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175.それぞれの調査!

「キジカクさん……。お忙しい中、ご同行頂きありがとうございます」


「礼には及ばない。それに、もしこの水路調査が成功したら、我々と共同した事による成果だと言えるからな」





王立ヒーラー休憩中で使用している水が汚染されていると知ったジュリオは、翌日に大司教アトリーチェの指示と言う形で、この土地の地下にある水路を調査する事となった。



ツザクラは『アトリーチェの指示な上に、この地下の水路はエレシス家の持ち物なので、我々の管轄外で手が出せない。だから、キジカクを派遣して成果が出たら我々の功績とさせてもらう』と言い、右腕でもあるキジカクを派遣して来たのだ。



そんな経緯を踏まえつつ、ジュリオとキジカクとアンナとローエンは、水路の入り口付近で水路調査の内容をおさらいしていた。





「今回はこの前の毒沼のドブさらいと同じ感じになるかも。……でも、水路だからドブさらいみたいに水を入れ替える……なんて事は出来そうにないね」





ジュリオは懐かしのドブさらいを思った。





「まあ、下水道との隠し通路を見っけて、そこを封鎖して水質を浄化すりゃ、今よりはマシになるだろ。場合によっちゃ、一度隠し扉をぶっ壊して新しいのに付け替えるとかかな」





ローエンは大きな道具箱を肩にかけ、アンナにマスクを渡す。





「アンナお前、タダでさえ鼻が効くんだ。弓が鈍ったらやべえからな」


「ありがとう。……水路に魔物ってのも想像つかねえけど……。まあ、下水道に魔物が出るのはよくある話だけどな」





アンナはローエンから貰ったマスクを鼻と口に当て、弓のチューニングをしている。


今回の水路調査にアンナを呼んだのも、下水道から入り込んできた魔物が水路にいる場合、それを駆除する為だった。



下水道にはよく魔物が出るが、それは冒険者達に依頼して倒している。


しかし、呪いの病が蔓延して混乱状態の聖ペルセフォネ王国に、冒険者を管理し依頼を出す余裕など無いだろう。



油断は禁物、と言う事だ。





「頼むぞアンナ。俺は自作のクロスボウで何とかするけど、正直言って威力はお前のと比べ物にならねえ位低い。……それに、ジュリオもキジカクさんは魔物と戦う専門じゃねえからな……。勿論、俺も」





ローエンからはいつもの明るい雰囲気が消えていた。

クロスボウを手に持ち、複雑な顔をしている。





「ローエン、あの、カツラギ先生の銃は……」





ジュリオは『クロスボウよりも異世界人の最強の武器である銃の方が良いのでは? ローエン、扱いうまかったし』と思い疑問を口にした。





「銃は……触りたくない」





ローエンは悲しそうな顔で笑う。



ジュリオは、それ以上の追求を止めた。





◇◇◇





いざ水路に入って見ると、やはり土と同じ……いや、それ以上にドギツイ悪臭が漂っている。





「なんて事だ……どうして飲水の汚染に気付けなかったんだ……」





キジカクは眉間にシワを寄せている。





「しょうがないですよ。あの建物、換気が出来てなくて匂いがこもってたし、あそこで長時間働いてたら、鼻が慣れて匂いもわからなくなっていたでしょう」





ジュリオは先頭を行くアンナ後を付いて歩きながら、キジカクへ答えた。





「清掃業者がここへ来るまではまだ時間があるから、業者さんがちゃんと働けるよう事前準備はしとかないと」





昨日、ジュリオから連絡を受けた清掃業者は、アトリーチェから依頼を受けると言う形で強力をしてくれる事になったのだが、呪いの病が蔓延している聖ペルセフォネ王国に入国するのは中々時間がいるらしく、色々と手間取っているという。





「毒沼のドブさらいの時みたく、アンナが爆弾樽を爆破したり脱法薬草と違法ポーションをぶちまけるわけにはいかないもんなあ」


「脱方薬草……? 違法ポーションだと?」





ジュリオのアウトロー発言に、キジカクは露骨にキレた顔をした。


確かに、これが普通の反応だよなあ、とジュリオはヘラヘラ笑ってキジカクをなだめた。


 

そんなこんなで、しばらく酸っぱい悪臭のする水路を歩いていると、アンナが何かを見つけたようにしゃがみこんで立ち止まった。





「おい……。こっから……汚ッえ泥水みてえのが流れ出てるぞ」 





◇◇◇





ジュリオは、水路の壁から流れ出ている汚え泥水を、ローエンが持っていた試験管と水質調査薬で調べてみた。



そうしたら、やはり汚染された土と同じ成分が出ている事がわかったのだ。





「この漏れ出てる場所より程々に遠い水は綺麗だから……。ここから出て来た汚水が水路に混じってたんだね」





ジュリオはスマホでネネカにメッセージを送ると、



「ここ、塞がないと」



と壁を触ってみた。



すると、壁がまるで腐った木の様にブヨブヨとしており、明らかに他の石壁と違う素材で出来ている事が分かる。





「これ、もしかして……隠し扉じゃ……」





ジュリオの言葉を聞いたローエンが、ナイフでそのブヨブヨとした壁を削ってみた。



 


「ああ。こりゃ、木製の扉だよ。……でも、防腐加工も金属加工もされてるし、下水道の手入れを普通にしてりゃ腐ることもない上等な木を使ってる。……だから、この扉がここまで腐るってのは……」





ローエンは考え混みながらブツブツと早口で呟き、



「アンナ。弓の用意を頼む」



と口にする。





「分かった」





アンナはすぐに狙撃姿勢をとり、いつでも魔物をぶっ殺せる状態だ。



ローエンもクロスボウを構えつつ、ジュリオとキジカクを背後に隠す。





「俺は今からこの扉を蹴り破る。……どうせ扉は付け替えだし、下水道も調べなきゃならねえからな。…………ジュリオ、キジカクさんを頼むぞ」


「分かった。ローエンも無理しないで。……君の本業は便利屋だし」





ジュリオの言葉にローエンはニヤリと笑い、勢い良く腐った扉を蹴り開ける。



すると!




ゥグォォオオオと雄叫びを上げながら狼型の魔物が突っ込んで来たではないか!





「ひッ」





ジュリオは、アナモタズと言うアホのように凶暴な魔物には慣れているが、狼型の魔物は初対面である。


俊敏な動きに体が怯み、息が止まってしまう。



しかし、すぐに空気を切る鋭い音が聞こえ、次の瞬間には眉間に矢がぶっ刺さった狼型の魔物が倒れていた。





「アナモタズよりも柔けえから殺しやすいな」




アンナはいつものように涼しい顔をして、猟師としての仕事をこなしていた。





「仕事人だな……お前のツレは……」





さすがの狼型の魔物に腰を抜かしていたキジカクは、アンナの流れるような弓捌きに空いた口が塞がらないと言った様子だ。





「にしても……リュカウルフみてえな狼型の魔物が、何でこの聖ペルセフォネ王国の下水道にいんだよ」





アンナは下水道と水路を繋ぐと隠し通路を通り、先程ぶっ殺した狼型の魔物――リュカウルフを見下ろしている。





「リュカウルフ……って、ごめん、僕良く知らないや」


「ああ、リュカウルフっつーのは西ペルセフォネ地域にいる魔物でさ。清潔な水辺や森何かにいる筈なんだけど……何でこんな下水道にいるんだか……」





水路と下水道をつなぐ道は、下水道に近づくにつれだんだんと匂いが強烈になるが、すでに鼻が馬鹿になっているジュリオは特に平気であった。





「……おいジュリオ、もう少し離れてろ。…………また、魔物だ」


「!? わかった」





ジュリオはすぐにアンナから離れ、キジカクを庇うようにしながら安全な場所へ避難する。



ローエンもクロスボウを構え、アンナの補佐をする位置に付いた。





「狼型だけじゃねえ。鹿型に鳥型に…………猪型まで。……下水道の魔物って毒蛇とかじゃねえのかよ」





アンナは落ち着きながらも驚いている。


的確にこちらを狙ってくる魔物を弓矢でぶっ殺しつつ、ローエンもクロスボウで応戦した。


魔物の大群の一番後ろには、下水道の高い天井に付きそうな程の大きな角を持つ、アホのようにでかい鹿型の魔物がいる。


多分、あれが群れのボスなのだろうか。





「鳥型のクソ魔物は俺に任せろ! アンナはでけえのを頼む!」


「ああ! 任せたぞ、大体の事はできる男!」




アンナが黒い大弓で猪型の魔物や狼型の魔物をぶっ殺す一方、ローエンはクロスボウを手に、機動力のある鳥型の魔物を見事な反射神経で撃ち落としている。


見事な連携技に感心しつつも、戦いの場面でアンナの隣に立てない自分が悔しいと思う気持ちもある。

しかし、何事も適材適所だと言い聞かせて諦めた。





「おかしいぞ……。下水道にいる筈の魔物がいなくて、西ペルセフォネ地域の魔物がわんさかいるなんて……。西ペルセフォネ地域の下水処理場から入り込んできたんだろうけど……魔物の生態系が崩れたのか……?」





魔物の大群を仕留め終えたアンナは、魔物の達の死体を観察しながら、大きな鹿型の魔物の後ろ足を見て、



「おい。……これ……この傷……」



と重い声を出した。





「アンナ? どうしたの?」





ジュリオがアンナの元へ駆け寄ると、アンナは大きな鹿型の魔物の後ろ足にざっくりと走った酷い傷を指差した。





「……鹿型の魔物みてえに素早い相手に一撃かませる奴なんて、滅多にいない。……しかも、ここまで馬鹿でけえ体に、こんな深い傷を負わせるなんて…………。それに、この傷痕は……まさか」





アンナは顔を曇らせた。





「アナモタズしか、いねえ」


「アナモタズ!? でも、西ペルセフォネ地域の魔物が、慟哭の森にしかいないアナモタズに襲われたっての? ……何でまた」





アナモタズの猟師であるアンナの予想を疑う気は無いが、それでもこの生息地の謎は何を意味するのか。





「ニュースで言ってた、西ペルセフォネ地域の牧場で家畜を食い殺しまくってる謎の魔物は…………アナモタズだったんだ……。じゃあ、コイツら…………アナモタズから逃げてきたのか?」


「でも、ただのアナモタズが何件も牧場を潰せるものなの……? と言うかそもそも、慟哭の森と西ペルセフォネ地域には広い海があるよね? …………あの海を泳いで渡って家畜を食い殺しまくる所業が出来るアナモタズなんて……そんなの……」





ジュリオはアンナとテレビを見ながら話た事を思い出す。



広い海を泳いで渡るだけでも化け物なのに、その上牧場の家畜を根こそぎ食い殺しまくる所業が出来るアナモタズなんて、そんなのは。





「魔王ケサガケ……。西ペルセフォネ地域を荒らしまわってる魔物は…………ケサガケだ」





◇◇◇





ジュリオ一同が、下水道にて西ペルセフォネ地域の魔物が聖ペルセフォネ王国の下水道に逃げ込んできたのを発見した頃である。



ネネカはクラップタウンの自宅にて、ルトリから流してもらった呪い食いに感染した個体のアナモタズの骨を研究していた。 





「う〜ん。……やっぱりサンプルが少ないなあ……。……ケサガケか……それか呪い食いに食い尽くされて死んだ人の遺体があれば良いんですけど」





血も涙もない発言をしたネネカは、ルトリから返してもらったヘアリーの資料を読む。





「『異世界人召喚記録』…………うーん。呪い食いの発生源である『歪の毒』と異世界人が関わっているのはユリエルさんから聞きましたし、…………何かあるかと思いましたが…………。異世界人の名前とチート能力の有無しかありませんね。肝心のチート能力名とその説明は無いもんなあ」





ネネカは、この国に召喚された異世界人の名前欄を見ながら、一番最初の異世界人の名前を見た。





「……花房隼三郎さん……」





ルテミスとカンマリー――――竜一郎と可奈子の親父である花房隼三郎は、この世界に初めて召喚された異世界人である。



だから、当然その名前があるべきだが、知りたいのはそこじゃない。





「呪い食いに感染したアナモタズの硬い皮膚は、一切攻撃が通りませんが…………でも」





ネネカは傍に置いているルテミスの折れた刀を手に取った。

花房家の家紋が刻まれた刀は、ケサガケの子供と戦った時にバッキリと折れてしまっている。





「ルテミスさんの刀と、アンナさんの鯖裂きナイフと、カンマリーさんの刀は、呪い食い個体のアナモタズに刺さったんだよなあ」





これは一体どういう事なのだろうか。



ネネカは悩んだ顔でルテミスの刀のステータスを見てみる……が。





「文字が全部バグってんすよねえ」





本来、異世界人は武器や相手の力を数値化したステータスが見れるものだが、ルテミスの刀は数値がバグっており、何一つ情報がわからなかった。





「アンナさんの鯖裂きナイフもそうでしたし……カンマリーさんの刀も……」





ネネカは腕を組んで酒を飲んだ。


聖ペルセフォネ王国と言うアウェイで戦うジュリオに協力する思いで、ネネカは禁酒を心に誓っていたが、そんな誓いは三日も持たなかった。





「呪い食い個体のアナモタズに刺さった武器の、唯一の共通点は…………花房家の家紋。……花房隼三郎さんが与えた武器……か」





ネネカは酒を飲みつつ、ため息を付く。





「花房隼三郎さんのチート能力は…………一体何だったんだろう……」


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