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102.尊き血筋のレスバトル!

ジュリオが何度も何度も拒否しても、カテリーナは全く諦めてくれなかった。



このまま出入り口で『戻って来いつってんだろ』VS『嫌じゃ帰れやクソババア』と言う鍔迫り合いをしても仕事の邪魔になるだけなので、ジュリオとカテリーナはヒーラー休憩所の奥の客間に通されたのだった。


その客間に着いても、カテリーナは庶民の椅子に座る事を躊躇い、付き人に豪華な椅子を持ってこさせた。

これは、カテリーナが高慢で腹の立つ女だから、と言うわけではない。



ペルセフォネの王族や貴族何て、皆こんなもんなのだ。

……そしてジュリオも、バカ王子時代はこんな感じだった。





「そうよね……いきなり家族の元に帰りましょう、なんて言っても戸惑うわよね……」


「いや、おば様は親戚だけど家族では無いので」


「そんな悲しい事を言わせてしまってごめんなさい……。でも、血が繋がった唯一の家族なのよ? それも、紛れもないペルセフォネ人だけの」





カテリーナは血の繋がりをゴリ押しして、ジュリオをエレシス家に取り込もうとするばかりである。



あんたと繋がってる血なんかありがた迷惑でしかないよ、とジュリオは人形の様な無表情をしてしまう。

その顔は美しいが人らしい顔では無かった。





「エレシス家が今になって僕を取り込もうとする理由は何ですか。……今流行りのエンジュリオスブームなんて、いつ終わるかわかりませんよ? ブーム終了時にまた家を追放されたら溜まったもんじゃないんですけど」


「まあ!? 何て酷い事を言うの……? 私達は家族なのよ? 家族が家族を追放なんてするわけ無いじゃない!」


「いや、いっそ追放されたいです。追放して下さっていいんで、二度と関わらないで下さい」





ジュリオは嫌そうな顔でスマホを弄り始めた。

狩り中のアンナに『クソ客が来て最悪だよ〜』とメッセージを送った。


ちなみに、アンナは狩り中だとスマホの電源を切っているので、こちらのメッセージが邪魔になる事は無いのだ。



そして、この行動は『おいクソババア、テメェの話なんざ聞く気はねえよ。はよ帰れボケカス』と言う意思表示である。





「子供みたいに不貞腐れるのはやめなさいエンジュリオス。貴方はこの国の王子なのですよ。……生粋のペルセフォネ人で、国民からの支持も厚い貴方は、本来はこの国の未来を背負って立たなければならない身です。……貴方は、この様な下賤の掃き溜めで使役されて良い存在ではありません」


「……ああ、そう言うことね。おば様が『今になって』僕を連れ戻そうとする理由がわかったよ」





ジュリオはスマホを置くと、すっと席を立ち、カテリーナの隣へ移動すると、美しいけど意地悪そうなカテリーナの顔に手を伸ばした。


顎を持ち上げ、無理矢理こちらへ向かせると、メンチを切るように顔を近づけ目を威嚇するように大きく開く。





「次期国王だったルテミスの地位が危ない今、国民から大人気のエンジュリオスを対ルテミスの対抗馬として担ぎ上げたいってとこか。……それで、僕を国王の座に着かせたら、エレシス家の手垢がべったりついた新国王の完成だもんね」


「……貴方は、悔しくないの? 本来なら貴方が次期国王なのよ? それを半異世界人の余所者の肉袋が体に詰まった猿に奪われるなんて、ペルセフォネ人への侮辱そのものだわ」





ジュリオに図星を疲れたカテリーナは、悪びれる事もせずに本音を明かした。


この面の皮の厚さは、さすが最強の貴族の女と言えよう。





「半異世界人のクソガキが、私達エレシス家よりも上に立つなんて、想像しただけで反吐が出るわ」


「そう? 少なくとも僕よりルテミスが王になった方が良い国なると思うよ? 少なくとも、おば様みたいな差別主義者のクソ女はいなくなってくれそうだし」


「……ねえ、エンジュリオス。何か勘違いしてない? 貴方だって、追放のきっかけになったあの舞踏会で、網元の底辺貧乏貴族を差別したじゃない。職業と経済力の有無で。……貴方も立派な差別主義者のペルセフォネ人貴族よ? …………家族ってよく似るのね。嬉しいわ」


「うん、そうだね。おば様と似てる何て最高だよ! 今すぐナイフで自分の喉掻き切りたい気分」





ジュリオは正論で殴ってくるカテリーナに一歩も引かず、メンチを切り続ける。


美貌の王子にメンチを切られても、少しも見惚れたり怯んだりしないのは、さすが叔母と言えよう。





「おば様。…………良い? よく聞いて。僕は絶対に帰らない。もし無理矢理力尽くでエレシス家に連れて行くなら、ここでお前を殺す。そうしたら、クラップタウンの仲間達に頼んで、お前の死体を切り刻んで、薬品で溶かして、海に捨ててやる。……わかった? クソババア」





最早口調を取り繕う事すらも面倒だ。


まるで、この乱暴で下品な口調こそ、本来の自分だった様な気もする。





「僕は本気だ。わかったら失せろ。二度とその厚化粧の顔を見せるな」


「……あらあら。下品な言葉で凄んじゃって……。それがカッコイイと思いたい年頃なのはわかるけど、貴方……この掃き溜めの影響を受け過ぎよ? そのすぐに影響を受ける軽い頭で考えなさいな。……ここで安月給でコキ使われる事と、エレシス家を後ろ盾にして王子に戻る事、…………十年後の貴方にとって、どちらが最善の考えかは、いくら貴方でもわかるでしょ?」


「十年後かぁ。考えもしなかった。……その二つよりももっと良い案があるよ? テメェぶっ殺してムショに入って、毎日男とヤりまくるってのはどう?」


「頭は悪いくせに嫌味の才能だけはあるのね。その良く回る口を、次期国王として弁論に役立てるか、汚らわしい下賤の男性器を頬張る事に使うか、どちらが良いかよく考えなさい?」


「お前こそ、その分厚い面の皮、汚らわしい厚化粧ごと僕に剥がされないか良く考えなよ」





ジュリオとカテリーナは、お互い一歩も引かない。

性格の悪い男と性格の悪い女がぶつかり合うと、こんな不毛な言い争いが生まれるのか。


何て悲しい血の繋がった親戚同士なのだろう。



いっそ殴り合えばわかり合えるのではなかろうか。





「残念だわ。エンジュリオス。……せっかく家族になれるかと思ったのに」


「僕も残念だよ。残念過ぎて死んじゃいそうだから二度とその顔見せないでくれる?」


「……死んじゃいそう……ねえ。……その言葉、貴方よりもあの半異世界人の弟の方が相応しいんじゃなくて?」


「は?」





ジュリオの顔色が変わる。



それを、カテリーナは見逃さなかったようだ。

まるでネズミを丸呑みする前の蛇の様な顔をして、意地悪そうに笑っている。


その意地悪そうな笑い顔は、ジュリオとどこか雰囲気が似ていた。



父親の顔にそっくりだと母デメテルに忌々しげに言われてきたけれど、母方の血の影響も少なからず受けているようだ。



全く、最高のクソ血筋である。





「明日ね、あの猿が流れ者の雌猿と結婚パレードを行う事を祝って、披露宴パーティーをこのエレシス家で開催してあげることにしたの。……それなら、貴方も来るかと思ってね。……あの猿の番に渡すご祝儀は…………野菜でも投げつければ、芸でもしてくれるかしら」


「ねえ、おば様は口を開けば嫌味しか言わないけどさ、そんな人生で貧しくないの? いっそ死にたくならない? 自殺するならすぐにいってね。良い葬儀屋知ってるから」





ひょっとして、この二人仲良くなれそうじゃね? とツッコミが入りそうなほど、ジュリオとカテリーナの血で血を洗う悪口合戦は続く。





「そんなにキャンキャン吠えないでよ、雌犬が。……招待状ならあげるから、気が向いたら来なさいな。あ、貴方字は読めたかしら?」


「勿論だよ? 字も読めるしおば様の顔に書いてある文字も読めるよ。……ああごめん、それは文字じゃなくて小ジワだった。性格の悪い事ばかり言うから、顔にもシワが寄ったんじゃないの?」


「ほんとに嫌味の才能だけはあるわね貴方。さすがはあの汚らわしい国王の息子キャァァアアアアアァァァアァァァーーーッ!!!???」


「え!? 何!?」





さっきまでジュリオとバチバチにメンチを切り合っていたカテリーナは、部屋の出入り口の方見てえげつない悲鳴を上げた。




何事じゃい!? とジュリオもそちらを見ると、そこには血塗れのアンナが、血を滴らせるアナモタズの生肉を入れた血だらけのビニール袋に入れて立っていた。


確かに、こりゃキャァァアアアアアだ。





「おう、ジュリオどした? 何かクソ客が来てるっつーからよ。丁度狩りも終わったし、クソ客追い返すの手伝いに来たんだけど……。そのお姉さんがクソ客?」


「お姉さんだって、良かったね。おば様」


「な、何でそんな……血塗れなのよ……ヒッ!? こっち来ないで!?」





アンナは血塗れのままジュリオの元へと歩み寄る。



そんなアンナにジュリオは慣れた手付きでハンカチを取り出し、アンナの顔を拭き始めた。





「また新人猟師がアナモタズの死体バラすの手伝ったの? すごい返り血だね」


「新人はすぐに血にビビって切るとこミスるからいけねえな。だから筋肉と皮に沿ってナイフ入れろつったのに……」





ジュリオに顔を拭かれながら、アンナはヤレヤレだぜと言った顔をしている。



そんな二人を見ながら、カテリーナは血に怯んで言葉を失っていた。吐き気を催したのか、気分が悪そうに口元を扇子で押さえている。





「おば様。ルテミスの披露宴パーティーには僕も行くよ。招待状ありがとね」




この披露宴パーティーに、どんな罠があるのかわかったもんじゃないが、それでも行く以外の選択肢はジュリオに無かった。



ルテミスに会いたい。会って、ケサガケ討伐なんて危険な真似は今すぐ止めてくれと伝えたい。



そして、バカ王子を英雄視するイカれた時勢の中で、事実無根の無いバッシングを受けるルテミスが心配だと伝えたい。



これはただの兄貴の性であり、ジュリオの我儘だった。





「でもね、そのパーティーに出席するには、一つ条件がある」





ジュリオは血塗れのアンナの肩を抱き寄せて、血にビビって今にも吐きそうなカテリーナに言い放った。





「『婚約者』のアンナも一緒に連れて行くから」


「……?」




ジュリオに婚約者だと大嘘を付かれたアンナは、ジュリオの真意を探るべくじっと顔を見上げてくる。


そして、取り敢えず話を合わせておこうと勘付いてくれたのか、アンナはニヤリと悪党笑顔を浮かべて、ジュリオにもたれかかった。





「お姉さん、コイツは最高だったよ? 締まりは良いし、良い声で啼くし……骨の髄までしゃぶり尽くしたくなる程の『良いオンナ』だったぜ……」


「アンナごめんね。残念だけどその『勘』は大分違うかな。それじゃあ借金のカタに女を攫う時代劇的悪役だ」


「マジかよ。じゃあ今度は……よくも人のスケに手ぇ出してくれたなオイ。耳揃えて金持って来」


「『婚約者』つったよね僕」





アンナの勘の読みはグダグダだったが、そんなグダグダさに嫌味を言う余裕が無いほど、カテリーナは血を滴らせたアンナに怯んで吐きそうな顔をしていた。


所詮、カテリーナは箱入りの貴族の美姫だ。

大量の血なんかを見たら、そりゃ吐き気を催すだろう。




結局、カテリーナは捨て台詞を言う気力も無さそうな青ざめた顔で、高級馬車へ逃げるように乗り込んで行った。



面倒くさいオバハンが帰ってくれたのは喜ばしいが、ルテミスに会うためにはクソッタレな母方の実家である大貴族のエレシス家主催のパーティーに行かねばならないのだ。



ジュリオは浮かない顔のまま、ルテミスの披露宴パーティーの招待状を見ていた。


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