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142.解明!新聞記者のラブレター!

ローエンの家で宅飲みをした翌日、ジュリオとアンナとローエンは、フォーネ国の高級地区にある、ヘアリー親子のリスジャーナ事務所の玄関口にて、それぞれ見張り作業とピッキング作業に集中していた。





「おい、開いたぞ」


「はっや! さすがローエン……大体の事はできる男……」





ジュリオはローエンの手際の良さに若干の不気味さを覚えつつ、恐る恐るリスジャーナ事務所へ侵入した。





◇◇◇





高級な地域に見合う広々としたリスジャーナ事務所に侵入したジュリオ一同は、ヘアリーが遺したややこしい遺書を再確認する。



『ジュリオさんへ。


はわわっ♡ ラブレターなんて恥ずかしいですぅ♡


ヘアリーってば、慟哭の森に行くのが怖くなっちゃって、勇気を出してえいえいおー! するために、ジュリオさんへラブレターを書きました♡



ジュリオさん♡


もし、ヘアリーに会いたくなったら、まずはヘアリーのお父さんに会ってくださいね♡


お父さんならきっと、ジュリオさんの道標になってくれる筈です♡ 


ジュリオさんもお父さんを見習って、日々をコツコツ生きてくださいね♡ 何事も順番通り、地道にコツコツですよ♡


そうしたら、ヘアリーの心の鍵も開いちゃうかも……♡ なんて、はわわっ♡ 恥ずかしいですぅ♡』



読めば読むほど頭がおかしくなりそうな文章だが、この手紙を解読するには、



『この手紙を貴方が読む頃、私は父と同じ死因で死んでいるかも知れません』



と言うヘアリーの隠れた真意を念頭に置かねばならない。





「ええっと……まだ謎なのは『まずはヘアリーのお父さんに会ってくださいね♡


お父さんならきっと、ジュリオさんの道標になってくれる筈です♡ 


ジュリオさんもお父さんを見習って、日々をコツコツ生きてくださいね♡ 何事も順番通り、地道にコツコツですよ♡


そうしたら、ヘアリーの心の鍵も開いちゃうかも……♡』って言う後半部分だよね……? 音読するだけでも余計にバカになりそうだけど……でも」





ここまで来たら、もう引き下がれない。



呪い食いにかかった兵士の治癒も出来ず、兵士の家族が呪い食いに感染する可能性も捨てきれない今、やれる事はやろうと思った。





「取り敢えず、部屋ん中物色してみようぜ」





アンナの言葉で、ジュリオ一同はリスジャーナ事務所の物色を始めたのだった。





◇◇◇





「何かあったか?」


「ううん。……何も」





ジュリオは本棚を、アンナはヘアリーとアディルの机周りを、ローエンは床や壁に隠し扉のスイッチが無いか、各々調査中であった。





「水回りも生活する為の部屋も全部調べたけど……何も無いもんね……」





ジュリオは背の高い本棚を調べながら、途方に暮れた声を出す。  

新聞記者の本棚らしく、小難しそうな本や、ヘアリーとアディルが担当した記事が載っている新聞が大量にしまわれた箱など、書物類がたくさんあった。



しかし、そんな小難しい本棚を調べた所で、アホのジュリオには何のこっちゃである。


救いを求めてヘアリーの手紙を読み返しても、『私に会いたきゃお父さんに会え』と言う文で躓いてしまい、ジュリオはうーんと悩んでしまう。





「お父さんに会え……かあ。……んな事言われてもなあ。死者を蘇らせる事が出来るのは女神くらいだし……」





ジュリオがそうボヤいた後『もしかして女神が関係しているのでは!?』と思いついたが、部屋中どこを見回しても女神の『め』の字も無い。


あるのはヘアリーとその親父さんのデスクが二つと、品のいいソファーやテーブルや暖炉などの家具や壁紙や絨毯と、二階へ上がる階段に面した壁を覆うようにそびえ立つアホでかい本棚達である。



そんな本棚は埃が溜まっており、本を取るたびに埃が舞ってゲホゲホとなってしまう。





「けほっ……埃が……っ! ……それにしても凄い本だなあ。さすがは新聞記者……。アナモタズに関する本もたくさんある」


「え、マジか!」


「うん。こっちこっち」





ジュリオの言葉で、アンナはトコトコと寄ってくるとアナモタズに関する大量の本に目を輝かせている。


しかし、小柄なアンナでは壁の様な本棚に手が届かず、ジュリオが代わりに本を取った。





「ありがとう」





アンナはジュリオに礼を言うと、アナモタズの本に夢中になってしまう。



『図書館に来たわけじゃないんだけどなあ』と思うが、アンナは名探偵では無くただの猟師だ。



それに、ローエンもいつの間にか



「このデスクの仕上げの塗装は聖ペルセフォネ王国の最高級家具屋のモノだ……。美しいぜ……」



とデスクの脚の滑らかな曲線に夢中になっている。



まさに、駄目だこりゃ! である。





「あれ……そう言えば……埃」





ジュリオは本に夢中のアンナを見て気付いた。



本棚から本を抜き取る際、今まで大量の埃が顔にかかってゲホゲホになっていたが、アンナに本を取った時は何もなかった。





「……ヘアリーに会いたければ、お父さんに会え…………まさか」





ヘアリーの父――アディル・リスジャーナは、魔物の生態に詳しく、SSRランクの魔物使い以上の知識を持っていたとヘアリーから聞いている。



そんな父に会えとヘアリーが言うのなら。まさか。





「アンナごめん! その本の著者さん、一体誰!?」


「え……ああ……あ!? アディル・リスジャーナ……って」


「ありがとう!」





ジュリオはアンナに取って渡したアナモタズの本がある一段を調べた。


アナモタズやその他魔物に関する書物は全て著者が『アディル・リスジャーナ』となっており、この一段だけ埃が詰まっていない。



周りと比べて埃が無いということは、最近誰かがこの一段だけ掃除をしたか本を動かしたか、である。



ジュリオはアディル・リスジャーナが書いた魔物の本を床に丁寧に置きつつ、空になった一段を見た。


そして。





「何だろう、このスイッチ……」





本棚の一段だけ背の板がなく、部屋の壁紙が剥き出しになっていた。

その壁に凹んだ部分があり、その中にスイッチがある。



ジュリオはそのスイッチを押してみた。


すると。





「うわわわわ!」





その本棚がゆっくりと横にスライドしたではないか!





「本棚の隠し扉か……随分とベタな仕掛けだな」





高級な机に夢中になっていたローエンは、興味深そうにジュリオの元へやってくる。



アンナも『マジかよ』と言いたげな顔で、スライドした本棚を見ていた。



そして、スライドした本棚の向こうに隠れていたのは。





「何……この金庫……」


「まーたこりゃベタな事を」





ジュリオ達の前に姿を表したのは、壁に埋め込まれた頑丈そうな金庫だった。





◇◇◇





「駄目だ……。ベタな登場をしたこの金庫、無理矢理こじ開けたり、適当な数字を打ち込んだりすると、中身を燃やし尽くす魔法の仕掛けがされてある」





工具や良くわからない計測器を持ったローエンが、ゴーグルを外して『お手上げだぜ』と言う顔をした。





「ローエンでも駄目?」


「残念ながら……」





ジュリオは『ローエンでも駄目ならもう無理じゃね?』と思った。



そんな時である。


ヘアリーの手紙を読んでいたアンナが、



「なあ、この『ヘアリーの心の鍵も開いちゃうかも』の鍵って……金庫の事じゃね?」



と提案して来たのだ。





「あ……確かに……」





言われてみりゃ、確かにそうだと思う。



ヘアリーの手紙の通りの行動を取ったら、この金庫にたどり着いたのだ。


だから、手紙の最後に書かれた一文である『ヘアリーの心の鍵も開いちゃうかも』は、この金庫を差していると考えても不自然では無い。





「ヘアリーの手紙に……何かヒントが」





ジュリオはアンナからヘアリーの手紙を受け取ると、まだ解読していない文面をもう一度読み込んだ。



『お父さんならきっと、ジュリオさんの道標になってくれる筈です♡ 


ジュリオさんもお父さんを見習って、日々をコツコツ生きてくださいね♡ 何事も順番通り、地道にコツコツですよ♡』





「お父さんは道標になる。……お父さんを見習って、日々をコツコツ……順番通り……。…………って事は、アディルさんの何かが金庫の解除番号になってるって事だよね」


「まあ、順番的にそうなるわな」





ジュリオとローエンは、ヘアリーの手紙を覗き込みながら考え込む。



一方、アンナはジュリオとローエンの手元が背丈のせいで見えず、背伸びをしながら



「アディルさんの書いた本に、何かあるかもしんねえぞ」



と苦しそうな声で言った。





◇◇◇





「ごめん……何もねえな」





発言主のアンナは、アディル著の書籍に何もヒントが無い事を謝った。



本を普通に読むだけでなく、ローエンがわけのわからんライトを当てたり粉を振ったりしても駄目だったのだ。



こりゃどうにもならん……とジュリオはヘアリーの手紙を読んだ、その時である。





「お父さんは道標……お父さんを見習って、日々をコツコツ……順番通り……。…………あ」





ジュリオは本棚を調べた時を思い出した。

本棚には小難しそうな本や、ヘアリーとアディルが担当した記事が載っている大量の新聞が詰め込まれた箱があったのだ。



ヘアリーのお父さんは本を出版しているが、その本職は新聞記者である。


そんなお父さんを道標にして見習って、日々をコツコツ、順番通り……。





「アディルさんの新聞……。ああ、そうだ! 新聞だよ……! 新聞は毎日発行されてるから……だから順番通りに見ていけば……」


「新聞記者の親父さんの記事が載ってる新聞……。他に手がかりはねえし、調べる価値はあるぞ」


「量は膨大だが……ま、俺は大体の事はできる男だからな。任せろ」





ジュリオの気付きに、アンナとローエンは賛同してくれる。


自分の意見に賛成してくれると言う事よりも、この二人が自分の判断を信じてくれたのが嬉しかった。





◇◇◇




アディルの名前が文責として載ってるのは、大量の新聞記事の中でも十二冊しか無かった。


最初は『あれ? 少ないな』と思ったが、新聞を調べていくうちに、同じ新聞記者が毎日記事を書くというのはスケジュール的に不可能である上に、仲間の記者の補佐につく場合もあるだろうとわかった。



だから、この十二冊の新聞から、金庫の解除番号を見つけなければならない。


しかも、一回でも間違えたら、金庫の中身は焼き尽くされる恐ろしい仕掛けが施されているのだ。



こりゃどうにもならん! である。





「道標……日々をコツコツ……順番通り……」





ジュリオはアホなりに頑張って考えた。





「わかりやすい答えとして……思いつくのは……。アディルさんの記事が載ってるページか……新聞の『何号』って言う表示だよね……。このどっちかってのは……流石にわからないや……」





新聞の『何号』表記か、ページ数か。


ヘアリーの手紙では、両方の意で捉えることが出来るため、こればっかりはもうどうしようも無い。





「何か……名刺にヒントでも……。……全く……ヘアリーも僕の頭の悪さ舐め過ぎだよ」





ジュリオは自分のバカ王子さを寧ろ誇りながら、ヘアリーが遺した二枚の名刺をペラペラと見た。



名刺には『新聞記者 ヘアリー・リスジャーナ』『新聞記者 アディル・リスジャーナ』と書かれているが、だから何だ? である。






「ヘアリー……何が言いたいの」





こんな事なら普通に金庫番号を書いてくれりゃいいのに、なんでこんな回りくどいことをしやがるのか。



誰かに盗み見られる可能性を考慮して、こんな回りくどいラブレターを装ったのでは? と、ルテミスとネネカと話し合った事を思い出すが、そもそも一体誰が盗み見ると言うのか。





「名刺じゃなくて金庫番号を残しといてよ……」





ジュリオは二枚の名刺を見ながら、『そもそもなんで名刺なんか入れたんだろう』と気になった。





「ねえ……二人とも。なんでヘアリーは名刺を二枚も入れたんだろうね」


「確かに……。リスジャーナ事務所の住所を教えたきゃ、ヘアリーさんか親父さんの名刺一枚で良いはずだしな」


「アンナもそう思うよねえ」





ジュリオはほとんど働かない頭でアンナと話した後、ヘアリーの遺書を再び読み込んだ。





「ただのラブレターだと思ったら、実は新聞記者の遺書なんてさあ……もう勘弁して欲しいよ。何で僕なの? そりゃラブレターなんて死ぬほど貰ってきたけど……」


「……俺お前嫌い」





ジュリオが死ぬほどモテて来た過去を口にすると、ローエンは不貞腐れてしまう。





「いや、ローエンさあ。ラブレターなんて良いもんじゃないよ。……そりゃ、普通に嬉しいものもあれば、中には自分の爪や髪を入れてくるヤバイ子もいたし。……手紙よりも、おまけで入れてきたモノで自己主張する子もかなりいたもん」





最初に爪や髪が入ったラブレターを受け取った際、あまりの主張の強さにビビって失禁しかけたものだ。



だからこそ、ジュリオはラブレターをもらっても、手紙よりも『中に何も入ってないよね!?』と言うビビリ心の方が大きかった。





「……あれ?」





中に……何も……入ってないよね……?




ジュリオはヘアリーの遺書が気になり、もう一度文章に目を通した。



『はわわっ♡ ラブレターなんて恥ずかしいですぅ♡

ヘアリーってば、慟哭の森に行くのが怖くなっちゃって、勇気を出してえいえいおー! するために、ジュリオさんへラブレターを書きました♡』



と、この手紙はラブレターだと二回も書いてある。





「そうだよね……この手紙は遺書なんかじゃない。……『ラブレターとしか、書いてない』……僕達が勝手に遺書と読んでいるだけで、そもそも文面には『ラブレター』としか書かれてないんだ」





解読の頭脳を要する遺書として見れば、最後の金庫の解除番号が『新聞の号数』か『ページ数』で悩む事だろう。



しかし、これあくまでラブレターなのだ。



ヘアリーと言う新聞記者が、ジュリオと言う元王子に託したラブレターである。


そんなラブレターの中には、手紙以外にも贈り物が二枚も入っていたではないか。



ヘアリーとその親父さんの、新聞記者としての二枚の名刺が。





「ローエン、これは博打なんだけどさ。金庫の解除番号、わかったよ。……『新聞の号数』だと思う」


「マジか。じゃあ試してみっか」


「え、そんな軽くで良いの?」





ジュリオは、ラブレターに入れられた二枚の新聞記者の名刺の意図を考えた。


自分だけでなく、父親の新聞記者としての名刺も入れてくるとなると、これはもう『新聞を見て』と主張していると思って良いだろう。


それに、もしページ数が解除番号なら、道標とは書かないだろう。他の書き方をする筈だ。





「僕の考え……間違ってるかもしれないし……」


「二択で行き止まっても仕方ねえし、もし駄目で中身全部燃えても、ルテミスやネネカ様と話し合えば良いだろ?」





ローエンはヘラヘラと笑って、ジュリオの導き出した答えを金庫に打ち込んでいる。



アンナも特に心配した様子も無く、ボケーッとローエンを見ていた。



しかし、ジュリオは今にも緊張で死にそうだった。

自分の考えが間違っていれば、今までの苦労が水の泡である。



どうか……どうか開いてくれ……とジュリオは死にそうな顔で祈った。



すると。





「おい、開いたぞ……やったなジュリオ」





ローエンが振り向き、金庫を指差す。



金庫は無事に開き、中には大量の書物とその上に置かれた手紙が一通入っている。

その手紙の宛名には、ジュリオの名が書いてあった。



ジュリオは金庫が空いた事で緊張感が緩み、ふらりと倒れそうになる。

そんなジュリオを、アンナはすぐに支えてくれた。





◇◇◇





「エルフの健康被害に、異世界人の召喚記録? ……なんじゃこりゃ」


「ハーフエルフ財団に関する資料と……!? マジかよ!!! これ、百年前の戦争の指示書だぞ!? 軍部が全部燃やしたって聞いてたけど……マジで残ってたのかよ」





アンナとローエンが、金庫から出てきた激ヤバな資料を見ながら、それぞれ『何のこっちゃ?』『これマジやべえぞ!』と言う顔をしている間、ジュリオはその資料の上に置かれた手紙を読んでいた。





『ジュリオさん。


良くぞ、ここまで辿り着いてくれました。

誠に感謝申し上げます。


私が託したあのラブレターは、中々のものだったでしょう?


読んでいて腹が立ちませんでしたか? 私は描いてて疲れましたがとても楽しかったです。


そんなラブレターを託してしまって恐れ入ります。


でも、そうでもしないと他の誰かに盗み見られてしまったら、この金庫の存在がバレてしまいますから。


だから、注意して読まないとわからない内容にしたんです。 



そして、あのラブレターの謎を解き、ジュリオさんがこの手紙にたどり着いたということは、私はもう死んでしまっているのでしょう。



恐らく、父と同じ死因だと思われます。



ジュリオさん。こんな事に巻き込んでしまってごめんなさい。


ですが、ジュリオさんがここまでたどり着いたという事は、呪い食いの驚異がすぐそこまで迫っている……事でしょう。


それに、花房隼三郎の名も、私以外から聞いたのかもしれません。



……ジュリオさん。


貴方に、私と父が命懸けで調べた資料を託します。



……今ジュリオさん、『バカ王子の僕にそんなもん託されても』って思ったでしょう?


困った貴方の顔が目に浮かびます。



でも、そんな貴方だから、私は信じる事が出来ました。



貴方は確かにバカ王子と言う評価をされてしまっておりますが、裏を返せばそれは、常識や伝統に縛られない、柔軟さと素直さがあると言う事です。


それに、貴方は王族から追放されています。

何の権威もしがらみも無い貴方なら、きっと自由に動ける事でしょう。


そんな貴方に、私は全てを懸けてみようと思いました。


言わば、博打です。




ジュリオさん。

短い間でしたが、と言うかほんの一夜でしたが、貴方とおでん屋でご飯を食べて、お話が出来て、とても楽しかったです。



まさかあの冒険者パーティで、貴方と会えるなんて想像もしていませんでした。


私があの冒険者パーティにいたのは、カンマリーさんが目的だったのです。


呪い食いを調べるために、王族の方と会話する機会を作るため、私は貴族を誑かしてパーティに何度も同伴していました。


そこで、ルテミス殿下とカンマリーさんの似た雰囲気や、親密な様子を盗み見て、この二人には何かあると察し、カンマリーさんの冒険者パーティに無理矢理転がりこみました。


…………これは余談ですが、ルテミス殿下とカンマリーさん、笑った顔がそっくりですよね。




カンマリーさんを通じて、ルテミス殿下とお会いするのが当初の目的でした。



しかし、カンマリーさんは中々隙を見せず、どうしたら良いか悩んでいる時、私はジュリオさんと出会ったのです。



私は、ジュリオさんに会うまで、貴方のことをただのボンクラなバカ王子だと思っていました。


しかし、実際お会いしてみて、そんな考えは間違っていたと…………新聞記者のくせにデマの記事を信じてしまった事を深く恥じました。



私は、ジュリオさんに会えて良かった。

新聞記者の誇りにかけて、私はそう宣言します。



ジュリオさん、お願いします。



どうか、この国に巣食う呪いの病を打ち破り、国を民をお救い下さい。


私と父が命懸けで調べた事実を、どうか役立ててください。




新聞記者 ヘアリー・リスジャーナ』





まるで、ヘアリーの声が聞こえてくるような、そんな手紙だった。





「僕にラブレターを託した理由……僕が追放されたバカ王子だからって……あまりにもギャンブル過ぎない?」





ジュリオは手紙に向かって軽口を叩きながら、目尻に浮かんだ涙を袖で拭った。



そんな時である。



アンナとローエンが、いきなり崩れ落ちるようにその場に倒れ込んだ。





「え!? 何!? どしたの!?」





ヘアリーからの手紙をポケットにしまい、アンナとローエンの元に駆け寄り、すぐに状況を確認した。



二人はどうやら眠っているようで、死んでないと一安心する。





「でも、何で……急に…………ぅぐッ」





その瞬間、ジュリオは背後から何者かに殴られ気絶してしまった。





◇◇◇





「これ……ブチ切れたアナモタズが二秒で失神する催眠ガスよ? ……さすがジュリちゃん……。……ごめんなさいね」





催眠ガスで失神したアンナとローエンと、そしてそんな催眠ガスでもビクともしないチート耐性持ちのジュリオが倒れた現場を見ながら、ルトリは冷たい表情をしている。

その表情はまさに氷のようだった。



先程ジュリオの後頭部をぶん殴って気絶させた氷の塊を魔法で消すと、ルトリはすぐに金庫の中身をカバンに詰めてしまう。





「ごめんなさいね、ジュリちゃん。死んではいないから安心して。……そういう訓練は受けて来たから」





ルトリは金庫の資料を全てパクると、スマホでどこかに連絡を取っている。





「先生……やっぱり出てくれないの……? 駄目よ……敵討ちなんて……。……先生、お願い。死なないで」





ルトリは焦った顔をして、パクった資料をしまった重そうなカバンを持って、リスジャーナ事務所を後にした。



そんな焦った様子のルトリは気付くことが出来なかった。



ジュリオの後頭部をぶん殴った氷の塊の破片が、ヘアリーのデスクの下に転がっていた事に。






★★★★★


いつもご覧いただき誠にありがとうございます!


実は、一回で良いからランキングというものに乗ってみたい…!と思いまして、

評価ボタンの☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂いたり、ブックマークをして頂いたり、ツイッターで宣伝のお手伝いをして頂けたら嬉しいなあと思いました!



それでは、せっかくへアリーの手紙を解読したのに、ルトリにぶん殴られて気絶させられたジュリオの物語を、引き続きお楽しみ頂けますと嬉しいです!

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