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37.アイツとの再会!

ルトリとの事情聴取を終えた後、役所にある自動販売機の前で、アンナから根本的な質問をされた。





「なあジュリオ。ところであんた、今夜はどこで寝るつもりなんだ?」





「うーん……取り敢えず……。カトレアさんと会って、職場で寝かせてもらえないか聞いてみようかなって。ヒーラー休憩所ってくらいだから、ベッドくらいあると思うんだよね……」







それがダメなら、もらった報酬金で宿でも借りるつもりだ。







「そっか……。あのさ」




「ん?」







アンナは涼しい顔でこちらを見上げてくる。



先程は、こんなに可愛らしくしかも巨乳の美少女と一緒に風呂に入ったのかと思うと、顔が熱くなって思わず目をそらしてしまう。




銭湯では、アンナの色々なものを見た。




様々な事に翻弄され、ジュリオの頭は混乱している。取り敢えず、今まで見てきた女体の中ではアンナの体は一番扇情的だったなあという感想を抱いた。







「良かったらウチに来るか? 勿論、月一で金はもらうし、固定資産税の時とかには加勢してもらうけど」




「……え」







アンナの斜め上からの提案に、ジュリオは言葉を無くしてしまう。







「それってアンナと一緒に暮らすって事だよね? さすがにそれは……」







いくらアンナがジュリオよりも強いからとは言え、さすがに女の子の家に転がり込むというのはどうなのか。




と言うか、アンナの距離感が心配になってしまう。



この町の住民は、一度懐に入れた相手に対し面倒見が良くなる情の深さを持つが、だとしてもアンナは危うさを覚えるほどである。





可愛くて乳のでかい女の子と暮らせる! という嬉しさよりも、アンナの距離感のガバガバ感に眉を潜めてしまうのは、ジュリオが過去に美女や美少女達からアホほどモテたからであった。







「……あたしだって、誰にでもこんな事言うわけじゃない。あんたが自分で自分の身を守れるヤツだったらこんな事は言わないよ。チート性能のヒーラーでも、身を守れる力はないんだろ?」




「ま、まあ……そりゃ……」







激動の一日の中、自分が最強のチート性能ヒーラーだとわかった。



しかし、攻撃面はからっきしであるのは変わりない。



ジュリオの華奢な体では、野良猫にすら負ける事確実である。







「それに、あんたは元王子だ。とんでもねえ世間知らずで、危機管理能力も薄い。……はっきり言って、一人で慟哭の森前のターミナルで寝起きさせるのは怖えんだよ。クラップタウンと違って、あそこはよそ者がかなり多い。何をするかわからないヤツだっているんだ。……せっかく助けたヤツが危ない目に遭うのは嫌なんだよ」




「……そうだよね……僕、すごく美人だから」




「茶化すなよ。……まあ、心配要素はそれもあるけどさ」







アンナが言い辛そうに心配事を話すから、ジュリオはついついふざけて話を茶化してしまう。





確かに、自分は元王子である故に、世間知らずで危機管理能力も薄い。自分の身を守る力も無い。



そんな自分が一人で、しかも報酬金というそれなりの大金を持って、慟哭の森前のターミナルで寝起きすると言うのは、確かに危険だと思う。







「まあ、考えといて」







アンナはジュリオの背中を軽く叩いたのだった。







◇◇◇







アンナは仕留めたアナモタズの報酬金を受け取るため財務課へ向かったため、ジュリオはロビーでボケーっとしていた。




すると。







「おお! ジュリオくん。お疲れ~」



「カトレアさん!お疲れ様です!」







カトレアと再会したではないか!



ジュリオは嬉しくなって元気よく挨拶をすると、カトレアは初孫の成長を見守る祖母のような顔で笑っている。




そんな時、役所のアナウンスで『ジュリオ・ギャラガーさん。ヒーラー課の窓口へお越しください』と言われ、そう言えばヒーラー免許が発行されるタイミングだったと思い出す。




カトレアと共に、ヒーラー免許を取りに行くためヒーラー課へと向かった。




免許の受け取りのために窓口へ行き名を名乗ると、職員はトレイの上に乗った小さなカードを出してきた。







「こちらが、ジュリオ・ギャラガーさんのヒーラー免許となります」




「ありがとうございます!」







これを取得するために、どれだけ大変だった事か。



自分の顔写真が乗った小さなカードが、とても重く感じる。







「……免許取得まで長かった……! どれだけたらい回しにされた事か……!」




「お疲れ様、ジュリオくん。これから頑張ってね」




「はい……! 頑張ってみます! 何から何まで、本当にありがとうございました……っ!」







ジュリオが頭を下げて礼を言うと、カトレアは薄く笑って「アタシは何もしてないよ」と答えた。







「アタシよりも、アンナの方が良くやってるって。アナモタズ事件の被害者は大体死体で見つかるから、君を助けられたのが嬉しかったんだね」







助けられたのが嬉しい、という気持ちはジュリオもわかる。




ジュリオだって、マリーリカを助けられて嬉しかったのだ。



妹を亡くして錯乱したマリーリカに八つ当たりをされたとしても、怒りなどは一切無かった。







「それじゃ、仕事についての詳しい話はアンナのスマホに連絡するから、ジュリオくんも時間が出来たらスマホ買いな。仕事の連絡もやりやすくなるしさ」




「はい……! やる事がたくさんですね……」




「これも生きるためだよ。その内慣れるから。食って働いて寝るだけじゃなく、生きるって意外とやる事がたくさんあるよね」







生きるって意外とやる事がたくさんあるよね、と静かに笑うカトレアの言葉に、ジュリオは「そう言えば!」と思い出す。







「あの、カトレアさん……。住む場所が決まるまで、職場で寝かせてもらうわけには行きませんか……? 図々しい申し出で恐縮なんですけど……」







きっと、カトレアは快諾してくれるだろうと思っていたが、返ってきたのは意外な答えだった。







「ごめん……それは許可出来ないや……。もし、職場で一人で寝てるキミに何かあったら、アタシが全責任を負う事になるんだ。だから、監督官としては許可出来ないな。……ごめんね」




「そう……ですよね……。こちらこそごめんなさい」







カトレアの立場をすっかり忘れていた。



確かに、職場で寝泊まりしていた従業員に何かあれば、責任はカトレアが取ることになるだろう。



そんな事に気付けなかった自分は、やはり世間知らずだと恥ずかしくなった。







「住む場所の候補は、もう無いのかな?」




「後は……宿を……」




「立て続けに否定して悪いんだけど、宿もあんまりオススメ出来ないな……。ほら、慟哭の森のターミナルって、冒険者がすごく多いでしょ? だから、夜だろうと朝だろうと騒ぎまくる連中もいるし、落ち着いて寝られないと思うんだ。……勿論、治安的にもね」




「そうですか……そうなると……後はもう……アンナのところにしか……」







職場も宿も駄目となると、やはりアンナの家に転がり込むしか無いのかと思う。




だが、女の子の家に自分が上がりこむというのは、一番却下されるだろうと予想した。







「アンナの家? ああ、一番マシな考えだね」




「そうですか!? 女の子の家ですよ!?」




「まあ……キミとアンナならアンナが勝つだろうし、アンナと暮らすなら身の安全も保証出来るし、クラップタウンでも『アンナのとこに住んでるヤツ』って事で危ない目には遭わないと思うから、結構良いんじゃないかな」




「そ、そうですか……」







カトレアはヘラヘラ笑っているが、ジュリオは今だに戸惑っている。




確かに、アンナの元で暮らすのが一番安全だろう。貯蓄も貯まる上に、自分のような世間知らずがいきなり一人で暮らすより、アンナと言う人生の先輩がいれば心強い事間違い無しだ。







「キミとしても、女の子と一つ屋根の下ってのは気にするとこかも知れないけど…………今流行の異世界人文化のシェアハウスって思えば、気分も変わるんじゃないかな」




「そうですかね……」







カトレアとジュリオは会話をしながらロビーへと戻る。



そして、ジュリオはアンナを待つためにその場に留まり、カトレアは帰宅する流れとなった。





カトレアはクラップタウンの中でも比較的上流である北側に住んでおり、ルトリも同じなのだと言う。




そう言えば、ルトリもクラップタウンの住民であるが、この界隈の住民には無い気品があると思う。



口調も柔らかく常に笑顔を絶やさない朗らかなルトリと、この掃き溜めのような町は不釣り合いだ。




事情聴取の際にルトリが垣間見せた冷たい表情は、多分ジュリオが疲れていたからそう見えたのだろう。



ルトリから攻めた質問をされ、ビビってしまったが故に、ルトリが豹変したように見えただけだ。



きっとそうだ。




ジュリオは、待ち合わせ場所のロビーの椅子に座ってボケーッとしながら、アンナが来るのを待っていた。







「シェアハウスって思えば……。でも、女の子の家になあ……」







うじうじと考え込んでいたジュリオであった。




そんな時である。







「あ、あの……ジュリオさん……?」







聞き慣れた声に名を呼ばれ、ジュリオは顔を上げた。







「マリーリカ…………」







そこに居たのは、両手に紙袋を持ったマリーリカが、気不味そうにジュリオを見ていたのだった。



暖かなオレンジ色の髪と真っ青な瞳は夕焼けから夜へと変わる空模様を思わせる。



可憐でふんわりした印象の華奢な美少女で、男なら秒で恋に落ちてしまうだろう。




実際に、ジュリオの好みドストライクでもあった。





しかし、マリーリカにとんでもない八つ当たりを受けたジュリオは、やや引きつった顔のままどうしたらよいかと悩んでいる。







「あの時はごめんなさい!!!! 私、ほんとに頭おかしかったよね……。ごめんなさい……」




「…………マリーリカ……」







マリーリカはガバッと頭を下げて、ジュリオに謝って来たのだった。


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