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64.バカ王子の生き様!

アンナの親父の骨発掘作業は、夜の遅い時間まで続いた。


正直、自分とアンナの二人で作業をしたら、すぐに骨を発見できると思っていたが、そう上手くは行かないものだ。





「やっぱり……高飛びしかねえか……」





シャベルを地面に突き刺したアンナが、苦渋の声を出す。





「ねえ……これもう僕らとローエンさんだけじゃ手に負えないでしょ……。やっぱり、カトレアさんやルトリさんも頼ってみたら……?」


「アホ……こんな一歩間違えばムショ行き確定のゴタゴタに、他人巻き込めるわけないだろうが……。つか、ジュリオ! 婆さんにこの事話してないよな!?」


「当たり前だよ。カトレアさんにはアンナが酷い風邪だって言ってある。マリーリカにも内緒にしてるよ」





マリーリカに『家族の危機』だと話してしまったのは、ここでは秘密にしておこうと思った。

自分に家族と言われるなんて、アンナにとって重すぎると思ったから。





「でもさ……カトレアさんなら、何か良い方法思いついてくれるんじゃない? ルトリさんだって……」


「いや、駄目だ。……これはあたしの問題。あたしがケリを付けなきゃならねえ」


「……ねえ、アンナ。踏み込む事前提で言うけどさ、一人の力だけでこの先何百年も生きていくって、そのうち限界が来たりしないの?」





ジュリオは掘り返した庭に座り、汗まみれの顔をタオルで拭った。


今から自分が話そうとする事は、アンナの内面の奥深くに踏み込む内容である。

喧嘩にならないよう、注意をしながらジュリオは話し続けた。





「何でも出来なきゃいけないなら、人への頼り方も覚えておいて損は無いんじゃない?」


「それは……。…………でもな、ジュリオ。あたしはハーフエルフの女だ。この先、気が遠くなる時間を生きる事になる。誰かに頼る楽な生き方を覚えたら、一人で解決しなきゃいけない時に何も出来なくなるだろ……。それに」


「それに?」





アンナは言い難そうに目を逸らした。





「……弱みを見せたら、付け込まれる隙が出来る。……あたしはハーフエルフの女だ。……そんなあたしが生きていくには、弱み見せたら終いなんだよ。……強くなきゃ生き残れねえ。誰かに守られる女じゃいられねえんだ。現実的に」


「……そっか……」





アンナは強がりでも思想的な話でも無く、現実問題として守られる女ではいられないのだろう。


ハーフエルフの女の地位は、被差別対象の異世界人が新たに出現したため、百年前に比べて格段に上昇した。


だからと言って、差別対象である事は変わりない。

差別対象の女が、それもとびきりの美少女であるアンナが、弱みや隙を見せたら『終い』だと言うのは、ジュリオでもわかる。




まったく、世の中はクソッタレである。





「強くなれ。弱みを見せるな。愛想良くするな。泣くな。強くなれ、強くなれ、強くなれ……。そうしないと、生きられないんだよ……あたしは」





アンナがうわ言のように『強くなれ』と口にするとき、眉間にシワが寄って険しい顔になっていた。


まるで、アンナへ『強くなれ』と言い聞かせた誰かさんの顔真似をしているようだ。


それは多分、アンナに一人で生きる術を叩き込んだハヤブサ先生なのでは、とバカ王子は勘付いた。





「そう言うアンナがいたから、僕は今、生きていられるんだね……」





アンナの生き方を否定する事は出来ない。

何故なら、強くなれと言われて育ったアンナのお蔭で、ジュリオはアナモタズの獣害事件から救われたのだ。


何ともまあ、複雑である。





「……じゃあさ、僕が頼るのは駄目?」


「え」





アンナの生き方を曲げる事は出来ない。


だが、このまま孤独で孤高な生き方をさせてしまうのは、どうなのだろう。


アンナの生き方に踏み込む権利などジュリオには毛ほどに無いが、それでも何かしたいと思った。





「……僕は生まれてから今に至るまで、周りに頼って迷惑かけっぱなしだったんだ。一人で生きていける強さなんて持ってない。……現に、アンナが守って助けてくれなかったら僕は死んでた」





産声を上げて今に至るまで、ジュリオは周りに頼りきりだった。

周りから世話をされなければ生きていけないバカ王子であり、面倒な事は全て弟のルテミスに押し付けた。

追放されてからも、アンナの背に隠れて頼って守られながらここまで来たのだ。



決して胸を張れることでもないし、そんな他人任せな人生で良いのかと自分でも思うが、それでも運良く十八年間生きてこられた。



自分が正しいとは決して思わない。

多分、アンナの生き方の方が正しいのだともわかる。



けれど、バカ王子の生き様くらい見せつけても、女神の罰は下らないだろう。





「僕がカトレアさんやルトリさんに頼るよ。それに、クリスさんにも。……まあ、さすがにマリーリカはこんなアウトロー案件に巻き込むわけには行かないけど」


「そりゃそうだけど……でも、何であんたが」





アンナの力になりたい、君の助けになりたい。


なんて、そんな事を言えばアンナはまた『一人で強く生きなきゃいけないのに』と悩む事だろう。



だから、バカ王子らしく我儘に自分本位に自己中に振る舞う事にした。





「君が警察に捕まったら、芋づる式に僕も調べられるでしょ。……そしたら僕は身分証明書偽造犯だよ? 君ならムショ生活も余裕かもしれないけど、僕がムショ生活に耐えられると思う? 無理でしょ?」


「まあ……そうだな……」


「だからだよ! 例え君が高飛びして逃げたとしても、今度は警察が君を捜査する事になる。そしたら一緒に住んでた僕まで危険になる。……それは避けたいからね。……だから、僕は思う存分他人の力を借りる事にするよ。……それは、良い?」





ジュリオはスマホを取り出すと、連絡の許可をアンナに取った。





「……仕方ねえな……あんたに任せた」


「ありがとう! 他人の力が無いと生きられないバカ王子の生き様、君に見せてあげる」

 




そんなしょーもないモンを見せられても、アンナも困る事だろう。


しかし、いつかアンナの役に立つ時が来るのでは、いや、来て欲しいと、ジュリオは思ったのだ。


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