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逆行転生した悪役令嬢だそうですけれど、反省なんてしてやりませんわ!  作者: 九重


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12/20

信頼? そんなもの得られるはずがないでしょう?

「え?」

「えぇ!?」

「えぇぇぇっっ~!!」


 アーサー、イアン、マリア、三人の驚愕の声が順番に響いた。

 洞窟だから反響して「えええええええ~!」という叫びが、周囲から大合唱になって跳ね返ってくる。


「ちょっと、五月蠅いでしょう? 声を出すなら周囲の環境を考えてからにしなさいよ」


 耳を押さえながら私が文句をつければ、三人とも不服そうに睨み返してきた。


「ドラゴンなんて聞いて、そんな配慮できるはずがないだろう」

「本当にドラゴンなのか?」

「ふわぁぁ~っ! だったら大きいはずですねぇ」


 三人いっぺんに話されても、いちいち聞き取れるはずがない。

 もっとも、彼らの言うことなど粗方予想がつくから、わざわざ聞く必要もないけれど。


「さあ、さっさと行きましょう。ドラゴンの卵は今から五年後に孵化する予定なの。その前に討伐するのが今回の目的ですからね」


 そう、今から五年後に、この洞窟の奥でドラゴンが誕生する。



 ――――ドラゴンとは、太古の昔からこの世界に存在する幻獣の一種。

 硬い鱗に覆われたトカゲに似た体に、二枚のコウモリの羽を有し、鋭い牙と額に一本の角を持つ生き物。

 身の丈は、頭の先から尻尾の先までおよそ十メートル。

 見上げるほどの巨体なのに、その動きは俊敏で高い知能も持っている。


(つまり、敵認定されたらすごく厄介な生き物なのよね。なのに、逆行転生前は、聖女の味方につかれて、とっても苦労したわ)


 親兄弟以外は、たとえ同族であっても心を許さないと言われるドラゴンが、唯一親愛の情を向けるのが聖女なのだ。

 理由は一切解明されていなかったが、それが事実であることを、前世で私は思い知らされている。


(まったく忌々しいったらなかったわ。ドラゴンのおかげで、何度苦渋を舐めたことか! だから今回はドラゴンが生まれる前に葬ってしまうのよ!)


 ドラゴンは、生み落とされてから十年間は孵化しない。

 つまり、五年後に誕生するドラゴンは、今はまだ卵の状態なのだ。

 いくら最強の幻獣でも、卵であれば手も足も出ないに決まっている。


「イアン、あなた、家宝のドラゴンスレイヤーの剣は持ってきてくれた?」


 ハワード伯爵家の先祖は、ドラゴンを退治したことで有名だ。


「あ、ああ。お前がどうしてもって言うから、仕方ない。持ってきてやったぞ! ……これで、今までの、俺の連敗記録はなかったことにしてくれるんだな?」


「もちろん。私は、約束は守るわよ。これで私たちは“対等”ね」


 記録はなかったことになっても、負けた記憶はなくならない。

 表面上は“対等”でも、イアンの中で、私の優位性は揺るぎようもないはずだ。

 この程度のことで、ドラゴンスレイヤーを持ち出してくれるなんて、本当にイアンはチョロイ――――もとい、扱い易い子どもだ。


「よし! これで、スタートラインに立てるぞ!」


 内心、笑っていれば、イアンは両手で拳を握って、そう言った。

 どうやら、彼なりに何か意図があったらしい。

 いったい、何のスタートラインに立つつもりなのだろう?


(気のせいかしら、アーサーを睨みつけているみたいだけど?)


 ……まあ、二人の間のことならば、私は関係ないはずだ。好きに争ってもらってかまわない。

 アーサーは、疲れたように頭を抱えた。


「だから、一人にしておけないんだ」


 ポツリと呟いた言葉は、意味不明だ。

 ひょっとして、一人にしておけないというのは、私のこと?

 なにがどうしてそういう考えに至ったのかはわからないが、余計なお世話である。


 そもそも、今回の計画にアーサーは不要だったのだ。

 最低限必要だったのは、イアンとドラゴンスレイヤーの剣で、万が一の予備がマリアだ。

 マリアは、腐っても聖女の可能性を秘めた少女。

 なり損ないでも聖女は聖女なのだ。

 本当に危険になったときには、マリアをドラゴンの生け贄にして逃げる作戦を私は立てていた。


(まあ、相手は卵なんだから、用心の上の用心なんだけど)


 とはいえ、そんなことを馬鹿正直にマリアに告げるわけにもいかない。


「マリア、あなたは荷物持ちよ。孤児院の院長先生に、一番運動させなきゃいけない孤児は誰ですかって聞いて、あなたを推薦してもらったんだから。しっかり働いてね」


「えぇぇ~? それって、ヒドいですぅ~。私より太っている子は、いっぱいいるんですよぉ」


「文句は院長先生に言いなさい。さあ、さっさと行くわよ」


 私が先頭に立って歩き出せば、イアンもマリアも仕方なくついてくる。


 そして、何故かアーサーが私の隣に並んだ。


「ドラゴンとは、やっぱりお前は目を離せないな」


 楽しそうにそんなことを言ってくる。

 誰も頼んでないので、離してもらって結構だ。


「本当に一緒にくるつもりなんですか?」


「言っただろう。お前に信じてもらえるように努力すると。ここで帰ったら、お前の信頼が得られるのか?」


 帰ろうが帰るまいが、信頼なんて得られるはずがない。


「はい。とても信頼しますから、どうぞお帰りください」


「しらっと嘘をつくな!」



 どうやら信頼は双方向で無いようだ。

 仕方ないのでこのまま進むことにした。

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