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146.救い救われ生きるのさ!

「ルトリさんがカトレアさんの監視……? しかも、ルトリさんの上司はランダー国王の密偵……? あの、……カトレアさん。すみません。もう頭が崩壊しそうです……」





ジュリオ一同は、カトレアからルトリの正体聞かされ『マジかよ』となっていた。


あの朗らかなで明るい役所のお姉さんが、まさかそんなである。





「順を追って説明するよ。……まあ、頑張ってついて来てくれるかな?」





カトレアは二本目のタバコを吸いながら、ジュリオ達にルトリとの関係を聞かせてくれたのだった。





◇◇◇





「ほらアタシ、反逆の黒魔女とか呼ばれて国から追放されてるじゃん。そんなアタシを国が野放しにするわけないっしょ〜アハハ」





カトレアのヘラヘラとした言い分に、『そりゃそうだろうよ』とジュリオは思う。


実際、ジュリオだってルテミスから追放をされたが、その裏でルテミスはカンマリーを護衛付かせていたのだ。



ジュリオはバカ王子であり、国王ランダーからは毛ほどに関心も持たれていないが、カトレアとなると話は別だろう。


だって、反逆の黒魔女だし。



そんな事をジュリオは考えた。


そして、そこまで考えて『はて?』と思った。





カトレアさんは反逆の黒魔女って呼ばれてるけど、じゃあ具体的に何をしたんだろう? と。





「クラップタウンに追放されたアタシを監視して、場合によっては保護するために、国王陛下は密偵を使ってたんだよ……もう、数十年前になるかなあ。……だけど、十年前ね、その密偵が弟子を連れてきたんだ。……それがルトリちゃんだよ。……いや〜一目見て『やだっ! 何この子可愛いな〜』ってなったよ」


「それは俺もわかるぜ婆さん。ルトリさんを初めて見た時……俺は妖精の存在を信じたよ」


「だよね〜。いや〜歳取ってくるとさあ。もう若い子見たらみんな『アタシが生んだ子!』みたいに思えて可愛くてしゃ〜ないんだよねえ」





カトレアとローエンはヘラヘラと笑い合っている。



しかし、そんな脳天気な雰囲気の中、ジュリオは一つ疑問が生じていた。





「あの、すみませんカトレアさん……。カトレアさんには国王の密偵が付いていたんですよね? それなら……何で国王に無理矢理誘拐なんてされたんです」


「それがさあ、アタシも気になって聞いてみたんだけど、連絡付かないんだって。……ほら、ジュリオくんとアンナに大富豪のハーフエルフを食い殺したアナモタズの駆除を頼んだでしょ? あの時からさ」


「連絡が付かないって……職務放棄ですか……?」


「かもね〜。ま、わかんないけど」





カトレアはタバコを吸いながら能天気に話している。



ここで気になってくるのは、じゃあルトリの上司は誰なんだよ問題だ。



今、ルトリはヨラバー・タイジュ新聞社によって、大富豪ハーフエルフ殺害の容疑者として指名手配されている状態である。



大事な弟子がそんな事になっているのだ。その師匠たる方は一体何をしているのか。





「すみませんカトレアさん……。ルトリさんのお師匠様って……一体だれなんです?」


「えっとね、チヨダさん……だったっけ? それならローエンが詳しい筈だよ」


「は!?」


「え!? 俺!?」





カトレアからとんでもない事実を告げられ、ローエンは目を丸くしている。





「キミに便利屋としての技術を叩き込んだのは、チヨダさんだよ」


「マジかよ……。先生、俺にはカツラギって名乗ってたのに……」


「ローエン気にすんな。あたしもハヤブサ先生の本名つい最近知ったから」


「クラップタウンあるあるだよなあ」





先生の本名つい最近知った組のアンナとローエンは寂しそうに肩を落とした。





「チヨダさん、ルトリちゃんにアタシの任務交替した後、クラップタウンを出てどこかに行っちゃったんだよ。……だから、アタシは良くわからないんだよね」


「俺もだ婆さん。……チヨダさん……いや、カツラギ先生の居場所は、さすがの俺でもわからねえ」




ローエンでもお手上げとなると、チヨダさんとやらの居場所はジュリオ一同にわかるわけもないだろう。



だが、ルトリとローエンの先生が、カトレアの監視をしていた国王の密偵……と言う事だけわかれば大収穫だ。



しかも、そんなチヨダさんとやらは、ジュリオとアンナが大富豪ハーフエルフを食い殺したアナモタズの駆除をした日に消えてしまい、国王とも連絡が付かない状況である。


一体、何が起こっているのか。





「アタシが話せるのはここまでだよ……。だから、ルトリちゃんを……頼めるかな……。あの子とはもう十年の付き合いでさ。……ルトリちゃんにも散々『国王の密偵の助手なんかやめな。カタギに戻れ』って言ってたんだけど……ルトリちゃん……『実家を追放されて、野垂れ死ぬだけの運命だった私に、手を差し伸べてくれた先生の傍を離れる気はありません』って……」


「……その気持ち、わかります」





ジュリオと言う追放されたバカ王子は、野垂れ死に確定だった自分に手を差し伸べてくれたアンナを見た。



アンナは『何であたしを見てんの?』と疑問に思っているようだが、ジュリオからしたら、アンナは命の恩人であるのと同時に、生きる道を示してくれた相手である。



そんな相手がルトリにもいたんだなあ、とジュリオはルトリに親しみを覚えた。



だが、しかし。





「すみませんジュリオさん……。口挟んで悪いんすけど、ジュリオさんはルトリさんの問題に足を踏み入れる程、ルトリさんと親しいんですか?」





ネネカがジュリオへ鋭い視線を向けて来た。



ジュリオはネネカの冷たい発言に戸惑ってしまう。




 

「ルトリさんの問題……これはかなりヤバイと思います。……正直、カタギのジュリオさんが足突っ込んでいいレベルとは思えません。……それ相応の覚悟はお有りですか? ジュリオさんは警察でも名探偵でもない……ただのヒーラーですよ。……そこんとこ、どうお考えですか」





ネネカはジュリオに『どういう覚悟でルトリの激ヤバイ案件に首を突っ込むのか』と聞いているのだろう。


確かに、ただ『ルトリさんが心配だから』と慌てて足を突っ込むのは危険すぎる事態だ。



だけど。





「……そうだね……。確かに……僕はルトリさんと家族みたいに親しいわけじゃない。ただの友人だよ。……だけど、だからって、ルトリさんが翌朝アナモタズに食い殺された遺体で発見されても平気か? って言われたらそうじゃない。……それに、今、ルトリさんはどこかで怪我をしてるかもしれない。もしかしたら、これから先酷い怪我を負うかもしれない。そんな時に、僕は友達を助けられるヒーラーでありたいと思うから」





ジュリオは素直に自分の気持ちを口にする。



城でバカ王子をしていた頃には考えられない発言だと、自分で驚いた。

もし、あの頃の自分だったなら、『僕がそんな危険な事件に足突っ込んで何になるのさ! みんなの足引っ張るだけでしょ』と言うだろう。


それもそれで正しい判断だ。



しかし、足手まといになる覚悟を持った上で、ヒーラーとしてこの件に関わると自信を持って言えるのは、やはり今まで酷い修羅場をヒーラーとして潜り抜けてきたと言う自負があるからだ。





「ごめんみんな……足引っ張るよ」


「あんたに引っ張られるほどあたしの足腰は弱くねえよ。……それに、あたしらがもし死ぬほどの怪我負わされても、ジュリオがいりゃ安心だ。……あんたの事はあたしが守ってやるから、あたしが怪我をしたら守ってくれよ。……ジュリオ」





アンナはジュリオの背中を優しく叩いて、いつものニヒルな笑顔を浮かべていた。



ローエンもルテミスもネネカも、いつもの様にふてぶてしい様子である。





「ジュリオ……私はどうしたら良いかな……」





傍にいたマリーリカは、不安げにジュリオの服の裾を掴んでくる。



魔法氷の魔力の質を調べてもらった後、マリーリカも一緒について来てくれたのだが、彼女もあくまで一般人だ。





「マリーリカは……ここでカトレアさんと一緒に待機してくれる? もしかしたら、ルトリさんが帰って来るかも知れないし、それに……カトレアさんの護衛も頼みたいんだ」





マリーリカはSSRランクの冒険者パーティに属せる程の腕の良い魔法使いだが、相手は魔物でなく無実の相手を指名手配して追い詰めてくる手段を選ばない『人』である。


場合によっては、ルトリがジュリオを殴って気絶させた以上の事をしてくるだろう。



そんなヤバイ相手の前に、マリーリカを出せなかった。

それに、ただでさえジュリオと言う足手まといがいる状態で、守る対象を増やすと言うのは良い手には思えなかった。





「……わかった。……何かあったらすぐに連絡するね」


「……ありがとう」





ジュリオとマリーリカは握手をした後、これからの行動をみんなで話し合った。



ルトリの逃亡先もルトリの先生であるチヨダさんの場所も何もわからない今、出来る事はただ一つだろう。






「大富豪ハーフエルフの事件の被害者について調べよう。……大富豪ハーフエルフの遺体を食べたアナモタズは、僕とアンナで駆除したから、役所に行けば資料ぐらい見せてくれるんじゃないかな」





ジュリオがそう発言すると、アンナは気まずそうに意見を出してくれた。

 




「悪いんだけどさ……今、その担当のルトリが突然抜けて役所もゴタゴタしてると思うんだよ……。そんな中で、あたしらの対応をしてくれるかどうか……」


「そっか……そうだよね……。それなら……何か他に……」





ジュリオはアホなりに頑張って考えた。



大富豪のハーフエルフは、狩り中にアナモタズに食い殺されたと言う。


大富豪が慟哭の森で狩りをするのは珍しくは無い。バカ王子時代にも、ジュリオの気を引く為に狩りをして大物を獲ったと自慢する大富豪がいたのだ。

しかし、ジュリオを始めとするペルセフォネ人貴族や王族は狩り行為を酷く嫌って蔑んでいたため、そんなアピールは逆効果であったが。






「狩りをしてる大富豪ってさ……狩場の近くにバカでかい別荘を建ててたよね……。そんな奴腐るほど見てきたし」


「……いましたね。所有している別荘の件数でこちらと張り合おうとしてくる大富豪は……履いて捨てるほどいましたから」





ジュリオの言葉にルテミスが続く。


ルテミスの言葉通り、王族や貴族ではない大富豪達は、王族の血筋や爵位が無いためそれらを持つ連中にやたらと対抗意識を抱いていた。



だから、ジュリオもルテミスも、そんな面倒くさいアホ金持ちにはうんざりしたものである。





「大富豪ハーフエルフの別荘に行ってみよう。……何も無いかもしれないけど……それでも」


「まあ、何もなけりゃ今度はその金持ちの家の窓ガラス割って入りゃ良いだろ」


「アンナ……玄関って知ってる?」





どうしてこの女は窓ガラスをぶち割って侵入する事しか頭に無いのか。



ジュリオはアウトローなアンナにやや呆れた視線を投げた。


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