婚約者? それくらい儚い関係はありませんよね?
片手で私を支え、片手でランタンを持つ王子さまは、私より高い位置になった顔に、昔ながらの脳天気な笑みを浮かべる。
――――私が事業を興してから、既に五年。
アーサーと私は十歳となり、王侯貴族の基準では子どもとは呼べない年齢になっていた。
ほぼ一緒だった身長は、とっくの昔にアーサーに抜かれ、美少年っぷりに磨きがかかっているのが……腹立つ!
(早ければ、王侯貴族なら結婚してもおかしくない年頃だものね。まあ、私とアーサーは、一生結婚なんてことにはならないけれど!)
私は、ブンとアーサーの手を振り払う。
あっさり手を離したアーサーは、ヒョイッと肩を竦めた。
「そりゃぁ、アマーリアが、一人で別荘に行くなんて言い出すからだろう。こういうときのお前は、きっとまた何かとんでもないことを企んでいるんだ。婚約者として、それを見逃すわけにはいかないだろう?」
わけのわからない理屈である。
「人を、始終悪巧みをしている人間みたいに言わないでください。あと、たとえ何を企んでいたとしても、殿下に見ていただく必要はありませんわ」
「婚約者なのにか?」
「婚約者くらい儚い関係はありませんもの。破棄すれば、あっという間に他人ですから」
しかも、その後直ぐに処刑に送った奴もいる。
他ならぬ、目の前のこいつだ。
我ながら冷たい表情になったのだろう、アーサーは傷ついたような顔をした。
「――――破棄なんてしない」
私はフンと鼻で笑う。
「今は何とでも仰ってください」
いずれ、言を翻すのは、こいつだ!
「どうして信じてくれないんだ?」
「信じられる要素が何もないからですわ」
逆行転生する前と今とでは、かなり状況が変わってしまっているが……それでも私がアーサーを信じるなんてあり得ない。
アーサーは、一時下を向いた。
しかし、直ぐに顔を上げてくる。
「わかった。じゃあ、俺はお前に信じてもらえるように、もっと努力すればいいんだな?」
とんだ前向き思考である。
呆れていれば、ニカッと笑ったアーサーが、距離を詰めてきた。
「で、何を企んでいるんだ? この先には何がある?」
ワクワクした表情で聞かれても困ってしまう。
どう答えれば諦めて帰ってくれるのだろうかと考えていれば、アーサーのさらに後ろから別の声が聞こえてきた。
「たしかに、そろそろ目的を教えてもらってもいい頃だな」
「そうですよう~。なんで私まで、こんなところにこなくっちゃいけないんですかぁ?」
声の主は二人。
一人は、スラリと伸びた長い手足とスッキリとした顔立ちが印象的な黒髪黒目の少年だ。
もう一人は、少々ポッチャリ体型な少女。フーフーと息を切らし、白い頬を赤くしている様子は、頬袋をパンパンにしたリスかハムスターに似ている。
明るい茶色の髪とハシバミ色の目が、小動物っぽさをますます高めているのかもしれない。
そう、先ほどアーサーは、私が一人で行動しているような言い方をしていたが、決してそんな事実はなかった。
論より証拠がこの二人で、彼らは私の同行者だった。




