男なんて愚劣で無価値? ああ、そういう王子もいるわよね?
――――三日後。イザークが庭師を辞めた。
実家の父が危篤だという理由だったが、まず間違いなく嘘だろう。
(結婚詐欺で捕まったとき、イザークの父親はピンピンしていたもの。留置場で、もう少しでイザークを殴り殺すところだったって聞いたわ)
イザークと一緒にスーザンも辞めている。
彼女とイザークの父がタッグを組んだなら、イザークを更生させるのも不可能ではないかもしれない。
まあ、どうでもいいことだけど。
「――――まったく、男なんて愚劣で無価値な生き物ですわ。あんな奴ら、みんな死んでしまえばいいんです」
あの日以来、すっかり男嫌いになったエイダは辛辣だ。
その意見をまったく否定するわけではないけれど、今この場で言うことではないだろう。
ここは王城のユーギン公爵家に与えられた控え室。
豪華な調度品が品良く配置された、非の打ち所がない美しい部屋だ。
さすが国王の居城と褒め称えるべきところかもしれないが……いや、やっぱり止めておこう。
そんなことをしたのなら、盛大な皮肉になる。
(だって、この部屋の中身は、ほとんどユーギン公爵家が設えた物だもの。国王の居室より間違いなく立派なのよね。……まったく、お父さまったら、こういう“イヤミ”なことをするから、王家に嫌われるのよ)
豊かで広大な領地を有するユーギン公爵家は金持ちだ。
その規模は、軽く王家の資産を超えてしまうくらい。
当然、国王にとっては面白くない存在だった。
できることならば、ユーギン公爵家の存在自体を無視したいのだろうけれど、まさかそうもいかない。
敵対なんてしたならば、下手すりゃ王家が負けてしまうかもしれないからだ。
敵愾心と公爵家を味方にした場合の実利を天秤にかけた国王は、結局、私を王子の婚約者に据えた。
しかし、本心は嫌に決まっている。
父王がそんな心情だから、王子も最初から私を疎んでいたのだろう。
前世の王子との初対面は、互いにかける言葉もない寒々しいもの。
――――そんなつまらない場面を、これからもう一度体験しなければならないのだ。
そう。私は、本日めでたくも婚約者となった王子殿下との顔合わせのために、王城にきているのだった。
(めでたくもなんともないけれど)
めでたいのは、エイダの頭である。
彼女は、これから婚約者とはじめて会う幼女に対し、男の情けなさを吹聴しているのだから。
「そうなの? じゃあ、王子さまも同じなのかしら?」
無邪気さを装って聞いた私の言葉に、エイダはたちまち顔色を悪くした。
「あっ、ああ! 違います! きっと王子さまはステキな方ですよ!」
取り繕うように笑っても後の祭りである。
こんな失態が母に知られたら、減給間違いなしだ。
(まあ、彼女の言うことも、あながち間違いでもないわよね。王子ほど愚劣で無価値な男なんていないから)
私は、心の中だけでそう呟いた。
婚約者がいるのに、他の女に現を抜かし多少素行に問題があったものの、権力と財力を後ろ盾に持ち将来国の力になる王妃候補を断罪し処刑した。
これが、愚かでなくてなんだと言うのだろう?
(私を処刑した後、この国はどうなったのかしら? お父さまのことだもの、面子を潰されたとかなんとかいって、反旗を翻したかもしれないわよね?)
私と父は、特に仲がよかったわけではないけれど、悪かったわけでもない。
私は大勢いる父の子どもの一人で、独善的な思考回路が父とよく似ていた。
このため、まあまあ気にかけてはもらっていた方だと思う。
私が捕まったのは、父が大きな商売で遠国に貿易に出た後で、処刑も帰る前。
つまりは父の不在を狙われたのだ。
(お父さまがいたら私は処刑されなかったのかしら? ……もっとも、あのお父さまなら、捕まった時点で私をあっさり見捨てそうだけど)
父が私を助けたかどうかは限りなく怪しいが、転んでもただでは起きない性格なのは間違いない。
娘の処刑を最大限利用して、大きな利益を上げたことだろう。
(私が冤罪だったという証拠をでっち上げ、王子と聖女、ついでに王家も糾弾。娘の敵を討つという名目で国家転覆の一つや二つ……やっているわよね?)
少なくとも私が父なら、絶対にやる。
もはや知ることのできない、私のいなくなった後の未来を予想して、私は気を晴らした。




