』
『何だそりゃ……って、本当じゃんかっ!』
恐らくNMのオプションらしいお猿の籠屋が、離れた場所にいた美井奈をピンポイントで狙ったようだ。2匹の運び手によって籠に放り込まれた雷娘は、まさにお持ち帰りの最中だ。
瑠璃が大慌てで、魔法で籠屋に攻撃を仕掛ける。ダメージを喰らったお猿の籠屋は、一瞬にして消滅したのは良いけれど。今度は相手に背を向けた瑠璃が、猿人に素掴み状態に。
このおバカなサイクルを止めろと、弾美は結構なおカンムリ。放り出された瑠璃もHP半減、NM相手とは言え、不甲斐ない戦い振りに苛立っているパーティリーダー。
嫌らしい特異な仕掛けなので、仕方ないとも言えるのだが。
とにかく、苦労しつつも敵を倒し終わったパーティ。それでも美井奈などはキョロキョロして、怪しい影が無いかどうか周囲を見回してみたり。ドロップには金のメダルや棍棒などがちらほら。
弾美が建物の1つに、何やら怪しい装置を発見。ぞろぞろと皆が続き、建物の中という閉鎖空間にようやく危機感を払拭出来そうな雰囲気。少なくとも連れ去られる危険は去ったが、代わりに謎解きの仕掛けにご対面。
壁の一面に、時計か金庫のようなパネルと、その下にトレード可能な物置台のセットが。パネルは5面に区切られていて、無>空>山>敵>宝と進むようになっている。
台を調べてみると、身に纏う消耗品を捧げよとの指示が返って来た。
『身に纏う消耗品って……武器とか盾の事かな? いらない奴あったっけ?』
『さっきのお猿さんが落とした棍棒とかならあるよ? トレードしていいの、ハズミちゃん?』
やってみないと分からないからと、瑠璃が試しにトレードしてみた結果。時計回りに12回転します、よろしいですか? との念押しが返って来た。慌ててキャンセルして、パーティに相談。
色々と話し合ったが、どうやら12という数字は耐久度の事らしいと判明した。スタートの今が、針が無の場所に止まっているので、12回転したら山という文字を指す事になる筈。
それはそれで、目的地に繋がる事になるので良いのだが。宝と言う文字が、どうしても気になってしまう一行。4か9か14の耐久度の、いらない武器は無いかと確認作業。
瑠璃が何とか、古い武器の中から発見。売らなくて良かったと、ちょっと安堵の表情。
『さすが瑠璃だなっ、しかも2度と使わないような武器じゃないかw』
『お金にならないから取っておいたのかな? ちょっとよく覚えて無いや……まぁ、トレードするね』
『楽しみですよ~っ、何が出るんでしょうかっ?』
美井奈の期待に応えるべく、瑠璃が耐久度9のちゃちな細剣をトレードする。壁のパネルに設置された針は、ぐるぐると回転して宝の文字の位置でピタッと止まった。
一瞬の後、パーティは薄暗い地下に自動的にワープ。どうやらそこは宝物庫の中らしく、雑多な物に紛れて宝箱が7つ置かれている。嬉々として、片っ端から開けに掛かるメンバー達。
弾美の機嫌も、この騒ぎにすっかり直った様子。
宝箱の中の、5つはそれ程の値打ちも無いアイテムばかり。炎の水晶玉や、1万ギル、闇の秘酒などなど。一段上に別に置かれた2つの宝箱からは、金のメダルとカメレオンジェルが。
最後の宝箱を開けてしまうと、一同はさっさと元の部屋にワープで返されてしまった。思わぬ報酬に喜びを分かち合いつつ、皆がもう一度壁のパネルに目をやると。
針は元の無の位置に戻っている。さて、次はどうしよう?
『もう1回宝の部屋を目指しても、やっぱり無理と言うか無駄だよなぁ?』
『開きっ放しの宝箱しか無いですよw 欲張り過ぎです、隊長はっ!』
『山に向かうよ~っ、時間も勿体無いしね~っ』
今度の針の仕掛けは12回ほどカチカチと進み、しっかり目的の山の文字を指し示した。その途端に、部屋の扉と反対側の壁が、その途端にガタッと音を立てて隙間を作る。
どうやら隠し扉らしいと、薫がそこから顔を覗かせて周囲を伺うと。ちょっとしたトンネルが続いており、その向こうに小さい原っぱのような場所が存在しているのが見えた。
一行は用心して進んでみるが、これと言って敵影は無いよう。その代わりに裏から山に登る道が見付かって、その麓に小さな滝が涼しげに流れを示している。
その先の泉にカーソルが移動する場所があると、先行した薫が発見を知らせて来る。一行が何気なく近付いて調べてみると、連続クエストの苔付きのレンガを発見。
これで3つ目だが、まさかこんな場所にあるとは。
弾美を先頭に、慎重に山を上る一行だが。上がるにつれて、確かに炎のポイントが存在してそうな熱気が伝わって来る。山肌の亀裂からは湯気が立ち込め、活火山の雰囲気。
上がって行くにつれて、敵の姿もちらほら目にするように。ここを縄張りにする敵は、麓よりは少し強いが数は多くないようだ。程なく道は行き止まりとなり、山の中腹辺りまで登ったのだろうか。そこでようやく、トリガーをトレードするポイントを発見する。
戦闘準備をしっかりとして、いよいよ瑠璃が炎の呼び水を使用。
トリガーによって出現したNMは、炎を纏った厳つい人の姿をしていた。どうやら精霊か何かの類いらしいが、殴り掛かっただけで反撃の炎ダメージを喰らってしまう。
弾美がタゲを取ってのいつものパターンに持ち込むが、範囲の炎のブレスも厳しいダメージ。瑠璃がさらに後衛へと距離を取り、回復と水魔法での攻撃へとシフトする。
武器による直接攻撃が、いつもの半分の数値しか出ない前衛陣はやや苦戦気味。狂える水の精霊の時もそうだったが、肉体を持たない敵の厄介な特性である。
それでもスキル技を交えつつ、何とか敵を追い込んで行く一行。
敵の武器は片手剣と鞭の二刀流。金縛り技も辛いが、HPが半分を切ってからの攻撃力の上昇も凄まじい。スキル技での応戦で、何とか残りの生命力を削り取ろうとする一行。
しかし、残りHPあとわずかで敵が無敵化。炎の柱と化して近付く者を焼き尽くさん勢い。
『むうっ、直接攻撃が全く効かなくなった……瑠璃、とどめ刺してくれっ』
『水の魔法かな、いくよ~っ!』
戦闘の後半は味方の被害が甚大で、回復に従事していた瑠璃だったが。皆にとどめを譲られて、必殺の水魔法を勢いよく詠唱して解き放つ。
これにより、炎の柱はシオシオと沈静化。しばらくその場で揺らめいていた炎の残滓は、やがてゆっくり消え去って行く。パーティは各々ガッツポーズ、激しい戦闘の終焉を皆で祝い合う。
この戦闘で薫が31へとレベルアップ、皆から祝って貰いつつスキル振りなど。
敵のドロップは炎獄のブーツと金のメダル、炎の術書や水晶玉など。マントも出たけど外れ性能で、他にも薬品やギルもそれなりに補充出来る結果となった。
ここまで掛かった時間が、35分くらい。ちょっと微妙な時間の残り方だ。
――炎獄のブーツ 炎スキル+2、腕力+2、HP+10、防+12
『ブーツは性能いいねぇ、これ誰かいる? 私も欲しいから、鏡でコピーしようか?』
『あぁ、それはいいアイデアだな。俺は固定してるから無理だけど』
『赤いブーツは格好良いかなぁ……じゃあ私も貰っていいですか、薫さん?』
相談の結果、瑠璃と薫が写し身の鏡を使って同じブーツを装備する事に。転移の棒切れで中立エリアに戻りつつ、お召し変えや分配などをしてみたり。
赤いブーツはルリルリにはちょっと浮いてる気もするが、既製品からの装備の変化は本人も嬉しそう。MPこそ増えなかったが、防御の上昇だけでも有り難い。
その他、武器の修理をしたり薬品を買い足したり。
『あっ、そう言えばクエストアイテム……苔付きのレンガを手に入れたんだっけ?』
『あ~っ、えっと……こっちのNPCだったかな?』
薫の先導で、長い間受けている気のするクエストの報告に出向く一行。アイテムを渡すと、どうやらこれでお終いの様。NPCはお礼と共に、氷の密酒を報酬にくれた。
以後、この薬品も買えるようになったっぽい。
『これって、徐々にMP回復でしたっけ? 戦闘前に使うと便利ですよねぇ、これ!』
『そうなんだよねぇ、ちょっと買い足しておこうかな? 1000ギルは高いけど……』
MPの使用頻度の高い瑠璃は、エーテルと併用出来るこの薬品もストックしておきたいようだ。幸いにも、ここに来てお金の余裕もかなり出て来て懐も温かい。弾美に遠慮するなと後押しされて、イベントの終盤戦に向けてカバンに幾つか放り込む瑠璃。
その間にもパーティ会話で、残り30分程度でどこに行けるかを会議中。クエストエリアをふらつけば、またNMに出会えるかもと言う意見が薫から出て。それならば、未探索の場所のある月の鍵のエリアへ行こうと言う話に。
回収してない宝箱も、確かあそこにはあった筈。
『あったっけ、そんなの?』
『鍵付きの宝箱を、確か見掛けたかな? 番人がいそうだから、迷子の美井奈ちゃんを引き返す直前に見たよw』
『あ~っ、合同インの時だったですよねぇ、あの時は迷惑お掛けしましたっ!』
美井奈の迷惑はいつもの事だとの弾美の言葉を、女性陣は華麗にスルー。それじゃあそこに行こうかと、優しい口調で先導されて。次の行き先は、こんな感じで決定となった。
薫がノートを引っ張り出して、ついでに昔の記憶も引っ張り出す。クエ大臣の案内により、パーティは月の鍵のエリア探索へ。廃墟と化した街の下水へと飛び降りて、何故か繋がれて用意されている筏に飛び乗る。
暗い色の下水の流れは結構急で、しかもなかなか岸辺に寄り付こうとしない。薫がもうすぐ飛び降りるポイントだと知らせて、皆がそのタイミングを計っていると。
言われた通りにスピードが落ちて来て、岸に近付く筏。
全員が飛び降りると、筏はそのまま流れ過ぎて行ってしまった。薫は、この先で満月の鍵を拾ったと言うのだが。どこで使うかは全くの謎だけど、この先に扉があったのは確かである。
ここからは弾美を先頭に、伏兵を見据えて慎重に歩を進めるパーティ。汚れた感じの水溜まりなどが点在していて、細い地下路地は嫌な雰囲気で満載だ。
薄汚れた下水道の地下探索は、やがて突き当たりに辿り着いて終了する。以前薫がミイナの視点で見た、紋様の描かれた扉と、鍵付きの宝箱はまだ健在。
『お~っ、ここかぁ。そう言えば、前に見た気もするかなぁ?』
『宝箱、まだあるねぇ……満月の鍵は、扉の方に使うのかな?』
『合鍵使ってみようか、宝箱の方に?』
瑠璃が宝箱の開錠を試すが、合鍵は合わずに戻って来たとの知らせ。美井奈の持つ満月の鍵で、今度は扉の鍵を開けに掛かると。こちらはすんなり成功して、新たな道が開ける結果に。
ただし、仕掛けの方も作動したらしく、あちこち変な場所に真っ黒な穴が出現する。宝箱の存在のせいで、襲撃もある程度予想していた一行。戦闘隊形を整えて、不測の事態に備えている。
強化も終了済みで、敵の姿を探すのだが。
突然のっぺりとした不気味な死霊顔のモンスターが、パーティの背後のホールから出現して来た。上半身だけ姿を見せて、特殊な形状の大鎌でこちらに斬りつけて来る。
さらに、別の方向からは細長い黒い犬型のモンスターが出現。こちらもヒット&アウェイで、瑠璃に噛み付いた後にさっさと別のホールへと姿を消してしまう。
こんな調子で、8つ位のホールを上手に使う敵のペア。
『なんだっ、モグラ叩きかよっ! タゲ固定すらさせて貰えないぞっ!』
『美井奈ちゃん、スパーク張って! 魔法で対処しようっ!』
『そ、そうかっ……足止め系で動きを止める感じかな? ハズミちゃんも《グラビティ》あるしっ』
なる程と、薫と瑠璃の閃きに、自分の魔法を改めてチェックに走るメンバーの面々。それでも素早い敵の動きは、発動の遅い魔法で捕まえる事は難しいのだが。
何度か殴られながら、とうとうミイナの《スパーク》の放電地帯に入った犬をまずは捕獲。そこに弾美の《闇の刺針》が炸裂して、何故か一緒に捕まる死霊顔のモンスター。
美井奈の《スクリューアロー》で弾き飛ばされた犬から、まずは料理に掛かるメンバー。今度こそ弾美の《グラビティ》で、ホールから離しての捕獲完了っぽい。
こうなったら、薫の《竜巻チャージ》などのスキル技の格好の餌食だ。
それでも無視していた死霊から呪いを受けたり、犬が意外と攻撃力が高かったりと、一筋縄では行かない扉の番人ペア。終いには、ホールから黒い霧が湧き出て、SPが減ってしまったり毒を受けたりと酷い仕打ち。
ステップを使って、じりじりとホールに逃げ込もうとする黒い犬を、何とか全員で阻止しつつ。全員一丸で体力を削る努力がようやく報われて、何とか1匹目を撃沈。
残りの死霊は美井奈に呪いを掛け、再びホールの中へ。
『わっ、聖水もうあと1個しか無いですよっ!』
『頑張れ美井奈っ、もう1回吹き飛ばしで移動阻止するぞっ!』
今度はどのホールから出て来るかと、パーティみんなで張り込みしつつ。見た目は間抜けに見えるけど、張っている方はかなりドキドキな時間が経過する。
ハズミンが張ってたホールから、闇色のローブを纏った死霊が飛び出してきた。大鎌の一撃をブロックしつつ、反撃の一撃。美井奈がそれに合わせるように、吹き飛ばしスキルを使用する。
ところがホールから上半身しか出していない死霊は、美井奈の吹き飛ばし技を頑として拒否してみせる。思わぬ反応だったが、取り敢えずダメージは与えた。
他のメンバーも、飛び道具やチャージ技で引っ込む前にと殴り掛かる。
戦闘は、終始そんな感じで進んで行った。不意打ち的にこちらもダメージを受けたり、油断していたら魔法での遠隔攻撃で離れたホールから攻撃されてしまったり。
気付いたら、何と自走式の大鎌が3本も追加されていたり。サメの背びれのように地面を走り回って、パーティに足元から斬り付けてダメージを与えて来る。
思わぬ攻撃方法に、悲鳴を上げて逃げ回る後衛陣。
『ちょっと~っ、変な生き物に攻撃受けてますよっ!』
『鎌の刃みたいだねっ……足元注意だけど、敵をやっつけないと!』
『もうすぐ半分削れる……って、うわっ!』
油断していた訳では無いが、タゲを取っていた弾美に3方向からの特殊攻撃が炸裂。スクリューの回転に巻き込まれたような、強烈な衝撃がハズミンを襲う。
大鎌の派手な特殊攻撃に、HPは一気に半減する。メンバーが慌ててフォローに入るが、程なく死霊はホールの中へ。一気に畳み込めない敵の仕様に、苛立ちも極まって来る。
気付けば戦場に異変が。敵の移動用のホールの数が、半分位に減って行っている。そして死霊のHPが、その分回復しているようだ。穴の数が減る度に、強烈な鎌の特殊技が炸裂する。
弾美は気迫のステップで、後半それを避けまくり。
結果的には、移動用のホールが消えてくれてパーティは大助かり。最後はストレス発散と、怒涛の追い込みで敵に息つく暇も無い程のスキル技のラッシュを敢行。
時間の掛かった戦闘は、ようやくの終焉を迎えたようだ。そして、死霊と犬からそれぞれ宝箱の鍵のドロップ。その他にも使えそうな装備や金のメダルや闇の術書などがちらほら。
この戦闘で、美井奈が31へとレベルアップした。純粋に喜ぶ少女に、皆がおめでとうの言葉を掛ける。30を越えてレベルも上がり難くなったと、美井奈の感想も愚痴っぽい。
犬の落とした首輪は、なかなかの性能で弾美が貰う事に。
――番人の首輪 攻撃力+3、腕力+2、体力+3、防+8
『大鎌とか毛皮は売ってもいいよね? でも、どうして鍵が2つ出たのかなぁ?』
『もう1個、どこかに宝箱があるんですかね? 取り敢えず、そこの宝箱を開けましょう!』
美井奈の言う宝箱は、扉の隣にこれ見よがしに置かれていたもの。瑠璃が近付いて開けてみると、昨日に続いて《複合技の書:両手鎌》を入手出来た。
興奮に湧くパーティは、そのままの勢いで扉を潜って中に入る。襲撃を用心していたが、敵の姿は無いようだ。中は簡単に3つの部屋に区切られていて、一番小さい部屋には魔方陣が1つ。
どうやら脱出用の物らしい。
もう2つは、下にと続く階段のある部屋と、仕掛けの設置されているちょっと広い部屋。仕掛けの内容は四角いレールの枠の中心に、ポツンと宝箱が設置されていると言うもの。
レールは稼動していて、全部で3周分ある。その間は段差になっていて、レールに乗らないと中心まで辿り着けそうに無い。外周のレールと内周のレールは、ランダムに渡された短いレールで繋がれていた。
上から見ると、宝箱の乗った四角い床を、3周分のレールの枠が取り巻いている感じだ。
『これは……何だか、あみだクジみたいな仕掛けですねぇ?』
『あ~っ、言われてみればそんな感じw 4つの面から入れるけど、意味はあるのかな?』
『中心の宝箱に、外れのクジの人は辿り着けないようになっているのかなぁ?』
試してみますと勇ましく、美井奈が何故か左の面からの突入を敢行。美井奈は自分の意志とは無関係に、レールの動き通りに次第に中心へと運ばれて行く。
レールを外れようと思っても無理なよう。色々試して結局は、無事に中心に辿り着いたのだが。はたと立ち止まって、それ以上進もうとしない。
『あ~っ、これは……私の丁度左が当たりですかねぇ? 私、これ以上進むと魔方陣踏んじゃいます。これ、どこに繋がってるんでしょうか?』
『外れはやっぱり、宝箱を開けれないのか。ってか、見たとこバリバリ鍵付きだから、鍵を持ってる瑠璃じゃないと意味無いなっw』
『あれっ、今……レールの流れの向きが変わったような?』
言われてみればその通り。内側から順に逆流れとなって、意地悪にも解答者を混乱させる。行き場のない美井奈は、取り敢えず前方の小さな魔方陣を踏んづけてみる事に。
有り難い事に、パーティのすぐ近くに転移で戻って来れた美井奈。それで安心した雷娘は、もう一度トライしてみますと、今度は右側の面から突入したのだが。
世の中そんなに甘くなく。外周レールを1周して、ポイッと放り出されるミイナ。
『あっはっはっw 美井奈、お前は人気の無い回転寿司のネタ皿かよっw』
『うっ……弾美君、上手い事言うっw』
『何ですかっ、二人ともっ! 私の尊い自己犠牲でのデータ採取を笑わないで下さいよっ!』
笑われている美井奈を尻目に、今度は瑠璃が移動に挑戦。反対側まで回り込んで、何かをじっと待っている様子なのだが。再度のレールの流れの逆転は、まさに読み通り。
素早くレールに乗ったルリルリは、弾かれる事も無く中心の宝箱の乗った床までまっしぐら。大人しくオプションの人形が追従する姿は、傍目にはちょっと笑える見世物かも。
何はともあれ、開錠のログと共にパーティは命のロウソクをゲット。
『おおっ、美井奈の尊い犠牲で、メダル3つ分のアイテムゲットだw』
『その言い方は変ですよっ! 何で笑うんですかっ!』
『本当に美井奈ちゃんのお陰だよ~、有り難う~』
転移の魔方陣で戻って来ながら、瑠璃が素直なお礼を口にする。それで美井奈の機嫌は直ったのだが。次はどこに進むのかと、未知のエリアをうろちょろ動き回る。
弾美が気を引き締めろと口を尖らせつつ、最後の部屋から続く下り階段を全員で臨む事に。道は所々ツララが出来ていて、何だかひんやりとした空気が漂って来る感じだ。
階段を下り切ると、そこは円形のツララだらけのドーム部屋だった。中央の氷の塊にはポイントが存在し、何と氷のトリガーをトレード出来るようになっている。
全く手掛かりの無かった、氷の呼び水の使用場所らしい。
ここがそうだったのかと、弾美はちょっと呆れた感じ。ノーヒントだったのかヒントを見逃していたのか分からないが、とにかく溜め込んだトリガーを消費出来る事は嬉しい知らせだ。
そう思っていたのだが、何とトリガー使用前に全員の2時間縛りが発動。今日は色々と、あちこち移動などの時間が多かったせいで、交戦率の少ない割に早く時間切れとなったようだ。
弾美は一言、神水を使おうと全員に指示。引き返す気は皆無らしい。
『ここまでまた来る時間が勿体無いからな。さっと倒して、今日は終わるぞ~っ!』
『了解っ、最後気合入れて行こうっ!』
弾美と薫の気合入れに乗っかる形で、瑠璃が勢い良くトリガー投入を敢行する。氷のトリガーはポイントに吸い込まれ、辺りに一層の冷気が立ち込め始める。
パーティの前方に、まずは変化が現れる。人が入れそうな大きさのアイスドームが地下からズンと顔を出し、1部開いた穴からペンギンの群れが飛び出して来て。
どこかで見た演出だと思ったら、流氷装備を取得した裏エリアがこんな感じだった。さ程の驚きも無く、即座に対応するパーティ。薫の炎のブレス攻撃など、相手の弱点の範囲技が炸裂する。
雑魚仕様のペンギン達は、ひとたまりも無く消失。
次は何だと構える一行だが、小山の氷のドームの新たな変化には呆気に取られる思い。氷のレンガで出来ているドームの隙間から冷気が噴出。視界を一瞬遮った後に出てきた物は、ドームの頂上に背凭れも豪奢な椅子と、そこに女王のように座る氷の精霊。
頂上から麓までの階段も氷で出来上がっているが、氷の女王は降りて来る気はないようだ。護衛の2体の騎士も氷の彫像仕様で、パーティを悠然と見下ろしている。
メインディッシュの登場に、一同のテンションも上がる。
強化も補助魔法も、全て掛け終わっている前衛陣。向こうが降りて来ないのならこちらからと、短い階段を駆け上って行く。氷の騎士も反応したが、女王の魔法のブリザードも超強烈。
それでも乱戦になれば、武器が届く範囲の敵に強烈な一撃を見舞うのに躊躇いは無い。まずは立ちはだかる氷の騎士からと、弾美と薫で1体ずつのタゲ取り。
弾美は椅子に座ったままの女王にも、魔法でちょっかいを掛けてみる。後衛に手を出させないためにタゲを取ったのは良いが、天井からのツララ撃は結構なダメージ。
薫のタゲを取っている騎士に、まずは攻撃を集中。数減らしは途中までは順調に進む。
『わっ、氷の壁に攻撃を塞がれたっ! 弾美君、そっちは平気?』
『こっちは平気だけど……これは騎士の特殊能力だなっ。女王の魔法がウザいけど、なかなか止められないから痛いっ!』
『弓矢が届きませんっ! その壁、何とかして下さい~っ!』
鉄壁の防御の出現に、追い込みを阻止されたパーティ。氷の壁を壊せば済む問題なのだが、これがなかなかHPが高くて厄介。その間、騎士は回復しつつも魔法攻撃で敵に対峙する。
回復されては敵わないと、弾美が《トルネードスピン》で氷の壁を壊すお手伝いに参加する。さらに薫の《貫通撃》で、壁は意外とスムーズに破壊される運びに。
再び姿を現した騎士に、美井奈の渾身の連続スキル技。嫌な特殊技を持つ敵は、さっさと倒してしまいたい感バリバリなのだが。タゲもついでに取ってしまい、氷の階段を降りて行く騎士。
距離が空いたのを見計らって、薫の《竜巻チャージ》が炸裂。
『いい感じっ! 瑠璃ちゃん、追撃お願いっ!』
『ほいほい~っ、連続スキル技行くよ~っ!』
範囲魔法を警戒して、後衛で回復支援していた瑠璃だったけど。美井奈が燻し出した騎士を相手に、溜まっていたSPで追い込みのスキル技を見舞う。さらには強化した《ウォータースピア》で、最初の1体目の撃破に成功。
喜ぶ間もなく、単身前線を維持している弾美のピンチに慌てる女性陣。HPが半分を切っているのは、氷の女王の横槍の厳しさらしいのだが。
いつの間にか豪奢な椅子から立ち上がっている氷の女王は、やる気モード全開のよう。ポーションの使用で、ハズミンは何とか魔法での猛攻と騎士の攻撃を凌いでいる状態。
さっきと同じパターンで、美井奈が騎士のタゲを強引に取りに掛かる。同時に瑠璃の回復魔法が弾美を援護。ところがHPが半減した途端に、やっぱり騎士は氷の壁を作り上げて、その場でその身をガードしてしまう。
当ての外れたパーティは、氷の壁に向かって絶叫してみたり。
とにかくタゲの外れた弾美は、氷の壁にスキル技を叩き込んだ後に、すぐさま女王に密着に掛かる。護衛の氷の騎士を女性陣に任せて、厄介な魔法を何とか防ごうと必死。
残った騎士を任された女性陣は、やっぱり邪魔な氷の壁から崩しに掛かる。薫が近付いて殴り掛かり、SPを溜め込みつつの壁の撤去作業に大わらわ。
もう一度、先ほどのコンビでの畳み掛けを使用する気満々である。
氷の女王は、接近戦での攻撃力もかなりのものだった。てっきり杖か何かが手持ちの武器だと思ったが、特殊な形状のダガーを手にしての二刀流で、前衛能力もバッチリ備えている。
追加の氷ダメージも侮れない上、弾美のようなスピン系の斬り付け技も持っている始末。それを一気に喰らうと、弾美と言えどもHPは危険領域に落ち込んでしまう。
慎重に、ボスの相手をする弾美。何しろ2時間縛りの衰弱もあるのだ。
『やった~っ、護衛の残りも倒したよ、弾美君! すぐにカバーに向かうねっ!』
『オッケ~、瑠璃も前衛でボスの魔法を潰してくれっ! 攻撃だけじゃ、なかなか止まらないっ!』
『ほいほい~っ、氷の魔法は単体も範囲も痛いもんね~』
瑠璃の言葉は、後衛をやっているだけあって的を得た本音。おそらく全属性の中で、一番強烈な魔法も存在するとの評判なのだ。瑠璃も、メイン世界では幾つかお世話になっている。
前衛を三人に増やした結果、魔法のダメージは軽減出来たのは目論見通り。心配していた範囲魔法は、今の所なし。美井奈も張り切って、後ろから遠隔での削りに熱を入れている。
ただし、前衛は殴る度に反撃のダメージを喰らって大変な目に。魔女の氷のヴェール魔法は、ダメージを軽減してくれる上、一定で殴った者に麻痺効果を与えるのだ。
その結果《Z斬り》で止める予定の敵の、範囲魔法が通ってしまう目に。
今度は下からの氷のツララの出現に、パーティはパニック状態。串刺しで殴りのスピードは半減、移動も不可となってしまっている。こんな凶悪な魔法も、氷スキルならでは。
HPが半減している氷の女王に、容赦と言う文字は無い。さらに範囲魔法のブリザードが炸裂し、総HP量の少ない瑠璃ばかりか、メインでタゲを取っている弾美も大ピンチ。
ただ一人、HPの満タンな美井奈は、自分の回復量では全員救えないと思ったようだ。《フェアリーウィッシュ》からの連続スキル技で、一旦ボスのタゲを取りに掛かる。
敵のHPを減らしつつ、パーティの安全を確保する。これぞ美井奈流?
雷少女の目論みは、何とか効を奏した様だ。魔法の標準が、ミイナに切り替わっているのがその証拠。さらに《スクリューアロー》で無理やり移動させ、強引に魔法を止める美井奈。
なかなかに様になっている遠隔のスペシャリスト振り。こちらも負けてはいられないと、瑠璃が《エンジェルリング》でパーティに掛かっている弱体を取り外しに掛かる。
MPは氷の密酒と背後の人形で、かなり余裕がある瑠璃である。さらに《波紋ヒール》で、皆の体力を回復。ここで一気に決めないと、時間縛りの弱体がきつくなったらお終いだ。
パーティ一丸で、必死の追い込み。まずは薫の《炎獄》入りの《貫通撃》から。
怒涛の追い込みも、ルリルリの天使魔法の加護の元ならば、反撃の麻痺効果も怖くない。弾美の連続スキルも加わると、氷の女王のHPもようやく3割を切って行く。
分厚い氷の壁を出現させてからの、再度のツララ金縛り技が、女王の最後の悪あがき。瑠璃の天使魔法のお陰で、攻撃速度の減少は免れているパーティは。邪魔な壁を壊したSPを利用しての、最後のスキル技ラッシュを敢行する。
最近は瑠璃がエーテルを使い切る事態も、そう頻繁には訪れないのだけれど。回復と天使魔法に追われまくった瑠璃は、奇麗にエーテルを使い切る始末だったり。
その分、倒した後の見返りのドロップには、一同満足の様子。
『勝った~っ! 時間縛りがきついせいかなっ、この苦戦の理由はっ?』
『強かったよねぇ~! 魔法が凄くこっちを削ってくるから、回復が大変だった~』
『壁が邪魔でしたねぇ……私の光球の方が、動ける分性能は良いですけどっ!』
何を張り合ってるのか分からないが、勝ち誇った感じの美井奈のコメント。勝利の余韻もそこそこに、パーティは中立エリアに転移の棒切れで飛んで返る羽目に。
明日は合同インだからと、面倒な分配などは明日に回す事に決定する。何より、今夜は既に10時半に近い時間。いつもより少々押しているため、皆で早々に落ちようとの話し合い。
明日は第2関門クリアだと、弾美が最後に目標を示唆する。
『明日も一緒に頑張ろうね~っ、お休み~♪』
『お休みなさい~っ、また明日~!』
『明日は、いつも通りに合流しますね~っ』
お休みの挨拶を口にして、順次落ちて行くパーティメンバー達。今日の激しい戦闘も、どこ吹く風な感じである。あの位で弱音を吐いていたら、冒険者は務まらない。
ネットを抜けて電源を落とすと、画面はすぐに空虚な暗闇へと変わってしまう。それでも自分達のキャラは、確かにこの向こう側に存在するのだ。仮初の命と言うなかれ、少なくとも繋がっている間だけは命の息吹を感じる弾美である。
魔女を倒すと言う使命を帯びて、やる気満々の状態で。
それでも通信を切った今は、向こうも同じように戦闘に疲れた肉体を癒しているだろう。パーティメンバーと労わりの声を掛け合いながら、今日も何事も無かった事に感謝しつつ。
血肉の通わないデーターのみの存在だとしても、ついそんな想像をしてしまう。
何のために強くなる? 膨大なデーターの海に、もしもそんな問い掛けを投げかけたならば。ただ、己の存在を知らしめる為に。皆との繋がりを得る為に。
――そんな答えが返って来そうな、柔らかい画面の中の闇だった。