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「なんで体操着?」

 昼休み、いつもと同じように待ち合わせ場所の屋上で、雪と昼ご飯を食べた。

 結局、あのあと、僕達は学校に戻ってきた。先輩はともかく、僕は先生方にこってりと絞られ、汗だくの制服は、昨日持って帰りそびれた体操着に替えさせられたのだった。

「君には知られたくない、もろもろの事情があったんだよ」

「先輩がらみでしょ?」

「何故分かった」

「それ以外で隠す必要のある事情なんてないもの」

 僕は薄っぺらいサンドイッチを手の中で丸めて口に放り込み、一気に咀嚼して飲み込んだ。

「ちょっと、野暮用だったんだ」

「ホームラン打たれるのが?」

「そこまで見てたの?」

「嫌でも見えるのよ。あなた、楽しそうだったわ」

「必死なんだよ、生きるのに。どうしても抑えたかったんだ」

 出来たの? と聞いてこないところが雪の美徳だと思う。

 雪は、お行儀よく一口大の小さなおにぎりを食べ、お弁当を片付けた。

「今日、スーツができるらしいわ」

「一緒に行こうか」

「いい。当日は私があなたの家まで迎えに行くわ。それで、そのまま我が家で夕食会よ」

「……楽しみだね」

「本当に思っているならキスでも何でもして。思ってないなら、溜息でもついて」

 僕は溜息をついた。

 それにしても、体がくたびれている。朝っぱらからへとへとになるまで投げたせいだと分かってはいても、それだけは認めたくなかった。昔の僕は、一試合投げ切ったって疲れ知らずだったのだ。若い頃よりも劣っているという事実を受け入れるには、僕はまだ幼すぎた。

 それでも、大きなあくびをしてしまった。

「寝ててもいいわよ。休み時間が終わる頃に起こすわ」

「いいよ。授業中にでも寝るから……」

「いよいよ、成績も危険水準に入ってくるんじゃない?」

「馬鹿だな。人間は進化しているんだよ……。過酷な環境でも生きられるように、適合するはずさ……」

 いよいよもって瞼が重たくなってきた。

 眠気がない頃は何ともないのに、うとうとし始めると意思が弱くなってくる。ちょっとくらいならいいか、なんて考え始めると、もうおしまいだ。

 雪がまだ何かを言っていた。上手く答えられているだろうか。何か、ぶつくさと返している気がする。自分のことなのに、どこか遠くの出来事のようだ。舟をこぐとはよく言ったものである……。

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