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135.ジュリオ、地獄の野球観戦! 〜後編〜

乱闘騒ぎから二時間後、再びクラップカブスVSペルセフォネソックスの試合が再開された。



ジュリオは「今度こそ乱闘騒ぎが起きませんように」と祈っていたが、そんな祈りはスタジアムの露と消えてしまう。



試合が終盤に差し掛かった頃、再びクラップタウンの地元のアホが暴れ出し、ペルセフォネソックスのアホと乱闘をおっ始めたのだ。


その乱闘の余波はすぐに周囲へと感染し、いつの間にか乱闘騒ぎは大規模なものになってしまう。



何でそーなるの、とジュリオは呆れてしまうが、そんな民度の低いアホ共が怪我をするからこそ、ジュリオはその怪我を治癒して金をもらって飯が食えるのだ。


嫌な循環である。





「本当勘弁して欲しいよ。野球ってそんなに面白い?」





ジュリオは救護班席にて冷めた目でアイスを食べながら、自分の足の間に座らせたアンナに話しかけた。

小柄なアンナは、ジュリオの足の間に座っても、特に邪魔になる事はない。


何でそんな姿勢を取っているかと言うと、アンナは目を離すとすぐに乱闘騒ぎに加わろうとするので、ジュリオと手錠で繋いだからだった。


この手錠は、現在留置所にいるローエンの工具箱からパクったものであるが、肝心の鍵はローエンが持っていたと気付くのは、ジュリオが自分の手首とアンナの手首を繋いだ後である。



アンナはヒナシを殴って留置所に送られたばかりだ。今度問題を起こしたら、いくらハーフエルフの権利団体の加護があるからとは言え、ムショに何年食らうかわからない。





「良いかジュリオ。問題は野球が楽しいか楽しくないかじゃないんだ。……誇りだよ。誇りの問題なんだ」





アンナはジュリオと手錠で繋がれたまま、ユニフォームを押し上げるでかい乳に手を当てて真剣な顔をする。



手錠で手首を繋いでいるせいで、ジュリオはアンナに手を引っ張られてしまい、ややバランスを崩しそうになってしまう。





「クラップタウンの貧民街を舐めんなって、誇りだ」


「普段はクラップタウンを掃き溜めとかクソの町とか言ってるのに、誇りなんてあるの?」


「アレだよ。自分でボロクソに言うのは別に良いけど、他人から言われたら何か腹立つだろ? それが誇りだよ」



  


ジュリオはアンナの話がイマイチ理解できなかったが、『アンナやルテミス達を他人からボロクソに言われたら腹立つもんな』と、ジュリオの前の席でローエンのフリをしながらタバコを吸っているルテミスを見て納得する。



そんなジュリオとアンナに、カトレアが



「乱闘騒ぎも静まったし、アホの怪我人直して金稼ぐよ〜」



と言われ、ジュリオは手錠で繋がったアンナを連れて怪我人の治癒へと向かった。





◇◇◇





怪我人の治癒後、再びジュリオとアンナはボケーッと野球観戦をしていた。



ラセルは怪我人の治癒後、事務所のスタッフを連れてどこかへ消えているので、ローエンのフリをしているルテミスの雰囲気も少し柔らかくなっていた。



このまま平和に今日が終われば……と思っていたら、とうとう試合が終了したらしい。



どうやら、一点差でクラップカブスが負けたようで、ジュリオは一瞬拳を振り上げて『やったぁーー!!! これでこのクソ暑い中働かされずに済むよ!!!』と歓声を上げそうになったが、そんな事をしたらクラップタウンの連中にボコボコにされかねないので我慢した。



ジュリオの足の間に座るアンナは可哀相なくらいにしょげており、小柄な体がいつもより小さく見えた。



一方、カトレアは勝敗などどうでも良さそうな顔で



「さ〜て帰ろ帰ろ」



と日傘をしまい始める。



ローエンのフリをし続けるルテミスも、ビールの売り子を終えたマリーリカから「ねえルテミスさん。いっそこのまま便利屋になってローエンに戦力外通告出してよ」と言われていた。



そんな光景を見ながら、ジュリオは『逮捕者や留置所送りはたくさん出たけど、意外とほのぼのと終わって良かったなあ〜』と、ほのぼの概念がイカれた事を思う。



そんな時である。





『これより、ラセル・アストライア様による、エキシビジョンマッチを開催します!! ペルセフォネソックスと、このスタジアムのスポンサーである、アストライア芸能事務所主催の大イベント!! これは見逃せませんよ!!』





と、会場アナウンスからまさかの大イベントの開始を告げられたのだ。





「は? エキシビジョンマッチ? バカ言わないでよ。こんなクソ暑いとこさっさと帰りたいんだけど」





ジュリオは露骨に嫌そうな顔で文句を垂れた。





『なお、このエキシビジョンマッチでクラップカブス側が勝てば、何と一点が追加されるそうです!』





「マジかよ!?」





アンナを初めとするクラップカブス側は、思わぬ僥倖にテンションがブチ上がっているが、ペルセフォネソックス側はブーイングの嵐である。


そりゃそうだろう。



ラセルも何を考えてんだか……とジュリオは眉をひそめた。



その時だ。





「ペルセフォネソックスのみんな〜! 怒らないで〜! このエキシビジョンマッチに勝てば、面白いモノが見られるからさぁ〜!」




と、スタジアムのど真ん中に現れたラセルが、マイクを片手に愛嬌を振りまいている。


その姿は小娘アイドルよりも可憐で透明感に溢れており、女も男も思いのままに操れるほど美しかった。





「みんな知ってる〜? この会場に『以前』大ブームだったエンジュリオス殿下が来てるんだよ〜!」


「え!?」





その瞬間、会場のテンションはとんでもなくブチ上がってしまう。



ジュリオはいきなり表舞台に引きずり出され、手錠で繋がったままのアンナを引っ張って、救護班席からスタジアムを見下ろせる立ち見席へと走った。





「ラセル……何する気……!?」


「わかんねえけど、この試合に勝ちゃクラップカブスに一点入るんだ……どんな試合でも受けて立ってやる」





戸惑う表情のジュリオの両腕の中で、アンナは不敵に笑っている。





「気になる試合内容は〜! ズバリ! ボクとエンジュリオス殿下でバッティングゲームをしてもらいます!」


「はあ!?」





突然勝負事に引きずり出され、ジュリオはパニックになった。





「ボクが投げた球をエンジュリオス殿下がバットで打ち返せたら、クラップカブス側の勝利! クラップカブスに一点が入るから、ペルセフォネソックスとは同点になって、サドンデス試合が続けられるよ! …………だけど」





ラセルは悪辣に笑うと、舌なめずりをしてゲスな顔を浮かべる。





「ボクの投げた球をエンジュリオス殿下が打ち返せなかったら、ボクが所属してるアストライア芸能事務所から俳優デビューしてもらいまあす!!」


「何だって!?」


「いや、案外ヒーラーやるよりも稼げるかも知れねえぞ。……あんたなら天下獲れるんじゃね?」


「そうかなあ」





ジュリオはアンナの発言により、持ち前の脳天気さを発揮した。


しかし、その脳天気さはゲス顔をしているラセルの発言により、木っ端微塵となる。





「デビューはデビューでも…………ポルノ俳優デビューだけどねえ!!! あはははははは!」


「どうして!?」





展開について行けず、ジュリオは驚愕の声を上げるが、会場のボルテージは最大マックスにブチ上がってしまった。



そんなジュリオの隣に、ローエンのフリしたルテミスが駆け寄って来てメガホンで怒鳴り声をあげた。





「ふざけんなラセルこの野郎!!!! お前が恨んでんのは俺だろ!!?? 兄上は関係ねえだろうが!!!」





ローエンのフリしたルテミスの怒鳴り声を聞いたラセルは、悪辣な笑顔を憎悪の表情に変えて、



「兄上ぇ? あんたは大体のことは出来る便利屋なんでしょお〜?」



とマイクを片手に叫んでいる。



ローエンのフリしたルテミスは苦渋の表情を浮かべ、大勢の観客が見守る中、ウィッグとゴーグルを外した。





「やっぱり、ルテミスだったねえ! ああ、そうだ! 肩慣らしに付き合ってよ! …………ボクを抱きながら誰の名前を呼んだのか、バラされたいわけ?」





ラセルの言葉に、観客は完全に興味本位の野次馬と化してしまう。





「あ、それ僕も気になる」


「……ぶっちゃけあたしも」





ジュリオとアンナも脳天気な顔で、そんなアホな事を言った。





「わかった! わかったよ! 兄上の代打に俺が立つ!!! それでいいだろ!?」


「へえ……。お兄ちゃん思いだねえ……」





ラセルは憎しみが煮えたぎるような声でそう言うと、



「それじゃ降りておいでよ。ルテミス」



と笑った。





◇◇◇





スタジアムの選手用出入口にて、ジュリオと手錠で繋がったアンナは心配そうな顔で、バットを持っているルテミスを見た。





「ルテミス……大丈夫……?」


「ええ。ラセル如きの球なら、余裕で打ち返せますから」


「でも、ラセルの肩は意外と良かったぞ。ボールも速くてコントロールも上手い。……正直、始球式で見せた生ぬるい球は演技だと思う」





ジュリオと手錠で繋がっているアンナは、ラセルの投手としての実力を冷静に分析している。





「ラセルは……アイツは、チヤホヤされたいと言う理由だけで王立ヒーラー学院の野球部のマネージャーを努めていた男です。ですが、運動神経と要領が良いので、投手としての実力も育っていたのでしょう」


「ルテミス……僕が言うのもなんだけど、男見る目無さ過ぎるよ……」


「……………ええ。本当に」





ルテミスは少し悲しげに笑うと、バットを片手にラセルとのバッティングバトルへと向かった。



その背中を、ジュリオとアンナは真剣な眼差しで見守っている。





◇◇◇





突如として行われたエキシビジョンマッチは、まさかの王子兄弟出演+クラップカブス一点追加チャンス、もしくはジュリオのポルノビデオ堕ち&ルテミスが誰と名前を呼び間違えたのか大暴露と言うリスクによって、最強に盛り上がっている。



カメラを担いだチャンネルマユツバーのスタッフや、マイクを片手に好き勝手に実況するヒナシの姿があった。



熱狂したスタジアムの中央にて、ラセルは野球ボールを器用に玩び投げながら、バットを持ってラセルを睨むルテミスを見ている。



そんな緊迫した二人を、ジュリオとアンナは不安げに見ていた。





「ラセルの野郎……アイツのボールのコントロール力……あれはかなり強えぞ」





アンナからボール捌きが上手いと称されたラセルは、つまらなそうに笑いながらルテミスに話しかけた。


マイクは持っていないので、話し声はジュリオとアンナにはぎりぎり聞こえているが、熱狂している観客席には届いていない。





「ねえルテミス。会いたかったよ。ボクを抱きながらよりによって『アイツ』の名前を呼びやがったお前に復讐する今日この日を……何度夢に見た事か。……今日の試合の救護班としてエンジュリオスとルテミスがいるってスタッフ名簿見て知ってさあ。小娘アイドルのスキャンダルすっぱ抜いて出場停止にして……大変だったんだよ?」


「……そんなに愛してもらえて、俺は光栄だよ。…………もう終わりにしよう、ラセル」





ルテミスはバットを構えると、ラセルの投球を打ち返す姿勢を取った。





「すまなかった」


「……ルテミス……その言葉が……聞きたかったよ……」





ラセルは切なげに笑って、目尻に涙を浮かべている。

笑いながら泣くような儚げな表情は、触れれば消えてしまいそうな程の透明感に満ちていた。



そんなラセルの姿を見て、ルテミスの表情が曇ったその時である。





「ぐぁ"ッ!!!」





ルテミスが油断を見せたその一瞬、儚げな泣き顔から生命力に溢れたゲス顔になったラセルの豪速球が、ルテミスの股間にぶち当たった。



その場に崩れ落ちるルテミスを見下しながら、ラセルはゲス顔で大笑いしている。





「嘘だよバァァァァアカ!!!! ギャハハハハハハハ!!!!!!」


「て、テメェ……」





今にも死にそうな顔でその場に転がるルテミスを嘲笑いながら、ラセルはバカ笑いをしてマイクを片手にさけんでいる。





「お前の謝罪とかもうどうでも良いんだよ!!! 今はただお前とお前のだぁい好きなお兄ちゃんに恥辱を味合わせたいだけ!!! アハハハ!! それじゃあ皆に教えてあげようか!!! ルテミスがボクと誰を間違えたのかをね!!! それは――――」





ラセルがマイクを片手にスタジアムの観客に向けて、ルテミスの隠し事をぶちまけようとした……その時だ。





「ちょっと待ったぁぁあああああ!!!!!」





ジュリオが、手錠でくっついたままのアンナを引き連れ、地面に転がるルテミスをラセルから守るように立っている。


バットをラセルに向けて、大きな声で宣言した。





「弟の代打のバカ王子……僕が相手だよ」


「それと、チンピラ猟師もな」





◇◇◇





股間に豪速球のデッドボールを食らったルテミスは、駆け寄って来たマリーリカに支えられながら、選手席へと降りてきたカトレアの元へと戻ってゆく。



その無残な姿を見ながら、ジュリオは怒りに満ちた顔でラセルを睨んでいた。





「随分と派手にやってくれちゃったね……。僕のパチモンが」


「……パチモン……ねえ……。本当に忌々しい日々だったよ。……お前のパチモンをしながら、お前をモデルにしたドラマに出演してた日々は……胸糞悪くて胸糞悪くて眠れなかった……」


「そっかそっか。ご苦労さまぁ、僕の再現VTRの役者さん。……再現に苦労したでしょ? 僕の美しさは」


「……うん。苦労したよ。知能の足りてないバカな所が全く再現出来なくてね」





ジュリオとラセルは嫌味のデッドボールをぶつけ合いながら、睨み合っている。



そんなジュリオと手錠で引っ付いたままのアンナを見たラセルは鼻で笑って、



「キミ、誰?」



と至極真っ当な事を言った。





「乱闘騒ぎに参加すんじゃねえって、ジュリオに手錠で繋がれたんだけどさ、鍵持ってるヤツが留置所にいてな。……だから、今はあたしも代打に参加するよ。…………勿論、負けたらジュリオと同じ罰は受けてやる」


「へえ……君もポルノ俳優デビューしてくれんの? アストライア芸能事務所のポルノ部門は幸先良いや」





アンナとラセルは不敵に笑いながら言葉を交わしている。



一方ジュリオは「じゃあ、デビュー作の相手は僕ね」と冗談めいた笑いを浮かべてアンナへ軽口を叩いた。



アンナも「初めての相手があんたなら、天国見れそうだな」と笑う。



そんな二人は、手錠に繋がったまま一本のバットを握りあった。



アンナを後ろから抱き込むように、ジュリオがバットに手を添えている。


二人でバットを持っているが、手の大きさ的にジュリオがメインでバットを握る事となった。



まるで二人羽織のような間抜けな姿に、ラセルがゲス顔で大笑いした。





「虫の交尾みたいな格好してボクに勝てると思ってんの? 特にエンジュリオス……お前の事は知ってるよ? とんでもなく鈍臭くて、運動神経はゼロだってね」


「うん。僕の運動神経はゼロだよ…………。でも、今はアンナがいる。……だから、大丈夫」


「へえ……随分と仲が良いんだね。……そんなに仲が良いならさぁ……」




ラセルは悪辣に笑いながら、キレイな投球フォームの姿勢を取った。





「二人仲良くポルノビデオに堕ちやがれッ!!!!!!」





ラセルから豪速球が放たれた、その時である。





「テメェクソ女ァアアアア!!! 金返せボケコラァアアアア!!」


「騙される方が悪いんですってばぁ!!! 大体、野球賭博でパクられるのと小銭を失うの、どっちがマシだと思ってんすかぁ"痛ァ"!!!!」


「ネネカ!!??」





ラセルの豪速球の前に飛び込んできた、異世界人や貴族らしき連中から『金返せ!』と追われている、野球賭博のディーラーをしていたネネカは、その顔面に豪速球を食らってしまう。





「はあ!?」





ラセルは驚愕した。



豪速球のボールはネネカの顔面にぶち当たった事により、勢いと回転を無くしてゆっくりと上空に上がり……。





「今だ!!! ジュリオ!!!!」


「わかった!!!!! 行くよ!!!」




このチャンスを逃すまいと、アンナとジュリオは地面に倒れたネネカの近くで、ゆっくりと上空に上がったボールめがけて、全力でバットを構えた。





「くたばれラセル!!!!」




ジュリオとアンナは、ネネカの顔面トスによって勢いを無くして打ち上がるボールをバットで打ち返す!



カキーン! と気持ちの良い音が聞こえ、ボールは遠くへと飛んでいった!





「やった!!! やったよアンナ!!! 僕、初めてバットでボールを打ち返せた!!!」


「ああ!! やったなジュリオ!!!」





ジュリオとアンナは手錠に繋がったまま、喜びを全力で表しながら『バックハグで抱き合った』。



そこで、はて? とジュリオは思う。



抱き合うという事は、手ぶらで無いといけない。



ならば、先程まで持っていたバットはどこへ行った…………?




まさか。





ジュリオとアンナはラセルの方へと向くと、先程までジュリオの手にあったバットは、ラセルの顔面にぶち当たっていたのだ。





「打った拍子にバットが手から抜けちゃったみたいだね」


「ジュリオ〜、あんたは棒を持つとすぐに抜いちまうんだな」


「あはは〜上手い事言うねえ!」





そんなくだらない会話をしているジュリオとアンナの元へ、怒りの形相を浮かべた芸能事務所スタッフ達が駆け寄ってくる。





「テメェらぁああああ!!! うちの俳優に何してくれとんじゃぁぁあああ!!!」

 




その怒鳴り声と共に、顔面にバットがぶち当たったラセルも、鼻血を垂らしながら



「ぶっ殺してやるッ!!!」



と殴りかかって来た。





「逃げる?」


「だな」





ジュリオとアンナは凄まじい速さで逃げ出した。





◇◇◇





結局、ラセルとアストライア芸能事務所スタッフが暴れ始めた事をきっかけに、再びクラップカブスとペルセフォネソックスの大乱闘が勃発してしまう。



そして、警察が駆けつけ、ラセルとアストライア芸能事務所は留置所送りとなり、ジュリオとアンナは大乱闘の混乱に乗じて走って逃げ切った後、平然とした顔で救護班席に戻って来た。





「ジュリオくん。アンナ、お帰り〜」





カトレアはのほほんとした声で、豪速球が顔面にぶち当たったネネカとデッドボールを股間に食らったルテミスに治癒魔法をかけながら、ヘラヘラ笑っている。





「二人とも、間抜けでアホみたいだったけど、面白かったよ」


「ありがとうございます。カトレアさん」





ジュリオとアンナは手錠に繋がったまま、救護班席に座って、再開されたサドンデス試合を観戦し始めた。


足の間にアンナを座らせると、ジュリオはちょうど良い位置にある小柄なアンナの頭に顎を乗せる。



そんなジュリオにアンナは特に文句を言う事もなく、ジュリオを背もたれにしてふんぞり返って座っていた。





「サドンデスかぁ……どうなることやら」





ジュリオ達がラセルのエキシビジョンマッチに勝ったおかげで、クラップカブスに一点が入り、同点となった両チームはサドンデス試合となったのだ。





「野球も、やってみると面白いもんだね」


「だろ?」


「でもさあ、正直ルテミスがラセルと誰を間違えたのかは、まだ興味あるんだよね」


「ほんとだよなあ。テレビじゃピー音入っててわかんなかったし」





ジュリオとアンナは自由な片手でビールを持って乾杯すると、爽やかな笑顔を浮かべてビールを飲み干した。



まったく、今日は一日大変だった。


逮捕者は出るし、留置所送りの者は出るし、ルテミスの元彼にポルノビデオデビューさせられそうになるし。



全くもって、ロクな一日じゃなかった。




しかし。





「あ! アンナ! あと一人倒したら勝てるって!!!」


「マジかよ!!! クラップカブスー!!! 貧乏人の誇りを見せてやれ!!!」





こんな風に、野球観戦を楽しめるなら、そこまで悪くないかもしれない。



ジュリオはアンナと一緒に、声を張り上げて地元の野球チームへ元気よく声援を飛ばしたのだった。


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