オシドリ夫婦とか――――腹立つ!
まったく、冗談じゃない。
アーサーとお似合いだなんて、世も末だ。
救いは、一点。私たちが、あくまでビジネスライクの政略結婚だということだろうか。
(惚れた腫れたのバカップルとか、絶対嫌だもの)
そう思っていれば、アーサーが私の耳元に顔を近づけてくる。
「……あと、勘違いするなよ、アマーリア。お前がどんな称号を持っていてもいなくても、俺の婚約者はお前だけで、俺はお前と婚約破棄なんてしないからな」
低い声でそう囁いてくる。
「え?」
私はキョトンとしてしまった。
それはいったいどういう意味だろう?
呆然とする私の隙をつき、アーサーの唇が私のうなじに音を立てて落ちてくる。
「チュッ」というリップ音に、私は固まった。
「俺はお前を気に入っている。……世界で一番“愛している”。だから、俺の妃はお前以外に無いんだ」
甘い声を聞かされて、産毛が逆立った!
なんてことを言うのだ!
やはり、ここは逆行転生前の世界とは本格的に違う世界のようだ。
「…………愛しているとか、はじめて聞いたんですけど! ……気でも狂ったの?」
「いや。いたって正気だが。……たしかに、今まできちんと言わなかったのは悪かったが、……まさかアマーリア? お前、本気で俺の気持ちに気がついていなかったわけじゃないよな?」
アーサーが、恐る恐るといった風に聞いてきた。
気がつけるはずなどないだろう。
だって、この王子さまは一度間違いなく私との婚約を破棄し、あまつさえ処刑してくれたのだから!
ムッとして睨みつければ、途端、アーサーはオロオロと狼狽えだした。
「そんな! ……ホントにホントなのか? 俺をからかっているんじゃなく? だって、他の奴らはみんな気づいていたんだぞ! むしろ、ウザすぎるとか、必死すぎて笑えてくるとか、いろいろからかわれていたのに! 本人だけわかっていなかったとか――――そんなのおかしいだろう!」
アーサーはそう言うと、私の肩を掴んで前後に揺さぶった。
しかし、おかしかろうが何だろうが、それが現実だ。
フンとしてそっぽを向いてやれば、アーサーは、今度は死にそうな顔になった。
「――――悪かった! これからは、毎日欠かさず愛の言葉を贈るから!」
そんなことを言ってくる。
「へ?」
「恥ずかしがったりせずに、もちろん花も贈り物もたくさんする! ……言葉や行動を惜しんではダメだと思い知ったからな」
「は?」
こいつは何を言い出したのだろう?
ポカンとして見上げれば、蕩けるような笑顔が視界いっぱいに広がった。
「愛している、アマーリア。お前だけだ。この世の誰よりも、俺が世界で一番お前を想っている」
「えぇっ!?」
ちょっと、なんの冗談だ?
いや、こんな展開は望んでいない!
私は、思いっきり焦った。
「ア、アーサー?」
「アマーリア、今まで想いも告げずに悪かった。でも、俺はお前なしに生きていくことはできないんだ。俺のすべてを捧げるから、俺の傍にいてほしい。……愛している」
(ひぇぇぇぇぇ~っ!)
心の中で悲鳴を上げた。
今までのアーサーとのやり取りの中で、一番ダメージを受けてしまった。
(誰? これ?)
そう思ってしまっても、無理ないだろう。
「アマーリア、ずっとずっと前から、未来永劫の果てまで、俺はお前を愛し続け――――」
「結構です!」
私は、アーサーがすべて言い終わる前に、勢いよく断わった。
なのに――――。
「アハハ、アマーリアは相変わらず面白いな。そこも最高に気に入っているから。これからもよろしく頼むよ。――――俺の奥さん」
今度はそう言ってくる。
「うっわぁぁぁぁぁ~っ!!!」
ついに私は声に出し、叫んでしまった。
脱兎のごとく逃げだそうとしたのだが、あえなくアーサーに捕まってしまう。
あげく、両手に軽々と抱き上げられた。
――――そして、前代未聞の、花婿が花嫁を最初から最後まで“お姫さま抱っこ”しているという伝説の結婚式を挙げることになったのだ。
「――――もうっ! もうっ! もうっ! 絶対逃げないって言っているのに! 誓いの言葉だってちゃんと言ってあげるって約束したでしょう! だから、下ろしてちょうだい!」
式の間中、私は全力でアーサーに訴えた。
私だって、一国の王子の結婚式の重大さや面倒くささくらいわかっているのだ。
それをドタキャンしないだけの分別も持っている。
そりゃあ、咄嗟に逃げようとはしたけれど…………あれは、断固アーサーが悪いのだ!
私は、悪くない!
「うん。わかったよ。……でも、もう少し。今まで圧倒的にスキンシップが足りていなかったからな。今後は遠慮しないことにしたんだ」
いや、そこは遠慮してほしい!
もう、この脳内お花畑王子を、なんとかして!
(…………チクショウ! 絶対直ぐに離婚してやる!)
私は、結婚式が終わる前に、心に誓った。
――――しかし、私はこの時失念していたのだ。
我が国の法律が、離婚を認めていないということを。
一度結婚した夫婦は、誓いの言葉通り、死が二人を分かつまで離れられないのだということも。
だからこそ、逆行転生前の王子は、私と婚姻する前に婚約破棄したのに。
結局、私とアーサーは、この後末永く人生を共に歩むこととなった。
病めるときも健やかなるときも、いつも私の隣にはアーサーがいた。
そして私たちは、王国史上に燦然と輝くオシドリ国王夫妻として、名を残したのだった。
――――ああ、腹立つ!




