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28.悪役ふたり……?

ジュリオがクラップタウンという貧民窟で、ヤバい連中達と毒沼のドブさらいをしていた一方。





ジュリオを追放した弟王子のルテミスは、聖ペルセフォネ王国の城内の自室にて、ネネカと共に寛いでいた。



綺麗に整頓された本棚や机が上品で美しい、広々とした部屋である。







「ルテミスさん、エンジュリオス殿下……今頃どうしてますかね……。野垂れ死んでないといいっすけど」







ネネカは背もたれを前にした椅子に足を大きく広げて跨り、背もたれに腕を回して頬を乗せるという、だらしない座り方をしている。







「エンジュリオス殿下……大丈夫でしょうか? 追放しておいてアレっすけど、博打にしちゃやっぱ危険だったのでは」







随分と砕けて雑な口調である。




いつもネネカは「さすがですルテミス様! 私も聖女として精進いたしますわ」と言ったような、丁寧で上品な話し方をしていたが、だらしない座り方といい雑な喋り方の方が様になっているため、恐らくこちらのネネカが本当の姿なのだろう。








「仕方無ぇだろ。兄上をこの国に置いとくわけにはいかないからな」







ルテミスの口調や表情は、いつもの生真面目な好青年の姿とはかけ離れている。



まるでどこぞの白髪赤目の巨乳女のようなチンピラ感丸出しであった。




恐らく、ルテミスの本性も、ネネカと似たようなものなのだろう。







「ネネカ。そこのメガネクリーナー取ってくれ」




「へ〜い」







ルテミスに言われた通り、ネネカは机の上にあるメガネクリーナーのボトルを手に取ると、ルテミスに向かって放り投げた。







「おお〜! ナイスキャッチ〜! さすがっすぅ〜! ルテミス様ぁ〜」




「舐めとんのかテメェ」







黒色の広いソファーに足を組んで座り、外した眼鏡を几帳面に拭いているルテミスは、静かに笑いながら毒づいた。



メガネを外したルテミスは、地味ながらも優しげで誠実そうな優等生的な雰囲気が一変し、冷血で狡猾そうな色気のある危険な男感満載である。







「ルテミスさん。その眼鏡、伊達っしょ? 眼鏡かけたルテミスさんは真面目そうで優しそうに見えるから、イメージ戦略としては成功してるんだし、そこまで磨かんでも良くないっすか」




「それがさ……こう言う細かいとこまで品定めされんのが、王位継承権第一位の俺の立場なんだよ。……こんなグッチャグチャの国の王位継承権なんざ、借金の連帯保証人みてぇなもんだけどよ」







眼鏡を拭き終わり、ソファーのすぐ近くのサイドテーブルにそっと置いた後、キッチリと締めていたスカーフを緩めた。




怠そうに会話をする二人の様子からは、ジュリオを追放したときに見せた、清廉潔白な善人らしき雰囲気は微塵にも感じられない。




このガラの悪さはまるで、クラップタウンの住民の様だ。





 




「借金の連帯保証人ねぇ……人の国についてこう言うのもアレっすけど、言い得て妙っすね」




「だろ? さすが聖女様話がわかるな。……そんな聖女ネネカ様に頼みがあるんだが……」




「タバコっすか? 別に良いけど。……正直言うと、体に良いもんじゃないし、聖女の立場的に禁煙を勧めまーす」







特に止める気も無さそうなネネカを無視して、ルテミスはライターでタバコに火をつけ吸い始めた。




タバコの煙が部屋に溶けてゆく。



それを見ていたネネカは、「あーあ」と呟き、机の上にあるビールの中瓶を手にしてラッパ飲みを始めた。







「つーかネネカ。俺にタバコやめさせる前に、お前酒やめろよ。いくら酒豪だからってお前、酒だって飲み過ぎたら体に良いもんじゃなかやろ」




「酒は万病に効く薬だからいいんすよ。消毒にも使われてますからね。タバコとは違いますぅ〜」




「変わんねぇだろ」




「ルテミスさんもタバコやめて酒飲めば良いのに……って、酒クッソ弱い貴方じゃ厳しいか。……そんなとこ、エンジュリオス殿下とそっくりっすね」 




「……もうやめろ。兄上の話はすんな」




「へいへい」







ルテミスのツッコミを受け流したネネカは、酒を豪快に飲み干した後、神妙な顔で「エンジュリオス殿下……」とポツリと声をこぼした。







「これで良かったんすかね、ほんとに……。エンジュリオス殿下を追放して……この国、崩壊とかしませんよね? ほら、こーゆー話って大抵、追放した国が大変な事になるじゃないっすか」




「その心配は無い。……この国にはとっくの昔に崩壊しとるけん」




「…………厨二病みたいな事言いますやん。後、お母様の訛りが出てますよ」




「やべ」






ヘラヘラ笑って茶化してくるネネカに、ルテミスは咳払いをして懐からスマホを取り出した。




ルテミスは、異世界文明の最たるものであるスマホをネネカに見せつけると、呆れた様な顔で言うのだった。







「ネネカ。……これ、なんだと思う?」




「スマホっ……すけど、それが何か……? つーかルテミスさん。……王族って異世界文明が嫌いなんでしょ? そんなモン持ってて大丈夫なんすか」




「なぁに。バレんようにやるさ。……もしかしたら、案外他の奴も持っとるかもしれんぞ」







ルテミスの言葉に、ネネカもポケットからスマホを取り出し、苦々しく眺めている。







「正直、異世界に来てまでスマホのお世話になるなんて、思いもしなかったっすよ。……またこの板に使われるのかよって。…………唯一の救いは、SNSが無い事くらいっすね」




「えす、えぬ……えす? なんじゃそりゃ」






聞き慣れない異世界言葉に戸惑うと、ネネカはすんませんと前置きして「気にせんでくださいよ。私もSNSは詳しく知らんので」と話を流した。





ルテミスも、えすえぬえす……何て得体の知れんものを知らんでも、自分の言いたい事は話せるだろうと判断してネネカに従う。



頭が良いやつは、引き際も良いのであった。







「異世界人がもたらした、このスマホという文明。…………スマホなんてモンはお前らからしたら、ありふれた日用品だろうけどよ。……俺たちペルセフォネ人からしたらこんな道具、まさにチート能力なんだよ」




「……まあ、そりゃあ」




「なあネネカ。このスマホが、この聖ペルセフォネ王国にどれだけの進化を与えたと思う? スマホだけじゃない。コンビニ、ラジオ……それに、テレビとかいう遠く離れた場所の光景を見られる魔法仕掛けの箱。……正直、魔物よりも化け物みたいだ」







そんな化け物ような文明をこの世界にもたらす異世界人の人口は年々、ねずみ算の如くに増加している。





そんな異世界人達はチート能力を使って、聖ペルセフォネ王国に進んだ文明をもたらした。





その様はまるで『元エンジニアだけど、異世界での通信が不便だったので、スマホを開発してみた』とか



『元年商百兆の経営者だけど、異世界で商売がしたいのでコンビニ経営をしてみた』とか



『元最強プロデューサーだけど、異世界の娯楽がつまらないからテレビ局を作ってみた』




と言った、物語だったらちょっと読んでみたくなるような活躍である。







「異世界人の化け物みたいな文明に触れて、この国の国民は大きく変わった。いや、これからも変わり続けるだろう。……いつまでも、女神や王族貴族を崇め奉ってはくれんやろ」




「まあ……そうっすね」




「この国の崩壊は異世界人が来たときから始まってんだ。……今更、兄上ば一人追放したところで何も変わらんさ」




「…………お母様の訛りが出てます。気を付けて下さいよ? 異世界人訛りはここじゃ禁句ですから」




「悪い。そうだな」







ルテミスはソファーに寝転び足を組んだ。







「それに、兄上だって野垂れ死んじゃいねえだろ。……その為にも、アイツに追放した兄上を拾って護衛させる役を頼んだんだ」




「あの方も大丈夫でしょうか。……厄介な人に嗅ぎ回られてるって言ってましたし」




「だよな……。それにしても、アイツ今頃何してんだ? いつもは毎晩必ず返信してくるのに、何やってんだ一体…………」







ルテミスは苦々しい顔で、片手でスマホを操作している。







「カンマリー……アイツ一体、どこで何してんだ……?」


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