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201.クラップタウン化してゆく聖ペルセフォネ王国

ジュリオはカトレアとネネカと共に、ナトミアの両親を連れてペルセフォネ大教会へと向かった。


ペルセフォネ大教会に異世界人や追放処分を受けた者を連れてくるのは、本来ならば許されていないが、敢えてこの二人を連れて行くには訳があったのだ。


それは、解剖を行う際のメンバーを見せて、こっちは本気だという意思表示である。



枢機卿達がずらりと並んで座る会議室に到着したジュリオは、ナトミアの両親を前に出して

 


「フィラム枢機卿。……解剖を望む国民を、連れて参りました」



と宣言する。



その後ろにはネネカとカトレアが控えていた。





「国民を連れて来られたのですね。……ですが、そのご夫婦だけではペルセフォネ教として解剖を認めるわけには行きません。……どうすれば良いか、お分かりですね?」





フィラム枢機卿の言葉を『そのまま受け取る』なら、『話にならねえ帰れ!』だろう。



しかし、ルテミスが言った事と、フィラム枢機卿がずっと言い聞かせてくれた事を思い出す。



そもそも、何故ジュリオなどと言うアホが大司教になってしまったのかを。





「国民投票を行えばいいんですね。……大司教が使える、唯一の権利ですから」


「……そうされますか。……どのような結果になるかは分かりませんが、ご武運を」





フィラム枢機卿は冷たく言い放つが、目はどこか優しい。





「我々、聖ペルセフォネ王国の枢機卿と言うのは、大司教が私利私欲の為にペルセフォネ教を私物化するのを防ぐ為に目を光らせるのも仕事でございます。……ですから、我々はその立場を崩すつもりはございません」


「はい。……国民投票までの段取りは、僕と友人達で何とかやってみます。……ありがとうございました」





フィラム枢機卿は枢機卿と言う立場で出来る範囲の事をしてくれたのだろう。


確かに、枢機卿が大司教の言う事をホイホイ聞いていたら、それこそペルセフォネ教は大司教の物になってしまう。そこら辺のバランス調整の役割もあるのだとジュリオは思った。





◇◇◇





ペルセフォネ大教会を出たあと、ジュリオとネネカは『教えて! おネネさん!』の収録へ向かい、カトレアとナトミアの両親は、王立ヒーラー休憩所近くの高級宿へ戻った。



ジュリオとネネカは、馬車に揺られながら解剖の国民投票の作戦会議をし始める。





「ジュリオさん、スケジュールのおさらいをしましょうか。国民投票が発表されるのは明日の朝。……それで、肝心の投票が行われるのは一週間後の昼。……つまり、我々に残されているのは一週間です。その間に、国民に解剖の許可票を頂かねばなりません」


「長年の禁忌を破壊する行為を……どうやって認めてもらえるのかな……」


「今はまだ、『教えて! おネネさん!』で解剖の説明をするしか無いでしょう。……もし、勝負を仕掛けるなら……投票の前日の夜、一番関心が高まっているタイミングが効果的かと思います」





ネネカは鋭い表情で助言をくれる。


そんなネネカの頼もしさを前にして『ルテミスはこの女と一緒にいたのか……そりゃ頭も良くなるよ』と納得してしまう。


まあそれは、異世界の進んだ知識や経験を持つネネカに追いつけるだけの知力と度胸がルテミスにはあったと言うことだ。


王子時代のアホな自分では、ネネカも本領を発揮出来なかっただろう。



しかし、今のジュリオも確かにアホで知力は無いが、度胸と根性と闘志ならある。





「勝負をかける……かあ。……テレビ番組の最後にやる番宣に便乗できないかって考えたけど……話してる間にコマーシャルを入れられちゃ話にならないしなあ」


「そうですね。ヒナシはただコマーシャルを流して金儲けをして異世界人の地位を上げたいだけですから。……寧ろ、呪いの病でペルセフォネ人が大量に死ぬのは望むところ……と言ったとこでしょうね」


「呪いの病にかかってるのは異世界人も同じだってのに…………って……でもさ」





ジュリオはそこでハッとする。





「異世界人は、呪いの病がペルセフォネ人やハーフエルフに比べて重症化してないよね? チート能力があるから? いや、それは個人差によるから……」





独り言を言いながら、王立ヒーラー休憩所や他の休憩所での光景を思い出す。

呪いの病が重症化して大変な事になっているのはペルセフォネ人やハーフエルフであるのに対し、異世界人に現れた症状は、皮膚が赤く腫れたり、咳が出たくらいである。





「病人の資料を見てもさ、異世界人で呪い食いにかかった人の症状はそこまで深刻じゃなかったんだ。……王立ヒーラー休憩所は、異世界人差別が激しいクソみたいな施設だけど、病人に対しては別だったし」





ツザクラの方針は、異世界人やハーフエルフはクソだが、病人は皆等しく病人である……と言うものだった。


だからこそ、ジュリオは重症化しているペルセフォネ人の方が強く印象に残っていたのだ。





「異世界人だけが軽症ですむ、呪い食いの病…………。ジュリオさん、これ、早く解決しないとヤバいですよ」


「え? 何で」


「だって、異世界人嫌いのペルセフォネ人貴族や王族達が、これに気付いたら『呪いの病は異世界人の仕業だ!』ってデマを流す可能性があります」


「そんな! いくらなんでも……。こんな非常事態に種族の分断招いてる場合!?」





アホのジュリオでもそれは悪手だとわかる。


第一、この病の原因を異世界人の仕業だとでっち上げたところで、何も解決しないのだから。





「十分にありえますよ。……メティシフェルと言うペルセフォネ国家の屋台骨が死んだ今、現状では、テレビ屋のヒナシの権力の方が強くなっています。…………しかも貴族王族社会から追放されたジュリオさんがまた国民の人気者になった事で、彼らの立場は滅茶苦茶悪くなってると思います」


「確かに……ランダーの支持率、歴代で一番低いもんね……。こんな事、今まで無かったのに」


「ランダー陛下はルテミスさんのお母様であるハルさんを心から愛しておりますので、異世界人の差別に繋がる事をし始めるとは考えられません。…………ですが……ランダー陛下の周りで甘い汁を吸ってきた貴族や王族連中は……ランダー陛下を盾にして、何をしでかすか分かりません……」


「嫌な予感がするね……」





ジュリオはネネカの予想に苦い顔をした。


しかし、テレビ局に到着して収録を始めれば、二人ともにこやかに笑って解剖の話をしなければならない。


ネネカは異世界で『自殺と思われていた人が、解剖によって殺されたと言うことが分かった』と言う解剖の良い話をし続ける。


それに対し、ジュリオがペルセフォネ人らしい疑問をする事で、解剖へ懐疑的な人々の疑問を解消し、より一層解剖を必要な行為だと認識してもらうのだ。



今できる事はそれだけである。





◇◇◇





その翌日の朝、テレビ速報と新聞で


『呪いの病でこの世を去った病人の女性が、この国の医学の進歩の為に自身を解剖してくれと望んだ』 


と言うニュースと共に、


『その女性の両親の承認を得たエンジュリオス大司教は、今まで禁忌とされていた解剖を正式に行うかどうか、国民投票を行う』


と発表された。



それと同時に、恐れていた事態が遂に起きてしまう。





「そんな……異世界人が……ペルセフォネ人に殺された……なんて」





テレビを見ながら、ジュリオは顔面蒼白になる。



テレビのニュースでは、ペルセフォネ人貴族が『異世界人からこの国を取り戻す』と言う目的の自警団を組み、手当たり次第異世界人や異世界人の店などを襲っているのだそうだ。



聖ペルセフォネ王国を蝕む呪いの病で、異世界人だけが重症化しないと言う事を動かぬ証拠と早合点し、勝手に戦いを引き起こしたアホにどれほど立派な大義があるかは知ったこっちゃない。



ジュリオから言わせれば『医学屋でもない貴族連中がろくに調べもしないで何言ってんの! 戦いを引き起こす方は大義に酔えて楽しいかもしれないけど、巻き込まれた方は溜まったもんじゃないよ!』と頭を抱えてしまう。



そんなニュースを見て、アンナも苦い顔をしながら 



「とうとう聖ペルセフォネ王国もクラップタウンみたいになっちまったな。」



と呟く。





「でも……クラップタウンの攻撃対象は貧乏人を舐める嫌味な金持ちだから……だけど、う〜ん、ごめん、やっぱり似たようなもんだね」





ジュリオの顔も暗くなる。





「早く……解決しないと……。国民投票の前夜に、勝負を仕掛けようにも……ヒナシの番組何かコマーシャルだらけで台本以外のことは喋れたもんじゃないし……」





どうにか国民へ解剖について、いや呪いの病の解決の為の話を聞かせられないかと悩む。


しかし、大司教就任式の時の様に人を集めて演説……と言うのは、アホの貴族達による自警団が異世界人を襲撃する恐れがあるので危険過ぎる。



何か、何か家にいながらジュリオの声を国民に届ける事は出来ないか。


テレビ以外で、ジュリオが好きなだけ喋り倒せる、『声を伝える手段』は。





「声を……伝える……」





ジュリオの顔がぱっと明るくなる。



あるじゃないか!! 声を伝える手段が!!!



現に、ジュリオも『クラップタウンに居るあの男』の声を、『聖ペルセフォネ王国の王城で聞いていた』ではないか!!!





「ローエンごめん! 起きて!! 早く!!!」





ジュリオはまだ眠っているローエンを叩き起こす。


ロングスリーパーのローエンを叩き起こすのは可哀想だが仕方無い。





「ぁあ"? んだよジュリオ……」


「ごめんっ! ほんとごめん!!! ローエン、力を貸して!!!」





ジュリオに叩き起こされたローエンはボケーッとしているが、そんなのお構い無しにジュリオはローエンの両肩を掴んで



「ラジオだよ!!! ラジオのゲストに僕を出して!!!」



と声を張り上げた。


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