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144.御社御社でキチョハナカンシャ〜!

ルテミス視点のお話です。

ジュリオ達が、ルトリが大富豪のハーフエルフ殺人の容疑者として、新聞で指名手配をされた事を知る前、まだローエンの自宅でダラダラしていた頃である。



ルテミス達はフォーネ国にあるチャンネル・マユツバーのテレビ局に変装して侵入していた。


二人とも黒いスーツと地味なウイッグを被り、その姿はまさに就活生である。

 


就活生に化けた二人は、テレビ局内にある企業説明会の会場にて、隣同士に座って小声で会話をしていた。





「チャンネル・マユツバーの企業説明会か……。ちょっと見ない間にお偉い企業になったもんだ」


「そのおかげで就活生になりすまして侵入が出来ましたからねえ……。これで無事にヒナシの元にたどり着けると良いのですが」





ルテミスとネネカの目的は、

『ヨラバー・タイジュ新聞社にて、アディル――ヘアリーの父が編集長をしていた時代のデザイナーだったヒナシに、その当時の話を聞こう!』

と言うものである。



ジュリオ達と別行動を取ったのも、チャンネル・マユツバーの企業説明会の日程が被っていたからだ。



ローエンの家で宅飲みをした日。


『呪い食いへのヒントを得るためにヘアリーの家で調査をするジュリオチーム』と、


『ヘアリーとカンマリーがアナモタズに食い殺された事故の調査とルトリの正体を探るルテミスチーム』に別れたのだが……。



ジュリオ達に『ヘアリーとカンマリーの事故は誰かに仕組まれた可能性がある』と言っても、口では『そっか……』と肯定してくれたが、顔は『そんなドラマみたいな事現実に起こるの?』と言うポカーンとした顔をしていた。



確かに、ルテミス自身、自分がとんでもない事を言っている気はするが、だからと言ってこの仮説が間違っているとは思い難い。



ルテミスは、今までわかってきた事実を思い出す。



『ヘアリーの手紙には、これを読む頃には私は死んでいるだろうし、しかも父親と同じ死因かもしれないと言うメッセージがあった』


『実際に、ヘアリーとその父アディルは、アナモタズに食い殺されると言う同じ事故で死んでいる』


『アディルが殺されてすぐ、フロントがヨラバー・タイジュの新聞社に天下った。その時に、ヒナシもヨラバー・タイジュのデザイナーを辞めている』


『アンナ曰く、フロントはタバコで常にアナモタズのメスのフェロモンを身に着けており、そんな事をするのは魔物使い位しかいないと言う』


そして。





「可奈子だけは……アナモタズに食い殺されなかった……。これは色々と考えてみたが、……恐らく俺への牽制だろう。……俺達を常に見張っているぞ、とでも言いたいのか知らねえけど」


「おかしいっすもんね。だって……ヘアリーさんや、異世界人の勇者の男の子も食われてるのに、カンマリーさんだけ食われてないってのは……」


「ああ。俺への警告で、可奈子の死体だけ食わせずに、わざと損壊させた……って言う仮説を立てると、全てに納得が行くんだよな」





ルテミスへの警告のために、カンマリー――可奈子を酷たらしく損壊させる……そんな事が出来るのは、アナモタズを操れる奴だけだろう。



そして、ルテミスとカンマリーが、実は本当の兄妹である事を知る事ができる人物だ。





「この仮説だと…………犯人はフロントしかいねェ。あれだけ父上と一緒にいるんだ。……俺と可奈子の関係を知っていてもおかしくはない」





ルテミスは、フロントの大人なのか子供なのかわからない、不気味な愛嬌を持った小柄な男の顔を思い出した。


まだルテミスとネネカが清楚系の王子と聖女の皮を被っていた頃から、やたらとフロントは自分達を付回していたが、それは新聞のネタ探し以外の目的だったのだろう。





「……あのタバコの匂いがアナモタズのメスのフェロモンなんて、私ら異世界人やペルセフォネ人の嗅覚じゃ気付けませんよ……。しかも、数少ないアナモタズ猟師ぐらいしか、アナモタズのメスのフェロモンの匂いなんてわからないですし。…………正直、ルテミスさんからメッセージ貰って腰抜かすかと思いましたよ」


「だよなあ……。俺もメッセージ打つ手が震えたよ……。ったく……前から嫌な匂いのタバコだとは思ってたが……」





ルテミスが知るフロントは、常に父の側近であった。


性格のクソ悪いエレシス家からは、フロントはランダーのお慰みの相手なのか? と影で嘲笑されていたが、そう勘違いしても不思議ではないほど、あの二人は常に一緒にいたのだ。



そして、慇懃無礼にルテミスやネネカに接してくるくせに、その目は少しも笑っていなかったのを思い出す。





「だが……問題は……」


「あくまで私らの仮説に過ぎないって事っすよね。……証拠も何もねえし、動機はよくわからないし。目的地はわかっているけど、どうやってフロントにたどり着けば良いのかわからない……」


「動機なァ……ヨラバー・タイジュ新聞社の編集長になりたいなら、前任を殺さなくても父上の権力使えば一発だし……。やっぱり、呪い食いの事を掴んだから……だろうか」





呪い食いの情報を掴んだアディルとヘアリーをアナモタズに食い殺させる……と言うのは、筋が通っているようだが、どうにも納得が出来ない。





「兄上達がヘアリーさんの事務所から、何か見つけてくれりゃ良いんだが……」


「事件とフロントを結びつける証拠が出てくりゃ良いんすけどねえ」





ルテミスとネネカは、二人とも苦い顔をしてスマホを見ようとしたが、もうすぐ企業説明会が始まるので、スマホの電源を切ったのだった。





◇◇◇





企業説明会が終わり、就活生の質問時間がやって来た。



その質問を受けるのはチャンネル・マユツバーの創始者であり、名物プロデューサー兼コメンテーター兼タレントのヒナシである。



だからこそ、就活生の熱気は凄まじいものだった。



ヒナシが「質問ある人ー?」と声をかけると、就活生達は元気よく手を上げる。


就活生の人種は異世界人もいればペルセフォネ人もいた。

若いペルセフォネ人からしたら、異世界人への差別意識よりも物珍しさや新しい文化への憧れの方が勝っているのだろう。





「それじゃ〜そこの青い髪の元気なキミ!! どうぞ〜っ!」





ヒナシに当てられた青い髪の就活生は、見るからに喜んだ顔をして、ハキハキと喋りだした。





「本日は貴重なお話をありがとうございます! 御社は異世界人企業でありながら、異世界人もペルセフォネ人も幅広く採用されており、とても多様性に満ちた素晴らしい企業だと存じております!」


「そだね〜ありがと!」


「中でも、貴族の家を追放された悪役令嬢と呼ばれる方や悪役貴族なんて呼ばれる方を積極的に採用している……と噂されておりますが、その点に付いて教えて下さい!」





青い髪の就活生は、緊張した顔で席についた。





「そうだよ〜。貴族社会に利用されて捨てられた悪役貴族や悪役令嬢の子たちは積極的にスカウトしてるかな。だって、その子達はそのままじゃお金が稼げなくて飢えて死んじゃうでしょ? 悪役……なんて呼ばれてるけど、実際は濡れ衣着せられて家を追い出されたに過ぎないんだよね。……だから」





ヒナシはわざとらしく悲しそうな顔をして、言葉を続けた。






「例え忌み嫌われる氷魔法の使い手だろうが、追放されたバカ王子や清楚な顔したヤリチンクズ王子だろうが、ボクは行き場の無い人には手を差し伸べたいんだ! だって、ボクはこの世界が好きだから! 召喚されたボクをありのままで受け入れてくれたこの世界を愛してるから!」





ヒナシの演説後、凄まじい拍手とすすり泣く声が聞こえた。



その一方で、ルテミスとネネカは冷たい目をしていたのだった。






「あのクソジジイ嘘ばっか付きやがって……。やっぱりケツ犯して殺す」


「それなら取り敢えず、意識だけは残る麻痺剤とダクトテープを探しに行きます〜?」


「……俺の発言で瞬時にその道具類が出てくるお前は一体何なんだよ……」





ルテミスは恐怖と侮蔑を含んだ目でネネカを見た。





「冗談っすよ冗談。……つーかルテミスさん、聞きたいんすけど」


「冗談で流せねえよお前の反社会性……」


「まあまあ。流し流され生きていくのが人生っすよ。…………じゃなくて、私が聞きたいのは、『氷魔法の使い手』って事っす。忌み嫌われるって何でなんすか」


「ああ、そりゃ……氷魔法は主にエルフが使う魔法なんだよ。……ほら、エルフの国のプルトハデスは年中雪国だろ? だから、敵国のプルトハデス国を思わせるってんで、氷魔法の使い手は嫌われるんだよ。……確か……娘に氷魔法の使い手が生まれたせいで、伯爵から男爵まで爵位落ちした貴族も居た筈だぞ」


「へえ〜ペルセフォネ人も大変なんすね。……つーか、そんなヤバそうなエルフ達と戦争して、良く勝ちましたねこの国。女神の涙の大雨がなけりゃ、絶対負けてましたよ」


「だよな。女神の涙がなけりゃ、氷魔法で何千人のペルセフォネ兵士が殺されてた事か……。そのせいか、氷魔法の使い手への印象は死ぬほど悪いんだよな。この国」





ルテミスは苦い顔をしながら、会場を見回した。


会場には異世界人もペルセフォネ人も混在しており、もしかしたら中には悪役令嬢や悪役貴族もいるかもしれないと思う。





「もしかしたら……チャンネル・マユツバーの社員の中にいるかもな……氷魔法が扱える悪役令嬢が」





ルテミスとネネカはその後もヒソヒソと会話を続けたが、隣に座る真面目そうな就活生に怒られてしまい、二人揃って謝罪した。



そんなこんなで説明会が終ったあと、二人は就活生の列を抜けて、それぞれ男子トイレと女子トイレに入る。



そして、再び出て来た二人の姿は。





「フォーネ運送の制服まで用意できるとか、マジでローエンって何もん何だアイツ」


「この前、ルテミスさん達がカトレアさん救出のために密入国してた時、ローエンさんと一緒に図書館デートしたんすよ。……そん時聞いたんすけど、ローエンさんは全ての事が出来る異世界人のおじ様に、便利屋としての術を習ったそうですよ。そのおじ様が作るおでんは美味しかったそうです。……今どうしてるかは知らないらしいですけど」


「そうか…………つーかネネカ! お前アレと図書館デートって聞いてねえぞ!」


「何で私の交友関係いちいちルテミスさんに報告しなきゃならないんです? いくら叔父とはいえ私は二十五で貴方は十七ですよ? 年齢的には私の方が上なんで、叔父面されても困ります!」


「年齢的は関係ねえ。俺はお前を守る」


「はいはい。わーかりましたよう」





ネネカの叔父面をしたルテミスと、そんな年下の叔父に『やれやれ』と言う顔するネネカは、フォーネ運送の業者の制服を着ていた。



テレビ局には業者さんが毎日ひっきりなしにいるため、一番怪しまれない格好である。





「それじゃ、ヒナシを探しに行きますよ? ……竜一郎叔父さん」


「ああ。俺の傍離れるなよ? 香弥子」





二人はそれぞれ本名で呼び合うと、グータッチをしてヒナシの元へと向かった。



そんな風にカッコよくキメた二人のスマホには、リスジャーナ事務所で金庫の中身をパクられ途方に暮れているジュリオからの鬼電が入っているのだが、スマホの電源を切ったままにしている二人はその鬼電に気づく事は無かったのだった……。


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