結婚式? ……どうしてこうなった!
その後、結局私はドラゴンを飼うことになった。
いろいろ理由はあるけれど、一番の決め手はドラゴンが私以外の誰の指示にも従わなかったこと。
ドラゴンは高い知能と攻撃力を持つ最強の幻獣だ。
そんな存在の首に縄をかけられる人物がいるのなら、是非そのまま縄をかけていてもらいたいというのが、国王はじめ大多数の人間の総意だった。
…………まあ、その気持ちはわからないでもない。
そう、わからないでもないのだが、だからといって、なんで“こう”なったのだろう?
「うわぁぁ~、アマーリアさまぁ、とぉぉってもぉ、お綺麗ですぅぅ」
まん丸ぷにぷにの頬を真っ赤にし、両手を胸の前で組んだマリアが感激して叫んでいる。
白いふわふわのドレスに身を包んだマリアは、綿菓子のよう。
対する私も純白のドレスに身を包んでいた。
ウエストから裾に向かって華やかに膨らんだプリンセスラインのドレスで、見事な金糸で刺繍を施されたレースのロングトレーンが八メートルも伸びている。
ああ、ロングトレーンというのは、ドレスの後ろの裾が長く伸びていることよ。
よくウエディングドレスで見るわよね。
そう、八メートルなんていう着る人の忍耐を試すようなドレスは、ウエディングドレス以外ないわけで――――つまり私は、本日めでたくも結婚式を迎える花嫁になっているのだった。
マリアはブライズメイド――――花嫁付添人である。
(めでたくもなんともないわよ!)
私は心の中で愚痴る。
「まったく、どうして私がアーサーの妃になんてならなくっちゃいけないの! ものすごく不本意なんだけど!」
ああ、ついつい声に出てしまった。
私の声を聞いたマリアは目を丸くし、同時に背後から「ハハハ」という楽しそうな笑い声が上がった。
「相変わらずアマーリアは面白いことを言うな。俺の“婚約者”のお前が妃にならず、いったい誰がなるんだ?」
クックッと笑いながら近寄ってきたのは、アーサーだ。
花婿の彼の衣装は純白の軍服。金の肩章がキラキラと輝いている。
最高にカッコイイと思えるとか…………腹立つ!
ちなみにアーサーのアッシャー ――――花婿付添人はイアンだ。彼も白い軍服を着ているが、肩章のモールがアーサーの三本に対して二本で、飾の宝石も小振りだ。
「婚約なんていつでも破棄に応じると、ずっと言っていたのに」
「悪いがそれはできない相談だ。……逆に聞きたいが――――我が国どころか近隣諸国の中でも一二を争う『事業家』で、なおかつ孤児や貧しい平民を差別なく慈しみ、国民から『女神』と崇拝され、世界最強の幻獣ドラゴンの『ドラゴンマスター』――――な公爵令嬢を、婚約破棄できる王子がどこにいると思うんだ?」
顔をのぞきこまれながら尋ねられ、私はグッと言葉に詰まった。
「言っておくが、今言った称号の中のどれか“一つだけ”でも持っていれば、どこの王国でも諸手を挙げて王妃に迎えてくれるんだぞ?」
アーサーの言う通りだった。
反論なんて、できるはずもない。
つまり、私は今まで好き放題やってしまったことで、アーサーとの婚約破棄の可能性をことごとく潰してしまっていたのだった。
痛恨の極み。
後悔先に立たずとはこのことだろう。
もちろんアーサーから婚約破棄できないからといって、私から婚約破棄ができないわけではないのだが――――。
「おい、馬鹿なことは考えるなよ。俺以上にお前に相応しい男はいないんだからな」
とんだ俺さま発言である。
ただ悔しいことに、この発言は根拠のない妄言ではなかった。
先ほどアーサーの言った私への称号と、ほぼ遜色ないものを彼自身持っているのだ。
私が近隣諸国で一二を争っている『事業家』はアーサーだし、同じく孤児や貧しい平民を差別なく慈しむ彼は、国民から『神』と崇拝されている。
そして、昨年彼は、稀少な幻獣フェニックスを手懐け『フェニックスマスター』の称号もその手にしていた。
(フェニックスとか、逆行転生前は存在の欠片すら見えなかったのに……)
やっぱりここは前世とは、似て非なるまったく違う世界らしい。
要は、私たちはこれ以上無いほどにお似合いの夫婦になったのだった。




