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155.師との再会

熱い、痛い。いたい。

息が付けない程の痛みに食い殺されるようだ。



ジュリオは自分を抱き支えるルテミスにしがみつき、見開いた目からポロポロと涙を零し息を乱していた。





「嫌だ……いやだ……」





ルテミスは震えた声で、自分を庇ったジュリオが撃たれた事実から目を背けようとしている。





「ルテミスさんが無事って事は、恐らく助骨に当たって弾が止まってるのでしょう! アンナさん、ジュリオさんに当たった弾をほじくり出して下さい! 私が治癒します!」


「わかった。ローエン頼む! 道具!」





アンナの呼びかけに、ローエンはすぐ弾をほじくり出す道具を出した。





「ジュリオに噛ませる布……どうする? ルトリさんに噛ませたタオルはボロボロになっちまったぞ」





ローエンの言葉に、アンナが



「それじゃ、あたしの上着を噛ませる」



と言うが、正直今のジュリオは酷い痛みのせいで頭や体を動かしたくない。



地面に座り込んだルテミスの膝に乗り、抱き支えられる姿勢のジュリオの目の前にあるのは、ルテミスの肩である。



喋る気力の無いジュリオは、これから襲いかかるであろう、体内にぶち当たった弾をほじくり出す地獄の痛みで舌を噛まない為、ルテミスの肩を噛もうとする。


しかし、上着が厚く甘噛みのようになってしまった。





「ルテミスさん! 上着脱いで! ジュリオさんに噛まれた肩は多分血が滲むと思いますが、後で治します!」


「あ、ああ! わかった!」





ルテミスはすぐに上着をおろし、薄いシャツを着た肩を出す。





「痛っ……」





ジュリオに噛まれ、ルテミスが痛みを我慢した様な声を出した。





「悪いジュリオ……すまん……後で何でもするから許してくれ……」





アンナはジュリオの頭を撫でながら、ジュリオの背中の傷口に聖水をぶっかけた。





「っぅぅッ!! ……ふ、ぅぅッ!」





あまりの痛みと熱さでわけがわからなくなりそうだ。


ルテミスの肩に噛み付き必死に痛みを堪えるが、それでも耐えられず、ルテミスの背に回した手にも力がこもる。

爪を立て背を抉るようにして、なんとか痛みを逃がそうと本能が動いた。





「……痛ッつぅ…………」





ルテミスはジュリオに肩を噛まれ背中に爪を立てられ、必死に痛みを堪えているようだ。





「ジュリオ……行くぞ……」





アンナはローエンから新しいナイフを借りて、それを火で炙った。



そして。





「ぅぅうッ! ぐ……ッぅ! ぅぁぁぁあぁあッ!」





背中が熱い。痛い。いたいいたいいたい。



あまりの痛みで寧ろ頭がぼーっとしてきた。

ふわふわと眠気の様な感覚に襲われ、そのまま堕ちてしまいそうになる。





「取れた……ネネカさん! 頼む!」


「はい! すみませんローエンさん! ナイフ貸してください! チート能力発動させますんで!」





ネネカが何やら回復魔法を唱えている。


その瞬間、気絶しそうな痛みは消えていったが、それでもまだ焼け付く痛みは残っていた。





「ごめんなさい……腕と目を無くしてから……回復魔法が上手く扱えなくて……。手の平切ってチート能力の『自罰』を発動させたから、取り敢えず、傷付いた体の修復は済んでます。……でもヒビの入った骨や傷跡は……治せなくて……」





ネネカは悔しそうな声を出す。





「はぁーっ……ぁ、あ…………ぅ」





気絶しそうな痛みが和らぎ、ジュリオは噛み付いていたルテミスの肩から唇を離した。噛んだ傷口から血の混じった唾液が糸を引く。





「……はぁ…………はっ、ぁ……っ」





ルテミスに抱き支えられながら、ジュリオは呼吸を整える。



取り敢えず、自分は生きている事がわかった。





「大丈夫かジュリオ!!!」


「……アンナ…………ありがと……」


「良かった……よかったぁ…………」





アンナはボロボロと泣き出し、ジュリオを抱き支えるルテミスごと抱きしめて泣き出してしまう。





「兄上…………ごめんなさい……」


「僕も…………ごめん。…………また……ルテミスの気持ちに……気付けなかったね……」





泣き出してしまうルテミスの頬を力の入らない手で撫でながら、ジュリオは弱々しく笑う。



だらりと垂れたジュリオのもう片方の手を、ネネカが両手で握って泣き崩れていた。

手から人肌の温もりと、義手の滑らかな感触が伝わる。





「ごめんなさい……ジュリオさん…………ごめんなさい……」


「泣かないで、ネネカ。……ルテミスの傍にいてくれて……ありがとう……」





ジュリオは、ルテミスの悲しみと怒りに気付けなかったのだ。


その一方で、ネネカはルテミスの抱える復讐心に気付き、それが地獄の道だと知っても傍にいようとしてくれた。



倫理や道徳はどうあれ、ネネカはルテミスの傍にいてくれたのだ。



もう、何も言うまい。





「ジュリオ……お前ほんと根性あるな。偉いよ……流石だ。……よく頑張ったな」





泣きながら無理矢理笑い顔を浮かべているローエンの分厚い手で頭を撫でられ、ジュリオは力無く笑った。





◇◇◇





ジュリオが銃弾に倒れても何とか生き延びた事に一同は安堵したが、今はそんな場合では無い。



フロントは銃を失ったとはいえ魔物使いである。

いつ、アナモタズの大群を呼び寄せられるかわからない。



それに、フロントの跡を追ったルトリが心配だ。





ジュリオはアンナとルテミスに支えられながら、フラフラと起き上がった。





「ルテミスごめん……肩に歯型つけちゃったね……。傷跡残る前に治せたら良いけど……」


「……いえ。いいんです。……いいですから」





ルテミスの肩を治そうにも、ネネカは既に限界を迎えていた。


チート性能のジュリオも、銃で撃たれた事により回復魔法を使用する気力が出ない。





「ごめんね……」


「…………俺こそ、申し訳ありませんでした……」





ルテミスは泣き痕の残る顔を歪ませ、涙を堪える様な顔をする。



そんな弟をジュリオはゆっくりと抱きしめ、



「もういいから。……大丈夫だよ」



と優しく語りかけた。



すると、ルテミスから物凄く強い力で抱き返されてしまい、ジュリオは



「痛い痛い痛い痛い痛い痛い背中! 背中! 僕背中に一発食らったばかり! 痛い痛い痛い」



と絶叫した。





「すみません! あの、俺」


「……はあ。………さっきアンナも言ってたけど、ルテミスとネネカは後で僕の言う事何でも聞いてもらうからね? 誰のせいで背中に穴空いたと思ってんのさ」





ジュリオはわざと我儘を言って、ルテミスの額を指で弾いた。





「大変だぞルテミスさん。このバカ王子、何させてくるかわかりゃしねえからな」





アンナは泣き痕の残る顔でいつものように笑う。

こうしていつも通りに笑ってくれるのはありがたい。



ジュリオはだんだんと元気を取り戻しつつあった。



そんな時である。





「フロントが捨ててったこの銃……。俺がカツラギ先生から見せてもらったヤツだ……」





地面にしゃがみ込んで、フロントが捨てた銃と装填用の弾を一発拾い上げたローエンは、驚いた様な声で呟いた。





「でも……こんな彫り物……あったっけ……? これ、アディル……って、書いてある……」





拾った銃を観察するローエンの元に、ネネカが寄って来て



「アディルさんの名前ですか……? ヘアリーさんの親父さんで、カツラギ先生と友達だった……あの人……ですよね。……何で……そんな人の名前が銃に?」



と疑問を口にする。





「ところでさ……なんか……さっきから寒いね……」





ジュリオは、寒さに体を震わせた。


もしかしたら銃で撃たれたせいで、血が減ったからかと思ったが、どうやらアンナもルテミスも同意見なようだ。





「ルトリさんの後を追わなきゃ。……この寒さ……もしかしたらルトリさんの氷魔法じゃないかな……」





ジュリオの言葉に、一同はルトリを追い始める。



その最後尾を行くローエンは、フロントが捨てた銃と弾を拾って道具箱に入れた後、駆け足でジュリオ達の後を追った。





◇◇◇





「アナモタズが……氷漬けになってる……。何でこんな」





ジュリオはアンナとルテミスに支えられながら歩いている途中、氷漬けのアナモタズが石像のように何体も並んでいる光景を目にし、恐怖の滲んだ声で呟く。





「多分……フロントが呼び寄せたアナモタズを片っ端から氷漬けにしたんだろ……。銃とアナモタズを封じれば、氷魔法を扱えるルトリの方が強えからな」





アンナはジュリオを支えながら、静かな声で答えてくれる。





そんな時だ。

遠くからルトリの話し声が聞こえ、ジュリオ達は声が聞こえる方へと進んで行く。



そして、ルトリの声が聞こえた部屋へと辿り着くと……そこには。





「全てを話せ。メティシフェル。アディルとヘアリーを何故殺したんだ」





大きな氷柱に貼り付けにされたフロントと、そんなフロントに手をかざして氷魔法を制御しているであろうルトリと……。





「カツラギ先生…………」





ローエンが泣きそうな声で、大きく長い銃の仲間のような武器をフロントの頭に向けている恩師の名を呼んだ。


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