殺人衝動
やぁ。
始めまして。
久しぶりといった方が正しいかな。
僕かい?
僕は君さ。
見たらわかるだろう?
同じ顔。
ほら耳の後ろにほくろだってある。
僕は君だよ。
証明になったかな?
え?
ドッペルゲンガー?
あぁ、自分と同じ姿をしていて、見たら死んでしまうとかいうあれか。
ははは、違うよ。
僕はドッペルゲンガーなんかじゃない。
じゃあ何なのかって?
それは君自身で気付いてほしいなぁ。
ヒントかい?
そうだねぇ。
じゃあ僕の後ろを見てごらん。
ほら。
君が。
いや、正確には僕が。
たくさんいるだろう?
みーんな君のことを見ている。
恨みがましく、憎しみのこもった目で君を見ている。
僕らのことを見ても君は思い出さないかい?
ははは。
思い出さないかい、か。
これは一番大きなヒントかもね。
こんなに大きなヒントをあげたのにまだ思い出せないのかい。
どんくさいなぁ。
あんまり君の悪口を言わせないでくれよ。
僕は君なんだよ?
君に悪口を言ったら、それは僕自身に言ってるのと同じなんだよ。
君がどんくさいなら僕もどんくさいってわけ。
所詮僕は君だからね。
で。
まだ思い出さないのかい?
僕を殺したのは君なのに。
僕らを殺したのは君なのに。
君はまだ思い出さないのかい。
君が切り捨てていった僕らのことを。
僕は君だと言ったね。
でも実際は少し違う。
だって僕はとっくに終わってるんだから。
進み続けてる君とじゃあ同じだけど違うよね。
僕の後ろにいる僕らだってそうさ。
もう終わってる。
君であって君じゃない。
君が犯した人殺し。
人は生きていれば必ず人を殺す。
被害者は自分自身。
君は何人殺せば気が済むのかな。
殺して、殺し続けて。
君はまだ残ってるのかな。
君はまだ生きているのかな。
いいんだよ、別に。
僕らを殺したこと。
僕らの存在を忘れていたこと。
皆怒ってる。
皆苛立ってる。
皆憎んでる。
君自身を。
僕自身を。
だからいいんだよ。
皆わかってる。
殺された理由をみんな理解してる。
僕らが生きていることを君が許さなかった。
あるいは、君ではない他人が許してくれなかった。
だから僕らは殺された。
皆君が。
僕が。
苦しんでいることを知ってるよ。
だから。
だから、いいんだよ。
ほら。
時間だよ。
もう起きて。
また、君が始まる。
君が成長するということは、もっとたくさんの君がここに来るということ。
それでいいんだよ。
君の中にいる僕らを殺してここに送るということが、成長するということだ。
それをどうのこうのいうやつがいる。
そういうやつだってどうせ君と同じさ。
自分自身を殺してるんだ。
どうしようもない殺人衝動を持ってる。
自分を諦めるための殺人衝動を持ってる。
だから、そんな言葉無視すればいいよ。
君がたくさん僕らを殺して、それでも一人でも、君が生かしてあげたいと思う君ができたなら、僕らはそれでいいんだ。
死んだ意味があるっていうものだよ。
それじゃあね。
もう会うこともないかな。
願うなら。
願うなら、僕も生きていたかったな。