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 背もたれに体を預ける。大きく息を吐くと、体中にじーんと痺れが走った。指先が冷え切っている。何度もこするが、血が通っていないみたいで、微かに震えていた。

 屋上前の踊り場は静かで、遠くの音も聞こえることがある。

 きゅっきゅっ、とゴムの靴底がこすれる音がしている。誰か忘れ物でもしたのだろう。このお祭りの日に、何とも不運な奴だ。

 でも、その足音は、段々と大きくなってくる。屋上へと続く階段を、一歩ずつ、確実に上がっている。

 一気に心臓が跳ね上がった。こんな日に、屋上に来る奇特な奴がいるだろうか。

 足音はどんどんと高く、大きくなる。軽やかで、どこか楽しげに聞こえる。僕の心臓の音は、耳の奥で嫌にうるさく、僕は何度も唾を飲み込んだ。

「こんなところで、何をしているの?」

 不意に足音が止まり、遥か下方から聞き慣れた声がした。

「孤独を味わいたかったのさ」

「相当、心が弱っているわね」

「同じ気持ちの君には言われたくないな」

 雪は鼻で笑い、一緒にしないでよね、と呟いた。彼女は屋上のカギを持っているのだ。僕の脇を抜け、その重たい鉄の扉に鍵を差し込んだ。錆びたざらつく音がして、ゆっくりと鍵穴が回り、それから冷たい風が吹いてきた。

「こないの?」

「一人になりたい気分かと思って」

「そういう時でも、愛する人は一人に換算されないものよ」

「そうか。じゃあ、僕は幽霊か」

「生前はどんな苦労をしたの?」

「木の下にひっそりと生えている毒キノコみたいな生活をしていたのさ」

 菌糸類か、と言った時の雪は、どこか楽しげで、優しく目を細めていた。

 風でたなびいた髪の奥に、雪の柔らかな表情がある。扇情的で、生々しい生命力が太陽によって際立っている。学校で見せる冷淡な表情と、そして今、僕に見せている表情と、それらが上手く絡み合い、彼女の本質が、今、目の前に提示されていた。

 差し出された手を取ると、雪の指先は思わぬほど冷たくなっている。僕は逆に熱くなっていた。心臓の音が、相手に聞こえてしまわないだろうか。

「いよいよね」

「結局、どんな人かは教えてもらえなかったね」

「私は嫌い。人は好きというわ」

「その中間にいられるように、努力をしてみるよ」

 僕の手を握った雪は、いつもと違って野球グラウンドの方を見ていた。三、四十人の集団がノックを受けている。甲子園を狙うチームは、普段の練習から、あっと言わせるようなことをしている。手品みたいにバッティングゲージが用意され、打撃練習が始まる。一番の飛ばし屋である藤村先輩は、今日は精彩を欠いているようだ。

「きっと、作戦があるのね」

 雪はそう信じて疑わない。どうだろう。屋上からは遠すぎて見えない。

 金網に手をつき、夏に向けて加速度的に上昇するグラウンドの熱意を、雪は黙然と見つめていた。その視線は、たった一人に注がれているに違いない。

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