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あれからのことを少しだけ話しておこう。
先輩から少し遅れて、僕も屋上へと向かった。積もる話もあるだろうと、屋上の入り口のところで待っていると、不意に鉄の扉が開き、雪が顔をのぞかせた。
二人がどんな話をしたのかは見当もつかない。ただ、雪はいつものようにベンチに座って、遠くから聞こえてくる野球部の掛け声に耳を傾けていたように思う。
一方で僕は、雪に随分と恨まれてしまった。一生懸命話しかけたのだが、半眼を向けられるばかりで、ただの一言も交わさなかった。翌日も、そのまた翌日も。
結局、雪とは毎日のように顔を合わせていたけれど、彼女と再び会話をし始めたのは、ひと月以上もあとになってからだった。
彼女は、医者になることにした、と呟いた。
僕は、野球を続けることにする、と返した。
それからも僕達は同じようにお昼休みは屋上でご飯を食べ、放課後は二人で出歩いた。時には雪が僕の家に来ることもあったし、僕が雪の家に行くこともあった。
僕達は少しずつ、それまでとは違うことをしようとしていたのだと思う。
雪の成績が落ち始めたのはその頃からだった。それは悪いことではなくて、彼女がこれまで経験したことがないようなもの――つまりは家族との時間だったり、我が家での騒乱だったり――が、彼女の虚無を埋めた結果だろう。それまで彼女は空っぽの時間を勉強に充てていたけど、その時間が減れば減るほど勉強する時間も減っていき、まあ、深川には勝てなくなった。
僕達は順調に高校二年生になり、三年生になり、やがて卒業した。僕は中堅の運送会社に入った。雪は受験のため、海外に居を移すことになった。
雪が旅立つ日、僕は空港まで見送りに行った。雪は泣きそうになっている父親を、恥ずかしがっていた。
二人きりになったタイミングで、君のことが好きなんだ、と言うと、雪はそっぽを向いた。聞こえてないのかと思ってもう一回言ったが、ますます顔を背けてしまった。そして、すぐに雪の父親が戻ってきて、出発の時間になり、そのまま搭乗口へと消えていった。
残念ながら今もって返事はもらえていない。ただ、それ以外のことは何でも答えてくれるので、まだ関係は続いている。




