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 ふと、ざわめきの音が大きくなった。

 高砂から一番遠い席からは、出席者の七割ほどが集まっているように見える。どこかの凄い書道家にでも書いてもらったのか、藤村君結婚おめでとう、という文字は荒々しく、まるで先輩の人となりを現しているようであった。

 披露宴に出ることはたまにあるけれど、ここまで大掛かりなのは初めてだ。席次表を見る限り、今日の出席者は二百人以上いて、つまりはそれだけの準備がされている。

 まだ、ほとんどの人は椅子に座らず、男同士、あるいは女同士で集まって何かを話している。テレビで見る顔が実際に目の前にあっても、案外、現実感はないものだ。

 流れてくる話は、藤村先輩のことだった。

 高卒後すぐにプロ入りし、壁に当たって伸び悩んだ。一度は首も囁かれたが、去年、ブレイクし、今年も成績を維持したという。

 先輩は天才だ。でも、天才の中に入ると凡才でしかなかった。その事実は、彼自身がいつか話してくれた認識と、いささかも違ってはいなかった。

 それにしても、百人以上の人がすでに集まっているというのに、僕の周りは空っぽだった。類は友を呼ぶ、という言葉は恐ろしいほど現実と合致している。残念ながら僕の友人達は時間にルーズらしい。

 披露宴の開始時間が近づいてきて、ざわめきと慌ただしさは加速度的に増していく。もう会場に入ってくるものはまばらだったが、その中にようやく、僕と同じ席の奴を見つけた。

「深川」

 昔から整った顔立ちをしていたが、年を重ねて貫禄が増し、ますます人の目を引き付ける眉目秀麗の男になった。

 彼が笑うと、テレビでよく見る華やかな男女も、何事かと振り返る。今や一国一城の主だ。学生時代に起業したかと思えば、その会社を売り、二社、三社と新しく会社を設立するに従って、規模が大きくなっていた。今や業界内では知らぬ者のない、若い実業家の一人なのである。

「珍しいこともあるもんだな。先に来ているなんてさ」

「あの時間に正確な秘書さんはどうしたの?」

「バカンス。セブ島だって」

 僕達は高校を卒業してからも付き合いが続いていた。生きる世界はまるきり違っていたが、どちらもそれぞれの世界に浸ることが出来なかったからだろう。

 それに、僕の心境に変化があったことも大きかった。

 あの日、つまりは曲がりなりにも藤村先輩に勝った日、僕の人生は少しだけ前進した。

 藤村先輩と僕の対戦は、多くの人が目にするところとなったらしく、あの日の昼には騒ぎになって、野球部員達が真偽のほどを確かめに来るほどだったのだ。

 その後、藤村先輩からだけではなく、野球部の顧問からも直々に入部のお誘いはあったが、断ってしまった。今更、甲子園に行きます、とは言えないくらい、僕は野球から遠ざかり過ぎていた。

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