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60.暑い〜〜〜〜ッ!!!!

クソ暑い夏の中で、最も過酷な暑さとなる一週間は、猟師業界にとっては死活問題な時期であった。





「いいかジュリオ。この一日どれだけ稼げるかで、固定資産税と市民税が払えるかどうかが決まるんだ。……クソ暑くて今にもくたばりそうだが、根性で乗り切れよ……」


「そうだね……。それに、僕がこの前スプリンクラー稼働させてぶっ壊したテレビの弁償代も稼がなきゃ……」




ジュリオとアンナは海に来ていた。

聖ペルセフォネ王国の属国であり隣国のフォーネの海である。


人気のある白砂のビーチにいる者は皆、溌剌とした水着姿をしているが、ジュリオとアンナの格好は違っていた。


二人とも上は白いTシャツで下はジャージにビーサンと言う、ザ・海の家のバイトと言った格好をしている。


ジュリオは、長い金髪を後頭部で括っており、アンナは耳を隠すようなおさげの髪型をしていた。

いつものように髪をだらりと流していたら、クソ暑いことこの上ないからである。



さらに、二人ともサングラスをしており、アンナに至ってはいつもの赤いフードのついたジャンパーを着ている始末。



二人とも、謎のチンピラ感満載である。

ジュリオに至っては、女の子でもナンパしそうなチャラ男にしか見えない。





「しっかし、カトレアさんもやり手だよね。狩猟禁止時期になってヒーラー休憩所も閉めなきゃいけない時は、海の家を開いて荒稼ぎするなんてさ。ヒーラー休憩所と食事処を兼ねてるって、よく思いつくよね」




夏の一番クソ暑い一週間は、狩猟禁止時期と国から定められていた。


それは、ペルセフォネ教の自然保護という宗教的な理由もあるが、一番の理由はそんなクソ暑い時期に狩りを行うのは、猟師の体力的に危険だからである。



そして、狩猟禁止時期と言う事は、当然アナモタズ狩りに慟哭の森へ行き、怪我を負って帰ってきた猟師と冒険者や、海に出て怪我をした漁師もいないという事になる。



と言う事は、ヒーラー休憩所も暇な一週間となり、稼ぎに影響が出るというものであった。





「まあ、クソ蒸し暑い日が続くと、慟哭の森にも危険な植物とか生えたりすっから、行かない方が正解かもな」


「そっか……。まあ、そのお蔭で海にも来られたし、僕としては少し嬉しいかも…………バイト中でもね……」





ジュリオは腕にヒーラー休憩所職員の腕章を付けており、怪我人がいないか巡回しつつ、缶ジュースなどの売り子もしている。肩掛けにしたクーラーボックスはそこそこ重いが、これも仕事なのだ。


その隣のアンナは、パックの焼きそばを積んだ立売箱を首にかけている。





「ローエンさんとマリーリカも来てるし、海で遊べる時間もあると良いね」





ローエンは海の家のDJとしてカトレアに呼ばれ、マリーリカはこの一週間が暇だった故に呼ばれていた。


ローエンのテンションぶち上がるDJパフォーマンスや、清楚な水着姿の可愛らしいマリーリカの接客により、海の家は既に大繁盛している。

これならバイト代は期待出来そうだ。





「んじゃ、あたしらも行くか」


「そだね」





ジュリオとアンナは、メガホンを片手に歩きながら売り子仕事を始めた。





◇◇◇





特に怪我人も出ず、缶ジュースも焼きそばも良い感じに売れており、売り子作業は平和そのものであった。


クソ暑い日差しは中々厳しいが、サングラスをしているため目へのダメージは全くない。



体力面が不安であった海の家のバイトは、思ったより意外と上手くこなせていた。





「ジュリオ! アンナさん! 差し入れだよ!」





休憩時間になったのか、マリーリカが缶ジュースを持って駆け寄ってきてくれた。


水着姿のマリーリカはとても可愛らしく、すれ違う男は全員振り返っては見惚れている。



ジュリオとアンナも別の意味では振り返られたものだが、それはあくまで奇異の目だ。





「ありがとうマリーリカ。ジュースも焼きそばも後少しで完売って感じだし、自由時間になったらみんなで遊ぼうよ」


「そ、それなんだけどさ……私、自由時間は……水着美人コンテストに出ることになっちゃった……」


「水着美人コンテスト? そりゃまたどうして……」


「先輩が勝手に応募したの!! 私、無理だよ……コンテスト辞退はもう出来ないし、恥ずかしくて死んじゃう……」





マリーリカは青ざめた顔をしている。

しかし、清楚な白い水着を纏うマリーリカの可愛さなら、水着美人コンテストだろうが何だろうが余裕で無双できるだろう。


華奢な胸には控えめな谷間が出来ており、パレオから覗くスラリとした細い足には、男なら大興奮間違い無しである。



そう、コイツのように。





「マリーリカちゃん!!!! ああ……何て可愛いんだ……!! 女の子は天使だと思ってたけど、マリーリカちゃんは本当に天使だったんだね……!!」





サングラスをかけ、前を開けたアロハシャツに柄物のサーフパンツを履いたローエンが、テンション高めな様子でマリーリカにまとわりついている。


その様はまさに、海で女の子をナンパする絵に描いたようなチャラ男であった。





「ねえねえマリーリカちゃん!! 俺のパフォーマンスどうだった?」


「え、え……い、良い感じだと思いますよ……アハハ……」





夏の日差しで頭が茹で上がっているのか、ローエンはアホのように陽気なテンションでマリーリカに言い寄っている。


そんなローエンに言い寄られたマリーリカは、少し怯えつつも苦笑いをして、ジュリオの後ろに隠れつつ社交辞令を言った。



いつもならここでアンナがローエンのケツを蹴るパターンだが、今アンナは少し離れた位置で焼きそばを売り捌いている最中だ。立売箱を見ると、そろそろ完売しそうである。





「アンナ……暑くないのかな?」


「アイツ、日差しに弱えからな。クソ熱くてもあの上着手放せねえんだよ。日光遮断対策の加工してあるから、アレ」


「……それも、ローエンさんがやったの?」


「そうだけど。……つかジュリオ。俺の事は呼びタメで良いって言ったろ? 」





アンナが日差しに弱いなんて知らなかった。

自分の知らないアンナを、ローエンはたくさん知っているのだろう。

それに、アンナのトレードマークの様な赤い上着を日差し遮断加工したのもローエンだと言う。


随分と、アンナから頼りにされている模様だ。


……随分と。





「おい〜! どうしたジュリオ? 暑さで頭がやられたか? 今はあの白髪よりもマリーリカちゃんだろ!! ほら! このチラシ見ろや!」


「え、うん。……えっと、これは……水着美人コンテストのチラシ……?」





チラシを見ると、そこには優勝賞金と応募規定などが描かれていた。

応募要項には『水着を着た美人なら誰でも! プロアマ問わず!』と書いてあり、イベントの緩さが伺える。 


だが、緩い割には賞金は良い値段があり、この金額が手に入れば、固定資産税と市民税とこの前ジュリオがスプリンクラーを誤作動させぶっ壊したテレビの弁償代の全てが賄えそうだと思った。


 



「マリーリカちゃんなら絶対優勝余裕だから!!! 俺、応援してるよ!!!」


「はは……どうも……。…………ね、ねえ……。ジュリオも……応援してくれる……?」





マリーリカはローエンを社交辞令であしらったあと、ジュリオのTシャツをくいっと引っ張り、不安げな上目遣いで見上げてきた。





「アンナもこれ……出られるかな」





ジュリオはふと、そんな事を口にしてしまった。

アンナだって、だっせえ白いTシャツとジャージの下には水着を着ていると言っていたし、飛び入り参加も可能だろう。


アンナが優勝して賞金を獲得してくれたら、金銭的な問題は全て解決するのだ。





「ねえ……ジュリオ、聞いてる……?」


「え? うん! 聞いてる聞いてる! 頑張ってねマリーリカ! 君なら余裕だって!」


「…………うん……」





そう言えば、アンナはもう焼きそばを完売させただろうか?


先程アンナがいた位置へ振り向く。

空になった立売箱を肩にかけたアンナは、こっちに向かっているようだ。





「アンナ! お疲れ!」


「……あ……うん。……こっちは全部……捌けたぞ……」


「……大丈夫?」





アンナの返事は歯切れが悪い。


何か、嫌な予感がした。





「ねえ、ほんと大丈夫? ほら、まだジュースの在庫あるから、これ飲みな!」


「いや、……駄目だ……商売もんに手ぇ出したら……稼ぎが減る……」


「稼ぎとか言ってる場合じゃないでしょ! ……すごい汗だよ? ほんと、大丈夫……?」





赤いフードに隠れたアンナの顔を覗き込むと、汗がダラダラと大量に出ており、肌もいつも以上に青白い。

サングラスで隠れた奥の目は虚ろであり、明らかにヤバイということがわかった。





「平気だ……これくらい……それより…………婆さんから焼きそばの在庫を……」


「今は焼きそばよりも君の体調だってば! カトレアさんだって、焼きそば売ってる場合じゃないでしょって怒るって!」


「…………そしたら……固定資産と市民税……どうす……ん……だ」


「アンナ!?」





アンナがジュリオに倒れ込んだ。





「うそ! ねえ!? 大丈夫ほんと!?」





小柄なアンナの体はそこそこ重く、ジュリオはバランスを崩しそうになる。


触れ合う体は異様に熱く、これは明らかにマズい事がわかった。



突然の異常事態に、ローエンとマリーリカも駆け寄ってきてくれる。





「アンナ……ねえ……しっかりして……!」





ジュリオの腕に抱かれたアンナはぐったりしており、ズレたサングラスからは苦しげな表情が見えた。


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