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110.ざまぁへの足音!

エレシス家のクソパーティーを終え、無事にクラップタウンへ帰って来た翌日。



ジュリオは、バー『ギャラガー』にて、ヒーラーの職務を全うしていた。





「とうとうルテミスとネネカの結婚パレードかあ。……まさか、弟の結婚式にすら出られないなんて……」





本日はついに、聖ペルセフォネ王国の王位継承第一のルテミス王子と、異世界より召喚されてきた聖女ネネカの結婚パレードが、王都にて行われるのだ。



当然、聖ペルセフォネ王国から追放されたジュリオは、弟の晴れ姿を生で見る事は出来ない。

だから、聖ペルセフォネ王国の属国であり隣国のフォーネと言う国の南の果にある、クラップタウンと言う掃き溜めの様な貧乏界隈の小汚えバーのテレビの中継映像を見ようと思っていた。





「ルテミスの結婚パレードが国民の祝日になるなんてなあ」





ジュリオの独り言のように、ルテミスの結婚パレードの日は、聖ペルセフォネ王国の祝日となったのだ。


当然、聖ペルセフォネ王国の属国であるフォーネも今日が祝日となる。




だが、そんなめでたい祝日など、ヒーラーにとっちゃそんなの関係無い。



カウンター席に座ったカトレアはタバコを吸いながら、歯が痛いと駆け込んできた酔っ払いの虫歯をペンチで挟むと、酔っ払いの心の準備も聞かずにその歯を引っこ抜いた。



当然、血と酔っ払いの絶叫がバー『ギャラガー』に広がるが、カトレアは気にした様子もなく、手元にあったキッツい酒を飲んで「歯ぁ磨きな」と言い捨てた。





「祝日でヒーラー休憩所が使えないなら、ここで闇営業するだけだよ。アタシらフリーランスに祝日なんか無いもんね」





カトレアの言葉の通り、バー『ギャラガー』のドアには、『臨時ヒーラー休憩所』と手書きで書かれたダンボールの看板が貼ってある。






「それにしてもカトレアさん。さっきから性病移された人しか来ないんですけど……。後、保証金目当てで仕事中にわざと大怪我した人とか……」





ジュリオがうんざりした顔でそう言うと、テーブル席で安酒を飲んでいたアンナが続いた。





「さすがはクラップタウン。掃き溜めらしく、患者の質も底辺だな」


「もう今日で何回性病にかかったグッチャグチャの気色悪い〇〇スや〇〇〇〇を見たと思う? ヤる前に避妊具つけろっての」


「そう言う知恵も避妊具買う金もねえから、貧乏人はどんどん増え続けるんだろうよ」


「それで、保険にも入れないから怪我したり性病になったら野垂れ死にって事か。……今度ルテミスに会ったら、貧乏人に避妊具付けさせろって抗議してやる」





ルテミスにそんな抗議をしたところで何かが変わるかはわからないし、そもそもまた会える可能性も無いだろう。


出来れば、また落ち着いて会話が出来れば良いのだが、それが叶う日は来るのだろうか。





「全く……性病にかかった患者をトイレに連れてって治癒してたら、僕を男娼と勘違いしたアホに『しゃぶってくれ』って言われるし、そうやってキツツキみたいにところ構わず突っ込んでるから性病になるんだっての。もう少し節度を持って欲しいよ」


「へえ、元ヤリチンで元ヤリマ〇のバカ王子が言うじゃねえか」


「上流階級では性病の検査は常日頃やってんの。だからパーティーの最中バルコニーで足にパンツ引っ掛けたまま男に即ハメされても大丈夫なんだよ」


「……あんたがルテミスさんに追放されるわけだわ」





ジュリオは自分を男娼と勘違いしたアホを追い払う一方、アンナはジュリオのえげつない過去を聞いて笑いながら酒を飲んでいる。



その話を聞いたバーテンダーの気の良さそうな大柄な兄ちゃんと、明るく楽しそうな雰囲気の姉ちゃんは「刺激的な話が聞けて良い職場」と呆れながら軽口を叩いていた。



そんなバーテンダーの二人から安酒を貰ったローエンはカウンター席に座っており、一つ席を開けた隣に座っているマリーリカにカッコつけた流し目を送りながら、この前ジュリオと練習した『俺、お前なんかに興味ねえから』と言うクールなアピールをしている。





「俺はもう……マリーリカちゃんだけのローエンじゃない……。逃した魚は大きかったな……大海原に放たれた俺と言う大魚が恋しくなっても知らないぜ?」


「そうなんだー! 逃した魚が海で幸せになれる事を祈ってるよ! 結婚式には呼んでね! 相手はタコだかイカだか知らないけど」





マリーリカは満面の笑顔でジュースを飲んでいる。


その顔は『ローエンが急に自分から離れて寂しいのっ』と言うものではなく、『面倒臭いゴミが消えて気分爽快』と言った顔である。



そうとは知らず、ローエンはジュリオの元に寄ると、得意気な顔で耳打ちして来た。



ちなみに、ジュリオは患者の性病にかかったチ〇〇に治癒魔法をかけている最中であり、そんな光景をみたローエンは「うわ! 何お前のチ〇〇!? キモっ!!」とドン引いた声を出した。





「なあジュリオ。あれは俺に気があるよな。……押して駄目なら引いてみろってよく言ったもんだ」


「……そのまま引いてた方がもっと好かれると思うよ」


「わかった! 俺は引き続けるぜ」 





ローエンはニヤリと笑ってカウンター席へと戻ってゆく。


この男は頭も良く腕の良い便利屋であり、ルックスも服装や髪型を整えれば、上の上をぶち抜くレベルになるであろうポテンシャルを秘めている。

正直、ローエンから抱かせてくれと言われたら、いいよ〜と言えるレベルなのだ。



それなのに、女相手だと『なんでこ〜なるの?』 と言いたくなるほど不器用でアホになるのは、最早オンナ慣れしてないが故に信頼できる美点であろう。



ジュリオはそんな事を思いながら、性病にかかったチ〇〇を治癒し終わった。



トイレで手を入念に洗って戻って来ると、バーテンダーが気を利かせて酒を奢ってくれた。


その安酒を飲むと、再びバー『ギャラガー』のドアが叩かれたので、次のアホは誰だと思いながらドアを開ける。



そこにいたのは小生意気そうなガキであった。





◇◇◇

  




「へえ……股間の『皮』の切除を闇でやったせいで、切り傷と感染症が酷いって事か……。なんでちゃんとした治療院でやらないの? 保険は?」





ジュリオが呆れた顔でそう言うと、小生意気そうなガキはカウンター席に座ってメンチを切りながら、



「この界隈で保険入ってるやつなんかいるわけねえだろバカ王子」



と噛み付いて来た。

きっと、股間の痛みで凶暴化しているのだろう。





「お願いだよ。さっさと治してくれ。勃起するたび気絶しそうになるほど痛いんだよ」


「そりゃ大変だね。じゃあ、店内にいる女の子隠した方が良い?」


「それならあそこでタバコ吸ってるご婦人も隠してくれ」





小生意気そうなガキは顎でカトレアを示す。



すると、カトレアはニヤリと笑って、



「見どころがあるガキだね」



と笑った。



小生意気そうなガキもニヤリと笑っている。

色々と伸び代がありそうなガキだと思った。





◇◇◇

 




バー『ギャラガー』のテレビでは、いよいよルテミス王子と聖女ネネカの結婚パレードが生中継され始めた。


チャンネル・マユツバーにしては、ルテミスもネネカも美しく撮している。



 

しかし、ジュリオ達とっては、今それどころじゃ無いのであった。





「うわっ!? こりゃ酷い……。僕が前に切りそこねてズタズタになったウィンナーみたいになってる……」


「ウィンナーなんてショボいもんじゃねえよ俺のチ〇〇は……ッ!」





小生意気そうなガキのズタボロになったチ〇〇を見たジュリオは青ざめた。



その一方、小生意気そうなガキはジュリオに中指を立てて抗議している。



そんな事言ってる場合かよ……とジュリオは思うが、今は早くこのガキを治癒しなければならない。





「ここがヒーラー休憩所じゃなくて良かったね。あそこには可愛い女の子がたくさんいるから、勃起し過ぎて千切れるかもよ」


「おいバカ王子今そんなこと言うなや!! 勃起したらどうすんだよ!?」


「じゃあそこの床で寝てる酔っ払いのオッサンのタマでも想像してなよ。そうしたら萎えるよね」


「あれ俺の親父」


「……それなら好都合だ。絶対に萎えるでしょ」






ジュリオは小生意気そうなクソガキに跪くと、邪魔な長い金髪を耳にかけて、患部の確認をした。

確かに、色々とズタボロになっており、このガキが行った治療院の酷さが伺える。





「凄い事になったね……可哀想に……」


「……」


「今楽にしてあげるよ」



 


ジュリオは憂いを帯びた顔でため息を付くと、口をゆっくりと開いてヒールを唱えようとした。



その時である。





「ぁ痛ァァアアアッ!!!!」





小生意気そうなクソガキのズタボロのクソガキが勢い良く勃ち上がったのだ。



クソガキは痛みで絶叫しながら、



「そんな顔してエロく息つくなやバカ王子ッ!! お前で勃ったとかほんと最悪だよ畜生ッ!!!」



と涙目になっていた。





「……美しさって罪」





ジュリオはそんな腹立つことを肩をすくめて言うと、さっさとヒールをかけて治癒したのだった。





◇◇◇





ルテミス王子と聖女ネネカの美しく華やかな結婚パレードのテレビ中継を見る余裕もなく、ジュリオはひたすら貧乏人達の怪我の治癒にあたっていた。



就業後に少しバーで飲んだ後、ジュリオとアンナは家に帰ると、アンナはソファーに寝っ転がってテレビを見始め、ジュリオはすぐに風呂へと直行したのだった。



時刻はそろそろ深夜に突入する頃である。

アンナはこの時間帯のテレビ番組が一番下世話で面白いと言っていた。





「はあ……もう暫くはウィンナーもアワビも食べたくない……絶対吐く……」





ジュリオは髪と体を洗い終えて狭いバスタブに浸かると、何で僕はチートヒーラーと言う立場なのに、やらされる事が毒沼のドブさらいとか性病の治癒なんだよ……と自身の運命に毒づいていた。





「ほんと今日は最悪だったな……。もしこれがドラマやアニメだったら、今日はクソ回だね……ほんと。アンナが文句言いそう」





アンナはドラマやアニメを見ながら、いちいち矛盾点や設定ミスなどの細かい所へチクチク文句を言いながらも、最後まで見るタイプの視聴者である。


クリエイター側からしたらありがた迷惑な女であろう。





「あーあ。今日もろくでもない一日だった」





ルテミスの結婚パレードの中継は見られず、見たのは性病でグッチャグチャになった汚ッえチ〇〇と〇〇コである。



女神ペルセフォネが本当に存在するなら、さぞかし慈悲深きクソ女だろう。



ジュリオは疲労からため息を付いた、その時である。


風呂場のドアが勢い良くノックされた。



 


「おいジュリオ!!! 今出られるか!?」


「なにアンナ? どしたの? 誰かのチ〇〇が爆発でもしたの?」


「違ぇよアホ!!!! テレビ見ろテレビ!!!! ……ルテミスさんが……」


「え!? わかった!!! すぐ出る!!」





取り敢えず腰にタオルを巻き、ジュリオは濡れたままリビングへと飛び出した。



そして、下世話極まりないテレビの深夜番組を見て、ジュリオは表情を無くしてしまう。





「何……これ……」


「……取り敢えず、ヒナシはマジでクソ野郎だな」





アンナは胸糞悪そうな顔で、深夜番組を見ていた。





◇◇◇



 


チャンネル・マユツバー放送局のスタジオで、生番組の休憩中にヒナシはスタッフと談笑していた。


 



「いや〜ヒナシさん。まさかルテミスさんの結婚パレードをやった日の深夜にこの番組を垂れ流すとか、まさに鬼畜。悪魔の所業っすね……」





スタッフはどうでも良さそうに話しながら、ペットボトルのお茶を飲んでいる。





「一番良いタイミングでしょ? それに、王族達はテレビ見ないからさ、対応も後手に回らざるを得ない……。だけど、軍部は違うからねえ……。今頃見てると思うよ。この番組、視聴率良いもん」


「『元恋人や愛人』が相手を名指しで暴露して洗いざらいブチまける最悪のクソ番組ですもんね……」





スタッフはお茶を飲み終えた後、番組の台本を確認しながら赤ペンで線を引いている。



そんなスタッフの手元を見たヒナシは、「あ、ごめんね。そこスポンサーNGだからカットしてくれる?」と言った。





「明日のケサガケ討伐……どうなるかな……。果たして、『この番組を見た軍部』がルテミス殿下の言う事を聞くかどうか……」





ヒナシはルテミスを嘲笑う様な顔をすると、我儘な出演者の舞台俳優達に手もみをしながらご機嫌取りを始めたのだった。


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